【為末大の視点】スポーツ万能

2019年11月28日
共同通信共同通信
為末 大
17日のマジック戦でシュートするウィザーズの八村=オーランド(NBAE提供・ゲッティ=共同)
17日のマジック戦でシュートするウィザーズの八村=オーランド(NBAE提供・ゲッティ=共同)

 

 「スポーツ万能」という言葉があるが、トップ選手の現場では、本当の意味で万能の選手は少ない。米国のように複数の競技を経験させる国では、一部の選手が二つ以上の競技で優れた成績を残すが、それでもまれだ。複数の競技を経験させることは、いくつもトップを目指すというより、いつか何かでトップを目指したときに「経験が役に立つ」という意味合いが強い。


 古代オリンピックにおいて、重要な価値観は「美しさ」だった。当時のアテネでは、美しさは「完璧さ」という意味合いも含まれていたそうだ。古代オリンピックの像を見ると、円盤投げもレスリングもマラソンも、選手たちは同じ体形をしていることが分かる。複数の競技を行っていたこともあるが、どの競技においても「理想の体形は同じである」という考えもあったようだ。スポーツができる人は、何でもできるという「スポーツ万能」の考えに近い。


 今では、各競技の体形はかなり違ってきている。八村塁選手が活躍し、長身選手の迫力あるプレーが注目を集めるNBAだが、身長2㍍を超えて100㍍を9秒台で走ったことがある短距離選手は一人もいない。バスケットボールには有利でも、素早く動く必要のある短距離では不利になるからだ。


 ある競技においては有利だった特性が、違う競技では不利になるということがよくある。マラソン選手の体形は短距離や投てき種目には不向きだし、陸上選手の体形は水泳には不向きだ。現在では競技ごとに「理想の体形は違って当たり前」という認識になっており、オリンピックの選手村もさまざまな体形の選手で彩られている。


 体形だけではなく、精神的特性も競技には大きく影響する。その競技を行ったから性格が変わったのか、そういった性格の選手だからその競技で活躍できたのか分からないが、スポーツ選手といってもチームと個人、タイムを競うのと他人と競うのでは大きく違う。私はコーチを付けずに競技をしていたので、自分で考え自分で決める環境は得意だが、既に決まっていることを実行することも、チームとして力を発揮することも苦手だ。引退してからとても苦労した。


 現在のスポーツを見ていると、人には決められた長所も短所もなく、選んだ環境(スポーツ)によって、得手不得手があるだけだということを感じさせられる。「スポーツ万能」などないように、おそらく社会においても、何にでも優秀なことはほとんどないのだろう。だからこそ「場」を選ぶことが重要だと日々感じている。(元陸上選手)=第30回

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