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47リポーターズ

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【為末大の視点】家族主義から個人主義へ

2019.8.19 15:58 為末 大
全日本実業団対抗駅伝で一斉にスタートする各チームの第1走者たち=1月1日、群馬県庁前
全日本実業団対抗駅伝で一斉にスタートする各チームの第1走者たち=1月1日、群馬県庁前

 

 陸上競技の実業団チームに所属する選手の移籍について「元のチームを円満に退部しなかった者は無期限で登録できない」と制限する規定の緩和、公正取引委員会が元所属タレントのテレビ出演で圧力をかけた疑いがあるとして芸能事務所を注意、経団連会長の終身雇用はこれ以上守れないという発言-。これらの出来事から見えてくるのは、集団を第一とする家族主義から個人主義への転換ではないだろうか。

 日本社会の組織構造は家族主義的に動いてきた。一度組織に入ったら、組織は個人の面倒を見る。その代わりに個人は組織に忠誠を尽くす。組織は前半でコストをかけて個人を育て、個人は前半に受けた恩を後半に返す。これらは全て人の流動性が低いことで成り立ってきた。良い点は個人にとっては安定があり、組織もゆっくり人を育てられることだろう。悪い点は個人の自由が制限され、組織の動きが遅くなることだろう。

 また、家族主義は曖昧さを好む。人の流動性が低いので関係が悪くなることを避ける。ルールを明文化せず、その場の空気で決めていく。これは通常、摩擦を起こさないためには有利だった。ただ一度力のバランスが崩れると、抑制するルールがないか形骸化されるために、力がある方への忖度が生まれやすい。

 この家族主義の持つ特徴が社会に否定され始めている。背景には時代の変化が激しくなっていることがあるのではないか。変化が求められる時代に、安定する仕組みは不利になる。

 この動きは、若い世代の一部では「個人の時代」がやって来て、ルールや社会に縛られず、自分らしく自由に働いて暮らせる時代が来ると歓迎されている。一方でそれは「能力主義の時代」が来ることでもあり、能力の劣った人を時間をかけて育て、すくい上げる仕組みが崩れることでもある。

 日本は完全な個人主義にはならないと思うが、それでも大きな流れは個人主義に向かっていくだろう。そんな中、一個人はどう生きればいいのか。私は全ての人が一度、自分がフリーになったつもりで、何を強みに何を目標にこれから働くのかを考えるべきだと思う。

 「自分とは何者なのか」という問いに組織が答えを出す時代から、自分自身で答えを出す時代になりつつある。さらに重要なのは、個人主義が進んだ先に社会の中に広がるであろう分断をどうやって接続し直すのかだ。(元陸上選手)=28回

為末 大

名前 :為末 大

プロフィール:ためすえ・だい 1978年、広島市生まれ。法政大卒。陸上男子400メートル障害で2001年と05年の世界選手権で銅メダルを獲得。五輪は00年シドニー、04年アテネ、08年北京と3大会連続出場。著書に「諦める力」「逃げる自由」など。