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NFL復帰をコミッショナーが異例の後押し 抗議行動の象徴的存在キャパニック

2020.6.17 11:47 生沢 浩 いけざわ・ひろし
人種差別への抗議活動の象徴的存在、元49ersQBコリン・キャパニック(AP=共同)
人種差別への抗議行動の象徴的存在、元49ersQBコリン・キャパニック(AP=共同)

 

 人種差別に対する抗議行動が世界のスポーツリーグで急速に広まっている今、元NFL49ersのQBコリン・キャパニックの存在がクローズアップされている。

 

 2016年のプレシーズンゲームで、試合前の国歌斉唱のセレモニーの際に一人だけベンチに座ったまま起立を拒み、シーズン開幕後は片膝をつく形で人種差別への抗議の意思を示したのだ。

 キャパニックの行為はNFLだけでなく、バスケットボールのNBAやヨーロッパのサッカーリーグでも共感を呼び、一大ムーブメントとなった。

 

 そのためか、現在のように人種問題が再燃すると象徴的存在としてキャパニックの名前が取り上げられる。

 そして、いまだにキャパニックがどのチームにも在籍していない事実が、彼が始めた抗議行動への報いだととらえる人は多い。

 

 キャパニックは2017年のオフに49ersから戦力外通告を受けて退団し、フリーエージェント(FA)となった。

 今年はシーホークスがキャパニックをトライアウトに招いたが契約には至らず、ほかに獲得に乗り出すチームもなかった。

 

 当時は国歌斉唱の際に起立をしない選手に対してトランプ大統領が激しく非難をし、NFLにも改善を求めていたころだ。

 カウボーイズのジェリー・ジョーンズ氏やペイトリオッツのロバート・クラフト氏のように、トランプ大統領と近い立場のオーナーが多くいるのも影響したのか、NFLは選手に国歌斉唱の際の起立を求めた。

 

 そうした空気の中でキャパニックを獲得しようとするチームは現れなかった。これが世間の目にはキャパニックに対する「処罰」と映った。

 もちろんのその証拠はない。キャパニックの実力がチームのニーズに合わなかったと言われればそれまでなのだ。

 

 最近になってロジャー・グッデルNFLコミッショナーはアメリカのスポーツ専門局ESPNのインタビューに答え「キャパニックがNFLに復帰する意思を持っているならば、獲得を考えるチームをサポートするし奨励もする」と発言した。一選手の去就にコミッショナーが口を出すのは異例のことだ。

ロジャー・グッデルNFLコミッショナー(AP=共同)
ロジャー・グッデルNFLコミッショナー(AP=共同)

 

 もっとも、グッデル氏がキャパニックのNFL復帰を後押しするのはこれはが初めてではない。

 昨年も全32チームのスカウトをアトランタに集めてキャパニックの公開トライアウトを行おうとした。

 しかし、メディアが締め出されていたことにキャパニック側が難色を示したため直前にキャンセルとなり、キャパニックが自主的に別の場所でトライアウトに参加した。

 ただし、そこにスカウトを派遣したチームは八つにすぎなかった。

 

 グッデル氏がここまでキャパニックに肩入れするのは、NFLが不当に彼の雇用を拒んでいるとの評判を払しょくしたいからだ。

 ただし、キャパニックが既に3年もNFLから離れてしまっている今では、契約が実現するのは難しいと言わざるを得ない。

 

 NFL選手にとって3年のブランクはあまりにも大きい。そして、キャパニックが49ersをスーパーボウルに導いた2012年シーズンを彼の絶頂期だとすれば、それから8年もの歳月が経っているのだ。

 

 仮にキャパニックと契約を結んだチームが出てきたとしても、そのチームはとても重い十字架を背負うことになる。

 シーズン前に解雇でもしようものなら、それが正当な理由(戦力として通用しないなど)であったとしても、世間は必ずしもそうは受け取ってくれないからだ。

 何百万ドルもの費用のかかる契約をしてまで、そんな火中の栗を拾うチームがあるだろうか。

 

 ブラウンズの白人QBベイカー・メイフィールドは、国歌斉唱の際に片膝をついて人種差別に対する抗議の意思を表すことを宣言している。

ブラウンズのQBベイカー・メイフィールド(AP=共同)
ブラウンズのQBベイカー・メイフィールド(AP=共同)

 

 今季はこうした選手が多いだろうし、NFLも今回はトランプ大統領の顔色を気にすることなく容認するに違いない。

 

 キャパニックがNFLに復帰しやすい雰囲気はある。ただし、選手として彼が失った時間はあまりにも長すぎる。

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

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