最下位の走者に拍手 1964年10月14日 「再現日録 東京五輪の10月」(14)


東京五輪陸上1万メートル決勝が14日、国立競技場で行われ米国のミルズ選手が激戦を制した。だが、観客から勝者以上の拍手を浴びたのは最下位でゴールしたセイロンのガルナナンダ選手だった。
他の選手がゴールした後、ガルナナンダ選手は無人のトラックを3周走り続けた。当初笑い交じりだったスタンドが、驚きのどよめきとなり、やがて嵐のような拍手に変わる。同選手はレース後「ただ1万メートルを走り抜こう。それだけだった。幸せだ」と語った。
神奈川県・江の島沖の2人乗りヨット競技で、オーストラリア選手が強風の中で海に落ち、荒波に流された。後続のスウェーデン艇がレースを中断してロープでこの選手を救助。スウェーデン艇は最下位から2番目の12位に終わったが、新聞は「これぞ“人間愛の金メダル”」とたたえた。
ノルウェーのノーベル賞委員会は14日、1964年度のノーベル平和賞を米国の黒人運動指導者、マーチン・ルーサー・キング牧師に贈ると発表した。
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ガルナナンダ選手のドラマは後年、小学校の教科書に載った。それにしても観客は、選手の何に感応したのだろうか。試合に敗れてもただ一人、黙々と愚直に1万メートルを走り切る姿に、敗戦の廃虚から立ち上がり、歩み始めた頃の自分を重ねていたのではなかったか。(国名や組織・団体名、競技名、肩書などは当時の呼称に従っています。 共同通信=軍司泰史)
