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患者支える唯一無二の薬 インスリン発見100年 血糖の自己管理を可能に

2021.4.25 0:00
 血糖値を一定に抑える働きをするホルモン「インスリン」が1921年、カナダ・トロントで発見されて今年でちょうど100年。糖尿病患者は、インスリン製剤を含む治療の進歩によりほかの人と変わりなく暮らし、長寿を迎えられるようになった。ただ、インスリンの分泌が枯渇した1型糖尿病では、インスリン注射薬が今でも命を救う唯一無二の薬であることは変わらない。発見の経緯と現状をまとめた。
初めて抽出に成功したインスリンで治療した糖尿病の犬を前にするバンティング(右)、ベスト両氏=1921年(ゲッティ=共同)
初めて抽出に成功したインスリンで治療した糖尿病の犬を前にするバンティング(右)、ベスト両氏=1921年(ゲッティ=共同)

 ▽2人の工夫で

 インスリンは膵臓(すいぞう)にある「ベータ細胞」から分泌され、血糖を下げる機能を持つホルモンだ。
 幼少期から青年期に発症頻度が高い1型(若年性)糖尿病はインスリンの分泌がなくなり、長らく有効な治療法がなかった。だが、病気の原因が膵臓にあることが判明。世界中の研究者が関連物質の発見、抽出にしのぎを削った。
 発見の立役者はフレデリック・バンティング医師と、トロント大大学院生のチャールズ・ベスト氏。2人は、抽出が難しいのは、膵臓から分泌される消化酵素がインスリンを壊すからだと考え、酵素に触れない工夫や低温での処理を施して犬の膵臓からインスリンを含む成分の抽出に成功した。
 両氏は抽出物を糖尿病の犬に注射して延命できることを確認。翌年には患者に初めてインスリンが投与され、同年、製薬会社による大量生産も始まる。バンティング氏はこの功績で講座の教授と共に23年、ノーベル医学生理学賞を受賞した。
 当初のインスリンは精製が不十分で効果がばらつき、効き過ぎることで低血糖も招いた。それでも、投与した患者は血糖値が下がり、延命が初めて可能になった。
 ▽注射と血糖測定
 インスリン注射薬は間もなく日本にも届く。
 日本糖尿病学会50年史「糖尿病学の変遷を見つめて」によると、23年には日本の患者へ投与を開始。30年代には国産品も発売された。
 とはいえ、全ての患者に行き渡るには時間がかかった。実際に1型糖尿病患者の多くが入手可能になったのは輸入品が出回った50年代だという。
 
 

 

 日本の患者のインスリン注射薬普及で大きな壁となったのが、自己注射の保険適用だ。欧米では70年ごろには普及し、患者は病院を出て生活することが可能になったのに、日本ではなかなか認められなかったのだ。
 保険適用を求め、日本糖尿病協会を中心に全国で署名活動を展開。しかし、医師以外が注射をすることには異論が強く、ようやく実現したのは10年後の81年にずれ込んだ。
 今は他の疾患にも広く認められている患者の自己注射は、インスリン注射薬が先鞭をつけた格好。86年には少量の血液で血糖を自己測定することも保険適用された。
 ▽生活充実のため
 発見からこれまで、遺伝子工学によるヒトインスリンが従来の動物由来の製品に取って代わり、超速効型など効き目の速さや持続の異なる多様な製剤も開発されてきた。
 一方で、90年代の米国での大規模な研究により、腎症や目の網膜症など1型糖尿病患者の合併症のリスクの高さと、それを防ぐ血糖管理の重要性が明らかにされた。
 今では血糖を随時測りながら、自分の食事や暮らしに合わせたインスリン製剤を選んで自己注射することは、良好な血糖コントロールのための患者の欠かせない日常になっている。
 糖尿病が専門の内潟安子東京女子医大東医療センター病院長は「生きるための薬から、より良く生きるための、生活を支える薬になった。患者は医師と相談して製剤をうまく活用し、人生を充実させてほしい」と話した。(共同=由藤庸二郎)

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