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現場到着早める効果を実証 事故の自動通報システム 搭載車の拡大が課題

2021.2.1 0:00
 交通事故を起こした車から自動的に通報する救急自動通報システム「Dコールネット」は、試験運用の開始から5年。具体的な出動事例で、救命につながる現場到着時間の短縮効果が裏付けられてきた。関係者は、搭載車の拡大を図る一方、システムの精度向上などでより効率的なシステムの普及を目指している。
「Dコールネット」の通報でドクターヘリが出動した千葉県内の交通事故現場=2018年(日本医大提供)
「Dコールネット」の通報でドクターヘリが出動した千葉県内の交通事故現場=2018年(日本医大提供)

 ▽重症確率

 Dコールネットは認定NPO法人「救急ヘリ病院ネットワーク(ヘムネット)」と自動車各社、緊急通報サービスを提供する事業者が共同で運用する。11月末現在、全国約730カ所の消防本部と、43道府県で52機のヘリを有する61の基地病院がつながっている。
 2020年12月のある日、関東地方で男性が運転する乗用車が自損事故を起こした。システムが通報時点で割り出した運転者の死亡・重症確率は84%だった。
 発生と同時に消防指令センターとドクターヘリ基地病院が自動通報を受信。救急車の出動と併せ、消防と病院とが協議を開始し、ヘリ出動も決定した。事故の28分後にはヘリで到着した医師が患者を診ることができた。
 男性は顔や胸などの軽傷。一方で助手席の女性は胸や腕、腰の骨折のほか、肺が傷んで空気が漏れる「緊張性気胸」を起こしていた。漏れた空気が肺や心臓を圧迫して血圧が50台まで下がった危険な状態。医師は直ちに胸に管を挿入して空気を抜く「ドレナージ」を施し、ヘリで搬送された女性は一命を取り留めた。
 入院先の医師は「10分遅れていたら危険。自動通報が力を発揮した実例だ」と評価する。
「Dコールネット」の通報でドクターヘリが出動した千葉県内の交通事故現場=2018年(日本医大提供)
「Dコールネット」の通報でドクターヘリが出動した千葉県内の交通事故現場=2018年(日本医大提供)

 

 ▽死者減は頭打ち
 日本医大千葉北総病院の本村友一病院講師(救急医学)はこうした事例を集約、分析している。
 18年12月には、北海道南部の高速道路で吹雪の中、衝突事故が発生。運転者男性は救急隊の到着時点で心肺停止。相手の普通車の男性も腹部に重傷を負い、緊急手術を受けた。これも、自動通報により現場到着が推定で約20分早まったことが奏功したケースだ。一方で、自動通報がありながら現場到着が遅れたケースも報告されている。
 本村さんによると、日本の交通事故死者数は1970年の1万6千人余をピークに徐々に減ったが、近年は減少も頭打ち。2018年には死者3532人に上り、政府は21年度からの第11次交通安全基本計画で、新たな死者数減の目標を設け、重点分野として「車両安全対策」を盛り込む方針だ。
 被害者の救命には、受傷から医師との接触までの時間、病院での治療や手術までの時間が影響する。大量出血した患者の救命には受傷後1時間以内の手術が必要とされるが、従来の方式では、通報を受けた消防がドクターヘリを要請するまでに平均約15分かかり、Dコールネットで短縮できると期待されている。
 ▽120万台
 ただ、普及拡大にはまだ課題が多い。
 ヘムネットの石川博敏理事によると、一つは「ヘリ出動の判断の統一」だ。重症・死亡確率を基準に一律にヘリを出動させるようにできないか、関係者の認識の統一が求められるという。石川さんは「あと1~2年すれば奏功事例が増え、通報が基準に達していれば直ちにヘリが出動する運用が本格化すると期待している」と話す。
 システム搭載車の普及も急がれる。今年の推定で、搭載車は乗用車約6千万台のうち約2%の120万台にとどまる。トヨタ自動車とホンダが搭載車を発売してスタート。最近、日産自動車やマツダ、SUBARU(スバル)も加わり、オプションで載せられる車も増えたが、関係者は他の自動車会社にも働きかけを強めている。(共同=由藤庸二郎)

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