AIどう使う?社会への橋渡しは教育から  U30のコンパス23部「好きなことで生きる」(3)

2018年01月23日
共同通信共同通信
AIのセミナー事業に奔走する、ベンチャー企業「キカガク」社長の吉崎亮介さん=東京都豊島区
AIのセミナー事業に奔走する、ベンチャー企業「キカガク」社長の吉崎亮介さん=東京都豊島区

 

 ベンチャー企業「キカガク」社長の吉崎亮介(よしざき・りょうすけ)さん(26)は、主に企業関係者を対象にセミナーを開き、人工知能(AI)の理解に不可欠なスキルの数学やプログラミングを教えている。京都大大学院を修了後、東京都内のIT企業に就職したが、7カ月で退職。「AIで日本の産業を盛り上げたい」と、20代で2度の起業を経験した。

 東京・六本木の研修施設。「AIと機械学習、ディープラーニング。三つの違い、分かる人いますか」。セミナー参加者に吉崎さんが呼び掛けた。「インタラクティブ(双方向)でいきましょう」と笑い、質疑を交えながら手書きの模式図を使った説明が始まった。

 会社員時代に取り組んだのは、ソフトウエアの動作を確認する仕事。やりがいはあったが、同年代で既に起業した知人の姿も目の当たりにしていた。「自分が決めたビジネスで成功したい」。同僚2人と一念発起し、ウェブアプリ開発のベンチャー企業を設立した。

 AIを使ったどんなサービスがほしいかを企業に聞いて回ったが、返事は「優秀な人材を見抜く方法」など、AIでは難しい複雑な作業を要求するものばかり。囲碁ソフト「アルファ碁」の活躍などでAIは身近になったが、実社会に応用するには理解が不十分と感じた。「まずは教育というアプローチが必要だ」。再び独立を決意した。

 

セミナーでAIに関する説明をするキカガク社長の吉崎亮介さん=東京都港区、株式会社「BITA(ビットエー)」提供
セミナーでAIに関する説明をするキカガク社長の吉崎亮介さん=東京都港区、株式会社「BITA(ビットエー)」提供

 キカガクでの再出発は一人きり。「お金がなくなれば即終了」の恐怖もあった。「その時は近くのファミレスでバイトしよう」と開き直った。当時の貯金は30万円ほど。イベントで使う施設利用料が払えず、クレジットカードを使ってなんとか乗り切ったこともある。最近まで学生だったという金銭感覚も幸いした。「ぜいたくをしたこともないし、ただの世間知らずだった」と笑う。

 モチベーションを支えてきたのは、セミナー参加者からのメッセージ。「クリアに理解できた」「これからがんばれそう」。ウェブサイトの文章を自動で要約する手法を開発したと、受講の成果を教えてくれた人もいる。「この人に貢献できたと分かる瞬間が好き。教育の醍醐味(だいごみ)だと思う」


 セミナーは「実務につなげてなんぼの世界。勉強して終わりじゃなく、活用されるとうれしい」と話す。AIで人は単純作業から解放され、より創造的な仕事に集中できると信じている。まずは理想と現実の橋渡しがしたい。「そうして社会全体がハッピーになる」(共同=七井智寿31歳、23部終わり)

▽取材を終えて
 正直に言うと、「起業家」にあまり良いイメージは持っていなかった。ギラギラして、大きな野望を抱える才能豊かな人。縁もないだろうと思っていた。吉崎さんと初めて出会ったのは、大阪・天満の居酒屋。そのときの吉崎さんはまだ学生で、申し訳ないがお酒の味しか覚えていない。起業家として再び出会ったのは、都内で開かれた研究者やメディア有志が集まる勉強会の場。登壇した吉崎さんの堂々としたプレゼンテーションは分かりやすく、印象的だった。聞いているだけの自分が少々情けなかったが、ぜひこの若手起業家を取材してみたいと思った。

 吉崎さんの起業の動機には、決して大きな野望があったわけではない。同年代の起業家の存在を知り、起業が身近に感じられたからだという。「迷うくらいなら、やらないと損」。仕事一辺倒でもなく、社内では長期休暇を取って、海外旅行に行くことを奨励している。「僕が休みたいからですけど」と笑う表情には、ギラギラとはほど遠いあどけなさが残る。選んだ道は異なるが、学生時代の自分とそんなに違った考え方をしているようには思えなかった。「起業のハードルって、案外低い」と話す吉崎さん。新しい世界に踏み出すときは、考えすぎないくらいがちょうど良いのかもしれない。

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