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山本慎治のスウェーデンのアメリカンフットボール事情2020(下)

2020.9.7 13:34
チームドクターとしてサイドラインから試合を見守る山本慎治医師=提供:山本慎治さん
チームドクターとしてサイドラインから試合を見守る山本慎治医師=提供:山本慎治さん

 

 8月23日、「ウプサラ86ers」のファームチームである「アーランダ・ジェッツ」と「ウップランドスブロ・ブロンコス」との開幕試合がありました。私はチームドクターとして遠征に参加しました。

 

 下部リーグの試合も、スウェーデンアメリカンフットボール協会の新型コロナウイルスガイドラインに則って開催され、試合前の問診票チェックを行いました。試合はチーム力の差が出て44―7で圧勝しました。

 次週は、本拠地での86ersの試合とジェッツの試合が開催され、私はチームドクター並びにマッチドクターとして参加しました。

 試合前に対戦相手の医療スタッフに、新型コロナウイルスの感染症状がある選手、スタッフが一人もいないことを再確認しました。

 

 これは試合48時間前からの体調の自己申告を基にしての判断であり、家族などに感染者がいるような濃厚接触者かどうかの情報は確認できません。

 また、無症候感染状態で、他の選手に感染させる可能性があるかどうかも断定できません。

 ただ、感染症状がある人の入場を抑止し、会場での感染を極力防ぐ意義はあります。試合における感染防御への取り組みは重要なことであり、日本にも当てはまります。

 

 ▽コロナ禍でのリーグ戦開催についての私見

 日本では10月からXリーグ、そして学生リーグも開幕することとなり、ファンとして喜ばしいことです。

 日本アメリカンフットボール協会による大会開催に向けたガイドラインによると、チーム内に新型コロナウイルスのPCR検査陽性者が出た場合と、試合後対戦チームに陽性者が出た場合は、状況によってチームは2週間の活動停止や大会参加を見合わせる必要があります。

 これは感染症状を持つ選手のプレーを禁じるだけのスウェーデンのガイドラインと比べて、より慎重であるという印象を持ちました。

 

 コロナ禍の日本では、厚生労働省の感染予防ガイドラインに従うことが重要ですが、リーグ戦でも同様です。

 また、相手チームとの接触はプレーだけに限定する、チーム内でも選手間の距離を取る、用具の共用はしない、スタッフは自己防御策をとるなどアメフト独自の要点もありますが、日本においてそれらに抜かりがあるとは思っておりません。

 

 ただ、選手は試合に集中しており、医療スタッフが全体を俯瞰的に見渡し、一般的なルーティン、熱中症対策だけでなく、感染症予防対策を徹底しないといけません。

 試合前のガイドラインの確認、試合中の頻回なチェック、試合後のフィードバックを行い、さらにリーグでの感染症対策情報の更新と共有も望ましいと思います。

 

 しかし、綿密な対策をしても感染者やクラスター(感染者の集団)が発生する可能性があります。その結果、リーグ運営の大幅な修正が必要となる場合が想定されます。

 仮にそのような状況になっても、個々の選手やチームを他者が非難する事態だけは決して起こらないことを望みます。

 各チームの姿勢を尊重し、リーグ全体で対応して軌道修正していくしかありません。アメフトに関わる人々の健康と生命が一番大切であり、場合によってはリーグ打ち切りもやむなし、くらいの気持ちでいいのではないかと思います。

 

 ▽外傷への注意

 今回、プロ野球の楽天、そして複数の大学、高校アメフトチームのチームドクターを兼任され、日本のスポーツ医学の現状に精通されている、亀田総合病院の山田慎先生にお話を伺いました。

 大学、社会人ともに10月中旬からのリーグ戦開催に向け、各チームが急ピッチで肉体的、知識的な連携を高める練習を行っています。

 この急ピッチの練習で、スポーツ外傷が多発しております。具体的には、走行の練習ではハムストリング断裂、ヒット系の練習では肩の脱臼などの外傷が報告されています。

 

 2011年にNFLが労使交渉の決裂で、スプリングキャンプが行えず、サマーキャンプからのスタートだった時、アキレス腱断裂が多発したこともあり、ブランク明けの急ピッチな運動負荷の増加は筋、腱、関節へのストレスが大きくなるのは間違いなさそうです。

 これらのことを選手、コーチは認識してトレーニングメニューを組むべきと思われます。

 

 ▽感染者発生時の対策について

 アメフトでは濃厚接触は当然であり、リーグ戦開催を決定した以上、覚悟も必要になります。考えられる限りの予防策を立て実践するとともに、対戦相手も含め感染者が発覚した場合の対策が必要です。

 

 具体的には、保健所との連携、濃厚接触者の割り出し、単発発生なのかクラスターなのかの判断です。

 クラスターであれば、今後の継続についてチーム首脳陣と協議します。チーム内単発発生なら、陽性者を2週間隔離待機させ他の選手、スタッフの感染が除外できれば活動継続。チーム内クラスターなら活動自粛という方針を山田先生は自チームに伝えているとのことです。

きれいな夕焼けを背景に行われたスウェーデンのリーグ戦=提供:山本慎治さん
きれいな夕焼けを背景に行われたスウェーデンのリーグ戦=提供:山本慎治さん

 

 最後に、日本は世界の中でも人口当たりのコロナ感染被害が少ない国です。そして、日本アメフト協会のガイドラインは慎重を期したものとなっています。

 それは日本社会全体のコロナ禍への真摯な取り組みの一つであると評価しております。私は日本のアメフト関係者の方々は、自分たちの方法に自信を持ってこのシーズンを乗り切ってほしいと思います。

 遠いスウェーデンから、皆様の無事と成功を祈っております。

 

 〈リンク一覧〉

・JAFA 大会開催に向けたガイドライン 公益社団法人日本アメリカンフットボール協会安全対策委員会 https://americanfootball.jp/archives/4505

・JAFA 大会再開に向けた留意事項 公益社団法人日本アメリカンフットボール協会安全対策委員会 https://americanfootball.jp/archives/4510 

・公式戦の日程について 一般社団法人関東学生アメリカンフットボール連盟 http://www.kcfa.jp/information/detail/id=4401

・新型コロナウイルス感染症の予防法 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q3-1

・亀田総合病院スタッフ紹介 山田慎医師 http://www.kameda.com/ja/general/medi_services/staffs/details_63_688.html

 

山本 慎治(やまもと・しんじ)プロフィル  

 日本、アメリカの病院の一般外科、臓器移植外科で勤務した後、2005年からスウェーデンに移住。現在はウプサラ大学病院移植外科に外科専門医として勤務。14年ウプサラで開催された第1回アメリカンフットボール大学世界選手権の日本代表チームに現地スタッフとして帯同。その後、クラブチーム 「ウプサラ86ers」のチームドクターに就任。アメフトスウェーデン代表の各年代チームにも医療スタッフとして帯同。スウェーデン空手協会の医療委員も兼任している。

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