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【外国人と生きる 失踪の陰で】(3) 借金返済へ不法就労 妻子とスマホ会話に癒やし

2020.9.4 7:02 共同通信

 ベトナム人のズイさん(28)=仮名=は建設現場で1日の仕事を終えると、スマートフォンを手に、母国にいるまな娘にメッセージを書き込んだ。「幼稚園は楽しい?」「ちゃんと勉強している?」。ズイさんは元技能実習生。在留資格を失った後も別の派遣会社で働く「不法就労者」だ。

 ▽怒り
 会員制交流サイト(SNS)を介した娘や妻とのたわいない会話は、警察から身を隠し、インスタント麺で食いつなぐ過酷な日々の唯一の癒やしだ。ズイさんは、社長による暴力が横行していた最初の勤務先から2019年に逃亡していた。違法と知りながらも日本にとどまる理由は、実習生として仲介業者に支払った費用約75万円の返済。妻子は、ベトナム北部の農村部の古びた家で、経済的に厳しい生活を強いられている。

 ズイさんの妻はベトナムでの取材に「早く帰ってきてほしいけれど、借金が返せないのは困る」と不安げに応じた。ズイさんは「暴行がなければ絶対に失踪しなかった。なぜ自分だけが悪者にならなければならないのか」と元勤務先への怒りをあらわにする。

 ▽稼ぎ
 00年に訪日したフンさん(45)=同=も失踪した経験を持つ。実習先だった縫製工場の低賃金に耐えかね3年間の技能実習が終わる直前にベトナム人実習生13人と共に姿を消した。

 日本人の仲介業者から新たな勤務先として紹介されたのは自動車組立工場。会社側は、不法滞在者と知りながら受け入れ、格安の社宅も提供した。月給約19万円は元の職場の倍以上。約6年間で約1千万円を稼ぎ、現在はハノイで飲食店を営む。「会社の給料が事前に聞いていた額より安過ぎた。お金と環境が良ければ誰も逃げない」と言い切る。

 ▽裏サイト
 「本物そっくり在留カード」「100万円稼げます」―。インターネットでは違法の疑いが強い仕事やもうけ話が簡単に見つかる。この種の裏サイトは実習生の間で広く知られる。失踪しても暮らせると踏んでか、姿を消す例が後を絶たない。

 借金を背負い、人権侵害や低賃金など不当な環境に置かれた実習生の中に、失踪した方が「まし」と考える人がいてもおかしくない現実がある。外国人労働者を支援する斉藤善久(さいとう・よしひさ)神戸大准教授(アジア労働法)は「公的機関が実習生の保護や支援の役割を十分に果たせていない。失踪者が多発する原因の一つだ」と指摘した。

(共同=泊宗之、千葉響子)

*写真・記事の内容は、2020年3月21日までの取材を基にしたものです。