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【編集後記】Vol.361=「桜咲く春」

2021.3.11 13:02 宍戸 博昭 ししど・ひろあき
本格的な春の訪れを待つ東京・駒沢オリンピック公園
本格的な春の訪れを待つ東京・駒沢オリンピック公園

 

 春になると思い出す。大学1年の4月。当時の新チームは、たまたま上級生に人材がいなかったこともあり、新人レシーバーにレギュラーポジションが与えられた。

 

 1軍メンバーは、1年でも3、4年と一緒に合宿所で生活するしきたりになっていた。

 合宿所では炊事当番などの雑用は一切免除されたが、練習中の緊張感は同じグラウンドで見ていた高校時代の想像をはるかに超えるものだった。

 

 走る。当たる。いつ終わるか分からない反復練習が延々と続く。試合形式の練習で少しでも気を抜けば監督、コーチから容赦なく叱責される。

 「新人でも、1軍は1軍のプレーを要求するからな!」―。

 

 母親が合宿所に送った布団は、しっかり先輩の部屋に敷かれていた。代わりにかび臭い綿がはみ出した布団が2枚、床に放置されていた。

 「すごいところに来ちゃったな」と後悔しても、時すでに遅し。マッサージをしていた先輩が、気持ちよさそうに寝息を立てたのを見計らって、せんべい布団にくるまって眠りに落ちる。

 

 さまざまな性格の人間がいる中で、どう対処していくかを学ぶのが集団生活だ。

 練習中はとても怖い先輩が、一歩グラウンドを離れると実は気配り上手だった。いつも苛立ち、近寄りがたい人もいた。

 大学のクラブは「生活の知恵」を身につけるにはうってつけの場所だった。

 

 理不尽がまかり通り、今の時代に当てはめたらほとんどが通用しないことばかりだろう。

 でも、そこで考えるのは「自分がここで生きていくには、どうしたらいいのか」という自我の形成についてであり、同時にチームの目標である「勝利」を手にするための、合理的で主体的な行動を意識するようになる。

 

 大学の恩師は、オーバーコーチングをしない人だった。学生に考える余地を与え、その結果遠回りするような事態になっても、それを見守っていた。

 選手としての技術の習得とは関係なさそうなトイレやロッカールームの清掃を、集中して手際よくこなすことがいかに大切かを知ったのは、けがをして雑用係に専念した時だった。

 

 どんな出会いが待っているのか。桜咲く春は、フレッシュマンにとって心躍る季節であってほしい。(編集長・宍戸博昭)

宍戸 博昭 ししど・ひろあき

名前 :宍戸 博昭 ししど・ひろあき

プロフィール:1982年共同通信社入社。運動記者として、アトランタ五輪、テニスのウィンブルドン選手権、ボクシングなどスポーツ全般を取材。日本大学時代、「甲子園ボウル」にディフェンスバック、キックオフ、パントリターナーとして3度出場し、2度優勝。日本学生選抜選出。NHK―BSでNFL解説を20年以上務めている。

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