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【4351】るみ子の酒 純米 山廃 備前雄町【三重県】

2020.9.28 14:04
三重県伊賀市 森喜酒造場
三重県伊賀市 森喜酒造場

【H居酒屋にて 全4回の①】

 コロナ緊急事態宣言以後、初めてH居酒屋の暖簾をくぐった。実に4カ月ぶり。以前は週1~2回の頻度で行っていたが、とんとご無沙汰だ。久しぶりに見る店主は、激しく痩せていた。8キロ減とか。コロナの影響か、とおもいきや「もともと客が入らない店なので。コロナの影響はありません」と自虐的だ。

 今回、トップバッターにいただいたのは「るみ子の酒 純米 山廃 備前雄町」だった。森喜酒造場のお酒は当連載でこれまで、10酒類を取り上げているが、この酒は初めてだ。森喜酒造場のお酒は、燗映えする印象が強いが、今回は冷酒でいただいてみる。

 酒蛙「旨みと酸が出ている。香りは抑えている」
 店主「酸が後から来る。苦みあり。まあ、いいのでは」
 酒蛙「『るみ子の酒』のDNAがたっぷり入っている。複雑な旨み。味わい深い。余韻は苦みと辛み。口当たりにシャープ感がある。燗にすれば、シャープさがまるみに変わるんだろうな」

 瓶の裏ラベルは、この酒を以下のように紹介している。

「この酒は山廃仕込みもとでほぼ全量備前雄町米を使用して造りました。香りは少なめですが、酸やアミノ酸が比較的あり味がある酒です。冷酒より、常温かぬる燗の方が楽しんでいただけると思います」

 裏ラベルのスペック表示は「平成29酒造年度仕込み第19、20号、杜氏 豊本理恵、酵母 蔵内酵母、使用米 60%精米備前雄町、原材料名 米(国産)米麹(国産米)、精米歩合60%、アルコール分15度、日本酒度+7、酸度1.6、アミノ酸度1.2、製造年月19.12」。

 「るみ子の酒」は、漫画「夏子の酒」(当連載【43】「清泉 純米大吟醸 亀の翁」参照)の作者・尾瀬あきらさんが1992(平成4)年、命名し、ラベルの絵を描いた。

 森喜るみ子さんは、なぜ、酒造りにかかわるようになったのか。そこには「物語」があった。そのいきさつについて、尾瀬さんが、講談社漫画文庫「夏子の酒」第5巻のあとがきに書いている。その全文を、森喜酒造場のホームページからコピーし、以下に掲載する。

        ◇

「前略
 只今、平成三年六月二十二日午前一時です。先だって買ってきた『夏子の酒』を読み終えたところです。
 なんと書かせていただければよいか…
 私も実は、造り酒屋の跡とり娘として生をうけました。
 大学を卒業し、製薬会社へ勤務しておりましたが、父が脳梗塞で倒れ、急遽主人と結婚し、家業を継ぎました」

 こんな書き出しで始まるお手紙を私の元に送ってくれたのは三重県伊賀地方にある、たった二百石足らずの小さな小さな酒蔵、森喜酒造の蔵元、森喜るみ子さん。
 銘柄は妙乃華(たえのはな)。
 『夏子の酒』の執筆中に、私はたくさんのお便りを読者から頂きましたが、その中でも夏子をほうふつとさせる、るみ子さんの一通はひときわ印象的でした。

「私も夏子の如く、麹と酒の香りとタンクのもとで育ち、物ごころつかぬうちからお酒の味を覚えました。
 小学生の時には、すでに槽口からしたたる荒走り(酒槽に積まれた酒袋から圧力をかけずに、自然流出してくる最初の酒)のおいしさを心得ていて、学校から帰ると槽場でこっそり盗み利きをしていました。
 夏子のように銘柄を当てられる利き酒の達人ではありませんが“おいしいお酒”は解ると思います」

 彼女が子供の頃には能登から五人の蔵人が半年間住み込みで来てくれて、活気のあった蔵も今では杜氏と代司(麹づくりの責任者)だけ。
 るみ子さんはお腹に子どもを抱えながらも、朝4時に起きて30キロの米袋を運び、蒸米をタンクに入れ、上槽を手伝うという。

「私は来季も、夏子の様に蔵に閉じこもると主人に宣言しました。やがて生まれてくる3人目の子のためにも、母としてがんばるつもりでおります」

 この手紙をきっかけに、私と親しい蔵元や酒屋さんが、「放っておけない」とばかりに伊賀にとび、蔵仕事を手伝ったり、アドバイスしたりという素敵なつながりが生まれました。
 『るみ子の洒』はそんな状況の中から生まれた純米酒です。
 私もラベルの絵を描くお手伝いをしました。『夏子の酒』をもじったものではないか...という意見もありましたが、これほど的確なネーミングは他に見当りませんでした。
 現在、るみ子さんは日本酒に携わる女性の全国的なネットワークを作ろうとはり切っています。
 三重県上野市の森喜酒造は、生き残ってもらいたい蔵のひとつです。

        ◇

「るみ子の酒」を醸している森喜酒造場は、本当に小さな蔵のようだ。蔵のホームページによると、1997年醸造年度から、杜氏を蔵元が兼任で造っているといい、「杜氏代わりとして製造計画、製造全般責任者として森喜英樹(代表社員)、麹造り責任者として森喜るみ子(専務)、造りの段取り等の要として豊本理恵、河野素子で造っております」という。総勢わずか4人、うち3人が女性。るみ子さんは、最も大切な工程のひとつ「麹造り」を担当しているのだ。

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