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選手が目指すべき心構え スポーツマンシップとは 【為末大の視点】

2020.11.23 7:00 為末 大
水泳の世界選手権男子200㍍個人メドレーで金メダルを獲得し喜ぶ瀬戸大也。東京五輪の代表に決まった=25日、韓国・光州(共同)
水泳の世界選手権男子200㍍個人メドレーで金メダルを獲得し喜ぶ瀬戸大也。東京五輪の代表に決まった=25日、韓国・光州(共同)

 不倫問題で東京五輪の競泳日本代表主将を辞退した瀬戸大也選手に対し、日本水泳連盟は競技者資格規則の「スポーツマンシップに違反したとき」などに該当するとして、年内の活動停止の処分を科した。

 この決定で浮かび上がるのは「アスリートが持つべきスポーツマンシップとは何か」、また「スポーツマンシップはグラウンドの外にも適用されるのか」という問いだ。選手の言動は、競技外でもより厳しく罰せられるべきなのだろうか。

 スポーツマンシップの定義について、オックスフォード英語辞典を調べると「選手が備えているべき、正々堂々とした態度」とある。しかし「正々堂々とした態度」はかなり解釈の幅が大きいように思う。

 ドーピングを行うことがスポーツマンシップに反するというのは、多くの人が違和感なく受け入れるだろう。競技に関することであり、公平性を損なうからだ。だが、これほど分かりやすいものばかりではない。

 ▽文化圏の違い

 サッカーで「マリーシア」と言われるプレーがある。ポルトガル語で「ずる賢い」を意味している。反則を狙ってアピールする行為などと狭く捉えられがちだが、広義にはピッチで頭を使って、賢く立ち振る舞う行為に当たる。

 例えば、試合に勝てるなら最後にパス回しで時間を使って逃げ切るのも「マリーシア」の定義に入る。南米では、このような賢さはサッカー選手が備えているべき素養だと受け取られている。

 一方、日本では高校野球の甲子園大会で当時、星稜高(石川)の強打者だった松井秀喜選手に対して、全打席敬遠を行った明徳義塾高(高知)の戦術を「スポーツマンシップに反する」と批判する声も多かった。

 競技に関することでも、勝つために戦うことをどこまで徹底させるかについて、文化圏でこれほど違いがある。

 スポーツマンシップについて裁く際も、競技内で基準が曖昧なために判断がかなり難しい。ましてや、競技外となるとさらに難しくなる。

 スポーツマンシップに反する行為が社会通念上、行ってはならない行為と一致するなら、一市民として当たり前の基準に従うだけなので、わざわざスポーツマンシップを持ち出す必要はない。
 もちろんトップアスリートには影響力があるので、一定の社会的責任はあると考えられる。だが、これは選手に限らず、全ての影響力を持つ人間に課せられることであるはずだ。ここでもスポーツマンシップをあえて持ち出す必要はなく「影響力がある者の責任」という整理で済むはずだ。

 これらを踏まえると、競技外においてのスポーツマンシップとは、アスリートのみが従うべき何らかの基準と言える。しかし、具体的にそれは何に当たるのか。

テニスの全米オープンで、人種差別に抗議して黒人被害者名が入ったマスクを着用した大坂なおみ=ニューヨーク(AP、USAトゥデー・ロイター、ゲッティ=共同)
テニスの全米オープンで、人種差別に抗議して黒人被害者名が入ったマスクを着用した大坂なおみ=ニューヨーク(AP、USAトゥデー・ロイター、ゲッティ=共同)

 ▽競技外の制限

 スポーツマンシップの乱用を懸念している。女子テニスの大坂なおみ選手が人種差別への抗議の意味を込め、全米オープンで黒人被害者の名前が入ったマスクを着用した。この他にも、選手たちが社会問題や政治に関して発言するようになった。それに対し「スポーツマンらしくない」という批判が寄せられた。

 このように一度、スポーツマンシップが競技外に適用され始めると、アスリートたちの発言や行動に対して一定の制限がかかる可能性がある。

 私が現役選手の時代には「スポーツマンシップはルールを厳守するものである」との理由で、ルールを制定する側の競技団体や指導者に反論することは「スポーツマンらしくない」と教えられたこともあった。

 アスリートの側がスポーツマンシップを理由に、社会参画を拒むこともできる。その言動が競技外で制限されるのなら「競技だけやって、社会に関わらなくてもいい」と考える選手も出てくるのではないか。それはよりアスリートを孤立させ、社会とずれを生み出してしまうように思う。

 スポーツマンシップを拡大解釈すべきではない。それはあくまでもグラウンド内で、選手たちが目指すべき心構えのようなものだと考えている。当たり前だが、アスリートも一市民であり、その上にアスリートの立場があることを忘れてはいけない。(元陸上選手)=35回

為末 大

名前 :為末 大

プロフィール:ためすえ・だい 1978年、広島市生まれ。法政大卒。陸上男子400メートル障害で2001年と05年の世界選手権で銅メダルを獲得。五輪は00年シドニー、04年アテネ、08年北京と3大会連続出場。著書に「諦める力」「逃げる自由」など。