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【為末大の視点】海外交流で魅力を再発見 ホストタウンと地方創生

2020.2.11 7:00 為末 大
高知県での事前キャンプ中、観光名所の「はりまや橋」を訪れたラグビーW杯トンガ代表の選手ら=2019年9月12日、高知市
高知県での事前キャンプ中、観光名所の「はりまや橋」を訪れたラグビーW杯トンガ代表の選手ら=2019年9月12日、高知市

 

 いよいよ2020年である。東京五輪・パラリンピックと地域の関わり方として「ホストタウン」という方法がある。各地域が海外の国と関係を結び、事前キャンプや文化交流をするものだ。政府もこれを後押ししている。

 一方でホストタウンの意義や目的、大会後に残るレガシー(遺産)が何なのかが、いまひとつ、ふに落ちていないように感じる。「住民に良い思い出ができた」というのは聞こえはいいが、具体的な成果としては納得しにくい。一体、ホストタウンを通じて日本に何を残すべきなのか。

 ▽世界にアクセス

 埼玉県寄居町とブータン、福島県田村市とネパールのホストタウンを手伝っている。両国は選手の活動を支援するために私が訪れていた国で、まだスポーツに大きな予算を割く力がない。今回は東京五輪・パラリンピックに向けて両自治体のサポートを得て、事前キャンプや文化交流を実施できることになった。

 数年前から関わってきて、記憶に残っているのはやはり人の交流だ。ブータンと寄居町の子どもたちが交流することで、ブータンに日本の印象が残った。「日本に留学してみたい」という子どももいる。

 日本の子どもにも印象は残っている。ブータンの人々は英語で教育されているので、若い世代は皆、英語を話す。話し掛けられても英語で返せないことに面食らって、刺激を受けた日本の子どもも多かった。

 ネパールの選手たちは、東京から田村市まで移動しながら「随分、町によって食べ物や風景が違いますね」と言っていた。日本人である私には分からない違いを彼らは感じたのかもしれない。

 ホストタウンで得られるチャンスは、地方が東京経由ではなく直接世界にアクセスし、自分たちの町の在り方に目覚めることだと思っている。

小学生を指導するラグビーW杯フィジー代表の選手(左)=2019年9月8日、秋田市
小学生を指導するラグビーW杯フィジー代表の選手(左)=2019年9月8日、秋田市

 

 ▽違いは強み

 世界を旅すると、各都市がそれぞれ個性的なことに驚く。米国の東海岸のワシントンと西海岸のサンディエゴは違う空気だし、中国の深圳と北京も違う。各都市が違いを強調しようとしている。

 多くの世界的企業が地方に本社を置いていることにも驚いた。スポーツ用品大手のナイキは創業の地である米オレゴン州、スポーツを支援する医薬品大手バイエルはドイツのレーバークーゼンに本社がある。

 世界では各国間だけでなく、各都市間でも独自色を出そうと必死になっている。米国の経営学者マイケル・ポーター氏によれば、競争戦略とは他との違いを際立たせることだ。違いは強みだから、自分たちの都市は何が違うのか、それを生かすにはどうすればいいかをとことん考えなければならない。

 ただ、独自色を出すと言っても、強みや違いの発見は自分では難しい。しかし、外からはよく見えるし、外から褒められると自信もつく。

 北海道・ニセコ地区の素晴らしさを見いだし、海外に発信したのはオーストラリア人のロス・フィンドレーさんだった。ホストタウンを通じ、違った視点を持った海外の人と交流することで、自分たちの魅力を再発見することができるのではないか。

 日本の各都市はさまざまな魅力があるのに、どこか東京を見て、東京のものを取り入れようとしたり、日本の別の都市で行われていることをまねたりすることが多かったように思う。

 まねをすることも素晴らしいが、取り入れすぎて総花的になるところがある。例えば「スポーツの町を目指す」という計画はよく聞くが、「陸上のハードル競技の町を目指す」ということはあまり聞かない。

 違いを見つける際には、選択して集中しなければならない。ホストタウンは地域と各国が競技ごとに結ばれているケースも多く、その中から各スポーツの聖地が生まれても面白い。

 「地方創生」という言葉を聞いて久しいが、自立し、自ら変化しようという意識なくして地方創生は実現しない。ホストタウンは友好的な関係を地域と各国の間で生みだしてくれる。その交流をきっかけに各地域が違いを見つけ、特色を出していくことになれば、ハード面だけではない「ソフトのレガシー」が残ると言えるのでないか。(元陸上選手)=第31回

名古屋市で開かれた「ホストタウンサミット」であいさつする橋本五輪相=2019年12月
名古屋市で開かれた「ホストタウンサミット」であいさつする橋本五輪相=2019年12月

 

為末 大

名前 :為末 大

プロフィール:ためすえ・だい 1978年、広島市生まれ。法政大卒。陸上男子400メートル障害で2001年と05年の世界選手権で銅メダルを獲得。五輪は00年シドニー、04年アテネ、08年北京と3大会連続出場。著書に「諦める力」「逃げる自由」など。

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