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兄弟や同世代提供で効果大 腸の難病治療に便移植 順天堂大、長期経過検証

2020.9.4 18:51
 大腸の粘膜に慢性的な炎症や潰瘍が生じる難病「潰瘍性大腸炎」は、腸内細菌のバランスの乱れが要因の一つとされる。近年、健康な人の便を患者の大腸に移植して細菌のバランスを正常化する治療法の研究が進んでいるが、患者と便提供者(ドナー)の関係が兄弟姉妹だったり、同世代だったりすると、長期の治療効果がより高まることを順天堂大の石川大・消化器内科准教授らが突き止めた。患者ごとにドナーを選ぶ個別化療法につながる可能性がある。
 
 

 


 ▽さまざまな疾患
 人の大腸にすみついている細菌は約千種類、その数40兆個以上といわれる。こうした細菌群は腸内細菌叢(さいきんそう)(腸内フローラ)と呼ばれるが、その構成バランスの乱れは、潰瘍性大腸炎や過敏性腸症候群などの消化器疾患だけでなく、肥満や糖尿病、アレルギー疾患、自閉症やうつなどにも関与しているとされる。
 そこで健康な人の便を患者の大腸に移植し、腸内細菌の多様性やバランスを回復させようというのが「便移植」とか「ふん便微生物叢移植」と呼ばれる治療法だ。
 オランダの研究チームが2013年、院内感染の下痢の原因として知られる「クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)」の中でも特に治療が難しい再発患者に劇的効果があったと報告し、一躍注目された。
 再発性CDIに対する治療法としては、日本でも今年春から先進医療に認められた。
 ▽腸内リセット
 順天堂大は14年7月から潰瘍性大腸炎の成人患者を対象に臨床研究を開始。17年3月までの約2年半、3種類の抗生剤(抗菌薬)を2週間内服する抗生剤単独療法を37人に、これに加えて便移植を行う抗生剤併用便移植療法を55人に実施し、経過を観察した。どちらの治療法を受けるかは患者自身が選択した。
 移植用の便は配偶者や親族が提供した。有害な細菌やウイルス、寄生虫を厳しくチェック。生理食塩水と混ぜてろ過し、食物繊維などを取り除いた腸内細菌溶液を作製した。内視鏡を使って大腸の最も上流部に当たる盲腸に溶液約300~400ccを1回投与した。
 便移植前に抗生剤を内服するのは「腸内環境を一度リセットすると、細菌が定着しやすい」(石川准教授)ためだ。
 観察中に外来に来なくなった人や、抗生剤の副作用が現れた人などを除く治療完遂例で効果が認められた症例の割合を比較すると、抗生剤単独の56・2%に対し抗生剤併用便移植は65・9%で、便移植の効果がより高いことが分かった。
 
 

 

 ▽年齢差10歳以内
 さらに有効症例を2年間追跡すると、抗生剤併用便移植の方が抗生剤単独に比べて長期に治療効果が保たれ、症状が再燃しづらいことが判明。便移植を受けた患者の腸内細菌叢を解析すると、治療前には菌種に極端な偏りが見られたが、移植後はドナーの細菌叢を受け継ぎ、多様性が長期間維持されていた。
 注目されるのは患者とドナーの関係だ。便移植の効果が認められた30例を調べると、親子や配偶者より兄弟姉妹間の方が、年齢差が11歳以上あるより10歳以内の方が、より長期にわたって症状が安定していた。
 石川准教授は「兄弟姉妹の腸内細菌叢は、患者の発症前の状態に近いと考えられる。また、年齢層によって安定的な腸内細菌の種類が変化するため、年齢差が大きいとうまく定着しないのかもしれない」と分析。
 「今回の研究で患者とドナーの相性が重要だと分かった。将来は『便バンク』を通じ、患者と同年代のドナーの便を提供したり、疾患に応じて有効菌種を含む腸内細菌叢を提供したりする仕組みをつくりたい」と話した。(共同=赤坂達也)

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