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【編集後記】Vol.362=「コーチと教え子」

2021.4.1 13:24 宍戸 博昭 ししど・ひろあき
関東大学リーグ1部BIG8からの再出発となった2019年秋季リーグの開幕戦で学生に話しかける日大の橋詰功監督
関東大学リーグ1部BIG8からの再出発となった2019年秋季リーグの開幕戦で学生に話しかける日大の橋詰功監督

 

 いいコーチは、教え子を心底愛す。いいコーチは、見返りを求めない。いいコーチはコミュニケーションを大切にして、逃げることなく現実と向き合う。

 「部活」である大学や高校の場合、日本一や優勝といった最終目標に届かなくても、そこで費やした師弟の共通の時間がいかに充実したものであったかが、重要な意味を持つ。

 

 昨シーズン、日大を3年ぶりの甲子園ボウル出場に導いた橋詰功監督が就任当初、指導法を巡って学生と対立していたという事実は、これまでにも小欄で紹介してきた。

 新監督が掲げる指導方針では勝てないと迫る学生に、橋詰さんはこう言ったそうだ。

 「こっちは人生をかけているんだ!」。だから心配しないで、俺について来いということである。

 この一言で、勝負はあった。チームは同じベクトルに向かって歩みだす。

 

 甲子園ボウルではライバル関学大に敗れたものの、「昔と同じように、学生が自分たちで考える日大の強さを感じた」と話すファイターズの関係者は少なくない。

 「この人は我々を勝たせたいのではなく、自分が優勝監督になりたいのだ」と教え子が感じたら、その時点でチームは前に進まなくなる。

 橋詰さんへの不満を口にする急先鋒だった昨季までのエースQB林大希さんは、自身のSNSで「この一年は、橋詰さんに夢中でした」と打ち明けている。

 その林さんは、シーズン終了後も東京・桜上水にある日大グラウンドに足を運び後輩の指導に携わり、社会人になった4月からもコーチ役を買って出ているという。

甲子園ボウルの試合前にオフェンスメンバーの士気を鼓舞する日大QB林大希選手=2020年12月13日、阪神甲子園球場
甲子園ボウルの試合前にオフェンスメンバーの士気を鼓舞する日大QB林大希選手=2020年12月13日、阪神甲子園球場

 

 ただ、橋詰さんは契約期間が満了する8月までに退任する意向だ。

 今年1月に、大学側から契約を延長しないとの通告があったからだが、後任はまだ決まっていない。

 

 橋詰さんによれば、今年の新1年生には有望な人材が多いという。

 春は法大、明大、立教大、Xリーグのアサヒビール・シルバースターなどとの試合が予定されていて「そこで活躍する新人選手もいると思う」と楽しみにしている。

 

 思いを残し秋のシーズンの開幕前にチームを去る監督と学生の間に、微妙な空気が存在するのは否めないが、紆余曲折を経て一つのスタイルを確立した「橋詰フェニックス」の4年目がスタートした。(編集長・宍戸博昭)

宍戸 博昭 ししど・ひろあき

名前 :宍戸 博昭 ししど・ひろあき

プロフィール:1982年共同通信社入社。運動記者として、アトランタ五輪、テニスのウィンブルドン選手権、ボクシングなどスポーツ全般を取材。日本大学時代、「甲子園ボウル」にディフェンスバック、キックオフ、パントリターナーとして3度出場し、2度優勝。日本学生選抜選出。NHK―BSでNFL解説を20年以上務めている。

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