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【第12回(中国)】住宅求め偽装離婚 上に政策、下に対策

2017.7.5 13:25
住宅を購入するため偽装離婚した夫婦。子どもには離婚の事実は伝えていないという=北京(撮影・八田尚彦、共同)
住宅を購入するため偽装離婚した夫婦。子どもには離婚の事実は伝えていないという=北京(撮影・八田尚彦、共同)

 家族の幸福のためだ。便宜的対応にすぎない。北京の外資系企業社員、王欽明(41)=仮名=は自分に言い聞かせるが、割り切れなさが残る。

 最近、同い年の妻と離婚した。王は全国で増える「偽装離婚族」の一人だ。住宅がない市民への優遇策を利用するため、夫婦関係が続いているのに法的に離婚する例が北京、上海、広東省深圳など中国の「一線都市」で急増している。

 一家は9歳の長男も含め3人で、今も仲良く暮らす。住宅購入が済めば、直ちに籍を戻す予定だが「たかが法的手続きと、どうしても思えない。神聖であるべき結婚を汚した。人生に消せない傷をつけた」。「長男には一生言えないよ」。笑顔が少しゆがんだ。

 人は楽しいときにだけ笑うわけではない。時に愚かしい現実を受け入れざるを得ないとき、あきらめと後ろめたさの中で苦笑する。

 夫妻は長男のため「環境のいい」学区で住宅購入を希望。既にマンションを2件持っていたが、それを離婚した妻に移譲し、自分が新たに住宅を取得すれば、ローン頭金は半分、取得税も優遇される。「優遇額は数十万元(数百万円)で、数年分の年収に相当する。他に選択肢はなかった」

 
 

 ▽乗り遅れるな

 深圳では2015年、離婚件数が前年比で46%増えた。最近の離婚率は北京が39%、上海と深圳が各36%と、住宅価格が高い都市ほど高い。住宅購入のための偽装離婚が数字を押し上げている。
 背景には、すさまじい不動産バブルがある。北京では08年五輪前後と比べ、資産価値が十数倍になった人も珍しくない。「乗り遅れるわけにはいかない」(30代の会社員)のだ。

 「きょう、夫と籍を入れ直した」と、すがすがしい笑顔を見せる山西省出身の宋克華(34)。天津出身の夫と北京市郊外にマンションを所有しているが、自宅近くの学校は評判が悪く、3歳の長男の進学を見据え、新規に住宅を買う必要に迫られた。

 「買おうと思っていた部屋は15年に1平方メートル4万元(約65万円)だったが、1年後に2倍になった」。高騰を続ける住宅価格を横目に購入を急ぐことにした。

 「上に政策あれば下に対策あり。離婚はしたくなかったけど他に方法がなかった」。「中国社会の競争は激烈。子どもにいい教育を受けさせなければ」と説明する。

 「夫婦げんかをしても、離婚をほのめかしたことさえない」。夫は涙を浮かべ偽装離婚に反対したが半年かけて説得した。

 笑顔の宋だが「今だって心の底は痛みが残っている」と打ち明ける。「本来、こんなことするべきじゃないと思う。だけど、私たちは中国の国情に合わせて生きていくしかない」

 中国の古典「春秋左氏伝」に「おぼれる人は必ず笑う」とある。あらがえない状況を、あえて笑うことは昔から庶民の知恵なのかもしれない。

婚姻登記所で離婚手続きに並ぶ人たち=中国・上海(撮影・八田尚彦、共同)
婚姻登記所で離婚手続きに並ぶ人たち=中国・上海(撮影・八田尚彦、共同)

 

▽信頼関係

 偽装離婚については、籍を戻さない元妻を夫が訴え、裁判になるなどトラブルも少なくない。稼ぎ手である夫が妻に住宅の権利を譲渡して離婚する例が多いため、復縁できないと夫が全財産を失う恐れもある。夫には「笑えない話」だ。

 最近、北京に住宅を購入した自営業の張金平(42)=仮名=は「夫婦の信頼関係がなければ、偽装離婚はできない」と強調する。

 張も偽装離婚した。6歳の息子が小学校に進学すると、現在の住宅では学校まで往復で4時間もかかるため、家を新規購入する必要があった。

 「家のために離婚するのは悪い冗談のような気もした」と張。金婚式を楽しみにしているが、離婚で中断期間が入ることになり残念だという。だが「今後も20代、30代による首都の住宅需要は衰えることはない。住宅価格は底堅く、安定した投資だ」とも話し、後悔した様子はない。

北京のマンション群(撮影・岩崎稔、共同)
北京のマンション群(撮影・岩崎稔、共同)

 

▽物質至上主義

 中国では過去にも偽装離婚や偽装結婚が流行した。「文化大革命」が1976年に終了した後、都会から「下放」され、農村で結婚した夫婦は都会に戻る際に1人の子どもしか都市戸籍を認められなかった。このため、偽装離婚して都会に戻るケースが続発した。

 80年代には一部の国有企業が、夫婦にしか住宅の払い下げを認めなかったため、住宅を得るために偽装結婚をする例も多かった。

 北京理工大の胡星斗教授(経済学)は偽装離婚急増の背景に「経済的利益のためには手段を選ばない風潮」があるとし「物質至上主義がこのまま続けば、結婚制度は揺らいでしまう」と懸念する。中国紙は「30年前の偽装結婚も、現在の偽装離婚も全て住宅のため。『哭笑不得』(泣くに泣けず笑うに笑えない)とはこのことだ」と論評した。(敬称略、共同通信・渡辺陽介)=2017年03月29日

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