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【為末大の視点】W杯でのリーダー論

2018.7.2 11:45 為末 大
ポーランド戦の後半、長谷部(左)に指示を出す西野監督=28日、ボルゴグラード(共同)
ポーランド戦の後半、長谷部(左)に指示を出す西野監督=28日、ボルゴグラード(共同)

 

 サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会のポーランド戦で日本が決勝トーナメント進出を決めたが、試合終盤の守りに徹した戦い方にさまざまな意見が出た。戦術的に正しかったのかなど議論があるが「リーダー論」として考えてみたい。

 スポーツ現場でのリーダーの意思決定には、三つの特徴がある。
 
 1、勝利条件が不完全であること
 2、意見は常に完全には一致しないこと
 3、全ては常に結果で評価されること

 代表チームを率いるようなリーダーの本当に難しい点は「勝利条件」を設定しなければならないことだ。勝利条件は「目的」と言い換えてもいい。戦略も、戦術も全て勝利条件によって定義される。勝利条件は「勝つことに決まっているだろう」と思われる方もいるかもしれないが、今回のように本当に決勝トーナメントに進むことだけに最適化された戦術に反発する人もいる。

 実はスポーツは「エンターテインメントの要素」「あるべきスポーツマンの姿」など複雑な要素を持っていて、「何を持って善とするか」が人によって違う。見ている人みんながそれを統一してくれればいいが、それは現実的にあり得ないことで、だからリーダーがチームの勝利条件(目的)を決めなければならない。

 そして、リーダーが勝利条件と戦術を決定しても、スタッフを含めチームの全員が完全に納得することは珍しい。個々人の価値観は違い、見えている風景も違う以上、仮に情報が出そろっても個々の最適解は違ってくる。それにも関わらず、チームとしては戦術を統一しなければならない。特に今回は真っ向勝負にこだわりがある選手にとっては辛い戦い方だったかもしれないが、それでも全体が統一されなければどんな戦術も意味をなさない。そしていかに優れた戦術も、時の運で失敗することがある。失敗すれば、全ての意思決定は批判対象になる。コーチはいつも情報が出そろう前に決定し、観戦者はいつも情報が出そろった後に評価する。

 ラグビーのコーチを指導する中竹竜二さんが「フォロワーシップ」という言葉を提唱している。リーダーが何かを意思決定しても実行するのはチームであり、フォロワーだ。だから、フォロワーシップの限界を超えたリーダーシップは機能しない。

 勝利条件を、完全に決勝トーナメント進出に絞り込んだ西野朗監督のリーダーシップと、そしてそれを貫いた選手のフォロワーシップ。その二つがポーランド戦を通じて強く感じたことだ。チームとは何かを考えさせられる試合だった。=18回=

為末 大

名前 :為末 大

プロフィール:ためすえ・だい 1978年、広島市生まれ。法政大卒。陸上男子400メートル障害で2001年と05年の世界選手権で銅メダルを獲得。五輪は00年シドニー、04年アテネ、08年北京と3大会連続出場。著書に「諦める力」「逃げる自由」など。