【伝える 訴える】第42回(台湾) 「ロック歌手の転身」

2017年01月25日
共同通信共同通信

ヒマワリ学生運動の先へ 若者新党引っ張る行動力

台北市内の議員会館事務所でパソコンに向かう立法委員の林昶佐。壁にはチベット仏教の精神的指導者ダライ・ラマ14世の肖像画が張られていた(撮影・岩崎稔、共同)
台北市内の議員会館事務所でパソコンに向かう立法委員の林昶佐。壁にはチベット仏教の精神的指導者ダライ・ラマ14世の肖像画が張られていた(撮影・岩崎稔、共同)

 「台湾の新時代をつくるため、若者の政治参加に道を開く懸け橋になりたい」。台北市内の議員会館事務所で立法委員(国会議員)のフレディ・リム(林昶佐(りんちょうさ))が、柔和な笑顔を見せた。

 40歳の林は、若者に人気の「重金属楽団、閃霊」(ヘビーメタルバンド、ソニック)のボーカル。今年初めに議員に転身するまで、顔に隈(くま)取りをして上半身裸で、激しいビートに乗せてドスの効いた声で歌っていた。束ねた長髪と左腕のタトゥーを除けば、以前のイメージはない。

 「台湾の政治にはテロがつきものだし、資金も必要。家族や友人は反対したが、若者たちのために先陣を切った」

 

 

 

 

 
 

 ▽がむしゃらに

 2014年春、中国寄りの国民党政権が進めた中台経済の一体化に反対する学生たちが立法院の議場を占拠した。「ヒマワリ学生運動」と呼ばれた抗議活動で、対中貿易自由化は阻止された。林はこのとき「台湾魂」という横断幕を掲げた議場で応援演説をした。

 林は青春時代に独立志向のイデオロギーを培った。「民主化が急速に進展した1990年代から台湾史に興味を持ち、多くの本を読んだ」

 議場を占拠した若い学生たちは「台湾は当然、独立自主の主権国家」と考える「天然独」の世代。林と学生の独立志向は共振作用を起こす。

 林は周囲の反対を押し切って新党「時代力量」を結成。今年初めの立法委員選挙で5人が当選した。若者新党は、8年ぶりに政権を奪還した民主進歩党(民進党)、下野した国民党に次ぐ「第3勢力」となった。

 「台湾、若者、先住民を思いやり、正しいと思えば、がむしゃらに突き進む。その行動力はすごい」。時代力量の女性立法委員で先住民アミ族の39歳、カオル・イヨンが林をたたえる。当選はロック歌手の知名度だけでなく、抜群の行動力と発信力を若い有権者が高く評価した結果だった。

「重金属楽団、閃霊」(ヘビーメタルバンド、ソニック)のボーカルとしてステージに立つ林昶佐(左から2人目)=台北(同氏提供・共同)
「重金属楽団、閃霊」(ヘビーメタルバンド、ソニック)のボーカルとしてステージに立つ林昶佐(左から2人目)=台北(同氏提供・共同)

  ▽チベット支援も

 林は20代のころ、民主化の父で元総統の李登輝が開いた政治塾で学んだ。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの台湾支部代表を務め、亡命チベット人の支援コンサートも開いた。

 今年9月、チベット仏教の精神的指導者ダライ・ラマ14世と亡命先のインド・ダラムサラで会談、台湾の立法院で初の演説をするよう招請した。「快諾してくれた。民進党の立法院長(国会議長)も賛成しており、演説も問題ないと思う。チベット支援のため超党派の議員連盟を設立したい」

 中国が敵視するダライ・ラマは7年前に訪台したが、その後国民党政権は、中国に遠慮してビザを出していない。

 「民主的で自由な社会を持つ台湾が歓迎しないのはおかしい。中国人観光客もダライ・ラマの講話を聞けば、中国がいうような毒蛇や猛獣でないことが分かるだろう」

 インド訪問の後、林は米ニューヨークの街頭で、台湾の国連復帰への支持を呼びかけた。かつてロック歌手として海外ツアーをしていた林は今、台湾の立法委員として世界を飛び回る。

2016年9月、インド北部ダラムサラでダライ・ラマ14世(左)と握手する林昶佐(同氏提供・共同)
2016年9月、インド北部ダラムサラでダライ・ラマ14世(左)と握手する林昶佐(同氏提供・共同)

 ▽親日派

  「真っ赤な太陽が落ち、惨めな白日が昇る。(中略)独裁の永世に抗し(わが民族の)悲しき運命の輪廻(りんね)を断て」。林が最も気に入る自作「鎮魂醒霊寺」の一節だ。

 歌詞が例えるのは日の丸(日本)と青天白日旗(国民党)。終戦で日本の台湾統治は終わったが、大陸から来た国民党政権が独裁体制を敷いた。歌は、外来政権に統治され続ける台湾人の「悲運」を断てと訴える。

 林の歌には、日本の植民統治に対する先住民の武装蜂起や、国民党政権が台湾人を弾圧した2・28事件など台湾史をテーマにしたものが多い。

 「台日の民間関係はとても良い。日本政府も国際社会の公式の場で台湾をもっと応援してほしい。台湾の現在の孤立には、日本にも歴史的な責任があると思う」

 日本政府にずばりと注文を付けるが、机の脇にはキン肉マンやドラゴンボールなどの模型が飾ってある。日本の漫画や映画、テレビドラマを楽しみ、アイドルの歌を聴く親日派なのだ。

 「中国寄りの国民党が衰退すれば、10年以内に時代力量と民進党の競争が始まる可能性もある。良きライバル同士になりたい」

 ともに独立志向の両党の関係は微妙だ。立法委員選挙では選挙区候補を一本化したが、選挙後の立法院で時代力量は民進党の「密室政治」を批判して一時対立した。

 「時代力量はイデオロギー色が強く妥協を許さない。選挙協力もいつまで続くか分からない。彼らが力を付けたいなら、地道に地方を回って基盤を固める必要がある」

 民進党のベテラン女性立法委員、蕭美琴は未成熟ながら潜在力を秘めた若者政党の動きに注目する。将来、時代力量は台湾政治を動かす「台風の目」になるかもしれない。

 ◎音楽を封印して

 林昶佐の事務所応接室には選挙運動中のコンサートの写真が壁一面に張ってあり、部屋の隅にはドラム、事務室にはエレキギターが立てかけてあった。だが、楽器はミュージシャン出身のスタッフの所有。林自ら手にすることはない。

 「今は政治に集中したい。外国との文化交流の機会があれば演奏するが、本格的なコンサートや海外ツアーは控えている」。立法委員になってから音楽は封印中だ。

 「閃霊」は2年前、初めてアコースティック主体のアルバムを出した。ヘビメタと違い、優しい歌声で、台湾史をテーマにした歌詞は、中高年にも聞きやすい。日本から元ちとせもゲストとして録音に参加した。音楽的な成熟は、林の政界入りと関係しているのだろうか。今度会ったら聞いてみたい。(共同通信編集委員 森保裕、敬称略)=2016年10月26日

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