メニュー 閉じる メニュー

【為末大の視点】学校単体から地域連携へ 部活動の新しい形

2019.4.9 14:06 為末 大
第91回選抜高校野球大会で習志野を破り30年ぶり、単独最多の5度目の優勝を果たし喜ぶ石川(1)ら東邦ナイン=3日、甲子園球場
第91回選抜高校野球大会で習志野を破り30年ぶり、単独最多の5度目の優勝を果たし喜ぶ石川(1)ら東邦ナイン=3日、甲子園球場

 

 ここ数年で部活動の課題が明らかになってきた。一番の課題は教員の長時間労働の一因になっていることだろう。働き方改革が問われている。

 スポーツ大会に学校名で出場するため、公式な学校の活動の一環にみえることもあるが、部活動は課外活動であり任意の活動とされている。だが現状では教員が顧問を務めることが半ば強制されている側面もある。

 もう一つの課題は指導の質にばらつきがあることだ。部活動の指導者になるにはスポーツ指導のライセンスもいらず、全くの未経験者がいきなり指導を任されている例も少なくない。体罰問題で明らかになった高圧的な指導やハラスメントの問題も依然としてある。

 部活動は個人的な体験から、見方が百八十度異なる。私は部活動肯定派だ。それは人生で部活動から得たものが大きかったからで、嫌な経験をしたり、失うものが大きかったりした人は否定的な捉え方をするだろう。部活動は社会にとってメリットがあるのか、課題を解決できるのかを考えてみたい。

 ▽人生に影響

 部活動の一番の成果は、広くスポーツや文化活動をする機会を提供したことだろう。スポーツの普及と強化の支援でアジア諸国を回っていると、ほとんどの国で「部活動のシステムを取り入れたい」という話が出てくる。中国を訪れると、部活動で才能がピックアップされる仕組みについて強い興味を持っていた。どの国も子どもたちにスポーツを広げる上で苦労している。課題を抱えながらも、日本はこれまで部活動によってそれを実現してきた。

 米国の心理学者、アンジェラ・ダックワース氏は「GRIT(やり抜く力)」と呼ばれる概念を提唱している。粘り強さや一貫性を表したものだ。「GRIT」は学校での成績以上に人生に影響を与えると言われ、課外活動(スポーツ)で向上すると考えられている。

 米国では親の収入により課外活動の有無の差が激しくなり、運動能力も親の収入と関係するようになっている。日本の部活動はこの収入格差による教育格差を抑える役割を担ってきた面もある。部活動があることで人生が変わった人も多くいるだろう。

 ▽発想の変換

 部活動の本来の目的はスポーツや文化活動による教育で、学校にこだわる必要はないと考えている。教員が必ずしも指導者である必要はないし、自校の生徒だけに指導を絞らなくてもいいはずだ。実際に、教育に地域の力を活用している例は部活動以外でも見られ始めている。

 次のような変更を加えることで、部活動は違ったものになるだろう。

 (1)学校名以外での参加を中学や高校の試合で認め、複数校で一つのチームを可能にする。

 (2)放課後や休日のグラウンドは地域のものと認識を変え、地域型クラブと連携して外部のコーチや子どもたちと同じチームをつくる。

 (3)一定のガイドラインを定め、練習時間に制限をかける。

 大きなコンセプトは学校単体から地域との連携へ変えることだ。部活動の指導者で情熱を持っている人は、地域クラブの指導者を兼ねてもいい。

 少子化の影響で、人数が多いスポーツなどは1校だけではチームを組めない例が出ている。学校名だけの出場は多かれ少なかれ成り立たなくなっていくから、地域名やクラブ名での参加を早く認めるべきだろう。

 さらにグラウンドの開放は今の方法では教員への負担が大きい。地域クラブに管理を引き受けてもらえれば、その負担も軽減される。発想を変えてグラウンドは共有物と考え、責任も学校だけではなく地域と分担するイメージだ。

 そして学校対抗などで過熱しがちなトレーニングに一定の制限をかけるべきだ。練習時間が決められた中で、勝とうと思えばトレーニングの質を高めるしかなくなる。

 スポーツ教育の弊害ばかりが目についているが、多くの人がスポーツに触れる仕組みを作ったという点で部活動は評価されるべきだ。今の時代にはそぐわなくなっており、新しい形に変わる必要がある。それさえできれば、スポーツや文化活動は子どもたちの教育に引き続き貢献できると思う。(元陸上選手)=25回=

為末 大

名前 :為末 大

プロフィール:ためすえ・だい 1978年、広島市生まれ。法政大卒。陸上男子400メートル障害で2001年と05年の世界選手権で銅メダルを獲得。五輪は00年シドニー、04年アテネ、08年北京と3大会連続出場。著書に「諦める力」「逃げる自由」など。

関連記事 一覧へ