メニュー 閉じる メニュー

薬の効果、高精度で予測 がん免疫療法に新指標 オプジーボなどに応用

2020.10.13 0:00

 「オプジーボ」などの「免疫チェックポイント阻害薬」が効く人と効かない人を高精度で見分けるための新たな指標(バイオマーカー)を、国立がん研究センター研究所や名古屋大のチームが開発した。体に備わる免疫の力を利用してがん細胞を退治する「がん免疫治療」の薬だが、高価な割に患者の2~3割しか効き目がみられず、従来は投与の判断が難しかった。チームは1年以内に患者を追跡してマーカーの有効性を確かめる臨床試験を始める計画だ。
 ▽悪化例も
 「薬の効果を予測するマーカーはいくつかあるが実際の患者に使うには不十分だった」。国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)の土井俊彦副院長は話す。
 免疫を担うリンパ球ががん細胞を攻撃する際に目印とする遺伝子変異の量を調べるのが一つ。がん細胞が免疫にブレーキをかける「PDL1」というタンパク質の発現量を調べる手法もある。
 免疫チェックポイント阻害薬はこのブレーキを外す仕組み。PDL1が多く発現している肺がんで効果が高い。ただ胃がんでは効果を予測するマーカーとして使えず、投薬によってむしろ症状が悪化する患者もいる。

がん細胞(中央)を取り巻いて攻撃する「キラーT細胞」(米国立衛生研究所提供)
がん細胞(中央)を取り巻いて攻撃する「キラーT細胞」(米国立衛生研究所提供)

 


 「従来のマーカーで効果が推定できるのは患者の一部。どうして効くのか、どれくらい効くのかも数値化されていない」と土井さん。「単独で効果があるのに、通常の抗がん剤などと一緒に免疫チェックポイント阻害薬を投与されている人もいるはずだ」と指摘する。
 ▽バランス
 そこで国立がん研究センター研究所の西川博嘉腫瘍免疫研究分野長が着目したのが、患者自身のリンパ球だ。薬が効いた人と効かない人で違いを調べれば手がかりが得られるのではないか。
 バイオ企業の日本BD(東京)と共同で、がん組織に集まるリンパ球を調べる技術を開発。2016~19年に免疫チェックポイント阻害薬を投与された肺がんや胃がん、悪性黒色腫の患者87人の検体組織を分析した。
 リンパ球の114種類の特徴を人工知能(AI)技術で解析。すると浮かび上がったのが、がん細胞を攻撃する「キラーT細胞」と、免疫を抑制する「制御性T細胞」のバランスの重要性だ。
 いずれもオプジーボなどの作用に関わる「PD1」というタンパク質が表面にあると、投薬によって活性化する。これを指標にすると、明確に投薬効果があったグループと、100日ほどで再発したグループに分かれた。薬が効く人はキラーT細胞でPD1が多く、制御性T細胞でPD1が少なかった。逆に効かない人はキラーT細胞でPD1が少なく、制御性T細胞でPD1が多く働いていた。
 ▽突破口

 
 

 

 効く人は薬によってキラーT細胞の攻撃にアクセルがかかる。効かない人は逆に免疫が抑制されてがん細胞への攻撃にブレーキがかかるらしい。
 「人によっては免疫チェックポイント阻害薬だけで効果が期待できる。抗がん剤の併用も不要で副作用を減らせる」と西川さん。「2年後に多くの患者が検査を受けられるようにするのが目標。必要な検査はがん診断時の豆粒大の検体を使って1日で可能だ」と話す。
 当初は薬が効かない人にも望みはある。免疫とゲノム(全遺伝情報)の解析を進めることで、将来は補助的な薬剤などを使って薬が効くように誘導することができるとチームはみている。
 患者一人一人に応じた「プレシジョンメディシン(精密医療)」の実現を目指す間野博行国立がん研究センター研究所長は「今回のマーカーはがん治療を前進させる大きな突破口になる」と期待する。(共同=吉村敬介)

最新記事