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悲運のドラフト1位QB ワシントンを退団するアレックス・スミス

2021.3.10 11:42 生沢 浩 いけざわ・ひろし
ワシントン・フットボール・チームを退団することになったQBアレックス・スミス(AP=共同)
ワシントン・フットボール・チームを退団することになったQBアレックス・スミス(AP=共同)

 

 NFLで今週最大のニュースは、カウボーイズのQBダック・プレスコットがリーグ史上最高額の契約ボーナス(6600万ドル)を含む、総額1億6000万ドル(約173億円)の内容で4年間の契約延長に合意したことだろう。

 

 ただ、今週はその陰で同じNFC東地区で事実上の戦力外通告を受けて退団した一人のQBにスポットライトを当てたい。アレックス・スミスだ。

 

 

 スミスはレッドスキンズ(現ワシントン・フットボール・チーム)にトレード移籍した2018年シーズンの中盤に、右脚すねの骨を折る重傷を負った。

 

 当時は選手生命が危ぶまれるどころか、右脚の切断まで考慮されるほどの大けがだった。

 

 その後、17回もの手術が施され、生命の危険もあった感染症を克服して懸命にリハビリを行い、昨年10月に試合復帰を果たした。

 

 先発した試合では5勝1敗の好成績を残して、7勝9敗ながら地区優勝したチームに大きく貢献した。シーズン後には「カムバック・プレーヤー・オブ・ザ・イヤー」にも選出された。

 

 

 しかし、バッカニアーズと対戦したプレーオフ1回戦では、故障欠場したスミスの代わりに先発したテイラー・ハイニキーが予想外の活躍をみせ、試合には敗れたものの首脳陣から高い評価を受けた。

 

 2021年シーズンはこのハイニキーとカイル・アレンに先発ポジションを争わせるというのがロン・リベラHCとマーティン・メイヒュー新GMの方針だ。

 

 ハイニキーは既にチームとの契約を2年延長している。5月に37歳となるスミスは、ワシントンの戦力構想には入っていなかった。

 

 それを感じ取ったスミスが自ら放出を申し入れ、リベラHCとの会談を経て退団が決まった。

 

 

 思えばスミスはいつもこのように、チームで実績を残しながらも若手の台頭でチームを追われるという不運に見舞われてきた。ある意味でNFLの非情さを象徴するかのような存在だ。

 

 スミスは2005年のドラフトで49ersから1巡指名を受けて入団した。

 

 ユタ大学で好パサーとして鳴らしたスミスは、伝統あるチームでジョー・モンタナやスティーブ・ヤングの後継者になることを夢見たに違いない。

 

 

 ところが、実際にはスミスは最初の5年間は先発ポジションを確保できず、期待外れのレッテルを張られてしまう。

 

 それは必ずしもスミスだけの責任ではなかった。当時の49ersは低迷期にあり、HCが目まぐるしく交代した時期だ。

 

 若いQBにとって最も重要な指導者である攻撃コーディネーターも、彼の入団から5年間で5人が入れ替わった。

 

 毎年のように異なるシステムでのプレーを強いられたスミスは、やがて彼よりも23番遅く指名されたアーロン・ロジャース(パッカーズ)に大きく水を開けられるようになる。

 

 

 そんなスミスに転機が訪れたのは2011年だった。NFLでQBとして活躍したジム・ハーボウ氏がHCに就任したのだ。

 

 ハーボウ氏が連れてきたグレッグ・ローマン攻撃コーディネーターとの相性が良かったのか、スミスは翌年の2012年にはチームを開幕から5勝2敗の好スタートに導いた。ところがこの成功も長くは続かなかった。

 

 

 脳しんとうで欠場する間にコリン・キャパニックが台頭したのだ。脚力のあるキャパニックは、ローマンの独創的なプレーコールに見事にマッチした。

 

 ピストルフォーメーションからのオプションを駆使したキャパニックは、18年ぶりにスーパーボウルに進出した49ersの原動力となった。

 

 

 正QBの座を失ったスミスはチーフスに移籍する。ここでもHCに恵まれた。

 

 アンディ・リードHCは、ショートからミドルレンジで正確なパスを投げるスミスの能力を存分に引き出し、活躍する環境を整えた。スミスも5年連続でチーフスをプレーオフに導くことでそれに応えた。

 

 

 

 NFL入りしてから最も活躍できたのがチーフスでの5年間だったかもしれない。

 

 しかし、それは世代交代によってピリオドが打たれる。パトリック・マホームズの登場である。

 

 

 マホームズはドラフト1巡指名で入団した2017年こそ、レギュラーシーズン最終戦を除いて先発出場はなかったが、翌年には開幕先発に昇格した。

 

 スミスは再び若いQBに押し出される形でトレードによって放出されたのだった。

 

 ワシントンでの1年目は6勝3敗の滑り出しだったが、好事魔多し。先述のけがによって、長期の戦列離脱を余儀なくされることになる。

 

 

 

 スミスが再び先発候補としてチームに招かれる可能性は残念ながら高くない。

 

 しかし、これまで多くのオフェンスシステムを経験してきたスミスは、バックアップ兼若いQBの指導役としては格好の人材だ。

 

 ベテランらしいリーダーシップにも定評がある。まだNFLで貢献できる場所は用意されているはずだ。

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

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