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たたき上げの僕だからこそ分かること まだまだ足りない努力の質と量

2020.8.13 12:19 中村 多聞 なかむら・たもん
アサヒ飲料時代にライスボウルで優勝し、最優秀選手に選ばれた中村多聞さん
アサヒ飲料時代に2年連続で社会人日本一になり喜ぶ中村多聞さん

 

 ここ数年、指導者として活動していますが、対象となる選手や組織のほとんどがトップのリーグに所属しており、全員の目標である「日本一」がその年度のうちに達成できる位置にいます。

 僕はその中にいて「うん。日本一になるには十分な準備ができている。あとは神のみぞ知るだな」と思ったことはただの一度もありません。常に「こんなんじゃ勝てない」と感じています。

 

 もちろん、組織全体で真剣に本気で取り組んでいます。勝負の世界ですから、勝つこともあれば負けることもあります。

 直接指導している選手たちもサボったりするわけでもなく、一生懸命打ち込んでいます。キツいトレーニングや練習、長時間のミーティングも黙ってこなします。

 

 でも、僕はいつも「こんなんじゃ勝てない」と感じています。そう思う理由は「足らないことがいろいろある」と感じているからなんです。

 365日24時間、フットボールで勝利するためにできるようになっておかねばならないこと、理解しておかなければならないこと、やらなければならないことをキッチリやる。

 これらを継続していかないと、絶対に上達しないと思っています。

 

 でも、どうして僕はそんなに厳しいのでしょう? 確かに厳しすぎるかもしれません。

 その様子を日頃から見ている妻が、ある時こう言いました。

 「アンタは到底日本一や世界に出られるワケのない底辺の底辺からスタートして、頂上までの距離が遠すぎて分かってなかったんや。だからとにかく、前に進まな死んでしまうと思ってたから必死にできたんや。でもアンタが教えてる子たちは、日本一がスグ手の届く場所にいるんや。だからアンタが選手の頃と同じ熱量でやれるはずないんや!」

 

 これには参りました。分かりきっていたことだし、たたき上げの僕はそのような底辺から海外のプロや日本選手権までの道程をどうやって克服してきたかを前面に出して、独自のフットボール論をレクチャーしているのです。

 ですから有名選手になりたくて、日本一になりたくて渇望していた自分の「熱い思い」「努力の量」が正しく、タイトルが欲しい者は「これぐらいやっておくべきなのだ!」と決めつけていたのです。

 誰もが当時の自分と同じ思いで取り組んでいると考えていたのです。これはベンチプレスの記録を200キロにしろといった具体的な数値ではなく、行動の全てを意味します。

 チームで集まった時、僕の中では数多くのルールがあります。

 例えばそれが1000個あるとしましょう。このルールを守っている数が多いチームほど強いのです。

 

 年間で1勝もできなかった大学時代、社会人リーグの2部で入れ替え戦に出場するチーム、関西リーグで準優勝するチーム、ファイナル4まで行くチーム、ライスボウルで勝つチーム、プレーオフに出られないチーム、パールボウルに勝つチーム。

 そして前年度スーパーボウルに出場したNFLのチーム、NFLヨーロッパで優勝したチームと優勝しなかったチームの運営を、中からつぶさに見てきた僕だからこそできる「採点」なのです。

 

 つまりこれは「統計」で、僕の「判断」ではないのです。時代や人の質は変わってきていますが、我々のやっている競技はアメリカンフットボールであり、基準は全てNFLです。

 これは絶対に変わりません。キャンプの様子は毎日のようにテレビやネットで見ていますが、この数十年で本質は何も変わっていません。

 

 ルールが1000あれば、NFLのチームは数秒のシーンでも遵守されています。日本の強豪チームでも、全くといっていいほど守られていないケースがほとんどです。

 ですから、絶対的に強いと弱いは比例するのです。これが分からない人が、分かっているチームに絶対勝てない理由です。中身は教えられませんけどね。

 

 話を戻しまして、小学生の時から親に連れて行ってもらうわけでもなく、自分で学生や社会人の試合観戦に出かけ、甲子園ボウルをテレビ観戦していました。

 そしてそのVTRを毎日毎日テープの画質がガタガタになるまで見ては「いつか自分もこのような舞台で暴れたい!」と思って長い無名時代を過ごし、その夢がかなったのが30歳前後です。

 

 強豪校に入れば、フットボールのことはそれほど知らなくても、チームが甲子園ボウルに出場してサイドラインに立てば、日本一は意外に簡単に手に入ると思ってしまいます。

 甲子園ボウルへの夢が破れて(破れていなくても)社会人でプレーするにしても、外国人QB次第であっという間に夢がかなう可能性があるのです。

 そうなれば一年365日、必死でがむしゃらに練習しようとは思わないでしょうね。

 

 僕が選手時代には「そんな中途半端な連中に負けられるか!」「こちとらアメフトへの思いが桁違いなんだ!」という強い信念がありました。

 挫けそうな時も、その思いが強かったので耐えることができました。

 幸い、直々に指導している選手たちは僕のことを信じ、教わることの全てを学びにして頑張ってくれています。

 

 才能あふれるスター選手ではありませんので、一人一人の資質やポテンシャルからすれば、早々に限界が来てしまうかもしれません。

 しかし若者というのは急に器を大きく、広く、深くする可能性がありますし、こちらが諦めてはいけません。

 

 ただ、どれだけ「レッドゾーン」近くまでぶん回していようが、まだまだ僕の求める技量の合格ラインには届いていおりませんし、努力の質や量も残念ながら足りていません。

 どれぐらい足りないかって? 今の倍はできるんじゃないかな、なんて思っています。人間って、本当に強い生き物ですから。

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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