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【為末大の視点】スポーツの多様性

2018.10.1 15:01 為末 大
ジャカルタ・アジア大会で金メダルを獲得した選手たち(共同)
ジャカルタ・アジア大会で金メダルを獲得した選手たち(共同)

 

 スポーツでも最近、ダイバーシティー(多様性)が重要視されている。多くの場合、ダイバーシティーを実現するときには、比率を目標に掲げることが多い。女性比率、外国人比率などだ。

 スポーツで例えば、パラアスリートを「障害者」というカテゴリーに入れてしまうことに対して抵抗する選手も多い。それぞれ個性がある別個の存在なのだから、そのようなカテゴリーで分類するのは乱暴ではないかと。

 一方で、性別や国籍や職業などのカテゴリーより個性を重要視するということは、結果として女性比率や外国人比率ということの意味をなくしてしまう。人はすでに個性的なのだから、ランダムに集めれば多様性は担保できるという考え方になる。

 私たちにはたくさんのアイデンティティーがある。私は日本人であり、男性で、広島生まれで、元陸上のハードル選手、という具合にだ。この比率が人生で増えたり減ったり、入れ替わったりしている。また、このカテゴリー全てを外した上でなお、その人らしさというのも存在するだろう。

 引退で「現役スポーツ選手」というカテゴリーから外れた途端に、大きな喪失感と不安を抱えたのを覚えている。これがなくなって、自分には一体何が残っているのだろうかと途方に暮れた。他方で「元スポーツ選手」といつまでも言われ、違う仕事もしているんだと言いたくなる時もある。人には何かに所属していたいが、同時にひとくくりにされることを嫌がる厄介なところがある。

 現在は、カテゴリーで人を分け、その比率で多様性を実現しようとしている。その手法しか現実的にはできないからか、やはりそういったカテゴリーは強力に人に影響を与えているからなのだろうと思う。将来的には会員制交流サイト(SNS)などの分析により価値観や個性の違いで人を割り振り、多様性を実現しようとする取り組みも生まれるかもしれない。ただ、その時には個性に名前がついて、新しいカテゴリーになっているだけかもしれないが。

 スポーツ選手にもいろんなタイプがいて、努力が嫌いな選手もいる。それでも「スポーツ」というくくりが一番理解しやすいし、ざっくりとは違いを見いだしやすい。重要なのはカテゴリーの中でも多様性はあるのだということを認識しておくことだろうと思う。=20回=

為末 大

名前 :為末 大

プロフィール:ためすえ・だい 1978年、広島市生まれ。法政大卒。陸上男子400メートル障害で2001年と05年の世界選手権で銅メダルを獲得。五輪は00年シドニー、04年アテネ、08年北京と3大会連続出場。著書に「諦める力」「逃げる自由」など。