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新しい力

この国はどこへ行くのだろうか。漠然とした不安に襲われながらも、目を凝らすと未来の姿を示す人が見える。耳を澄ますと将来の夢を語る声が聞こえる。まだ弱々しいかもしれないが、社会を変える「新しい力」は、確実に芽吹いている。

 「故郷のために」    生き抜く力、学びやから 

2017.2.2 22:27
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文科省官僚から副校長    モノクロの町がカラーに

校内スポーツ大会で、生徒らに交じってソフトボールの試合を応援する南郷市兵(左から2人目)。「この子たちには学校の外で、学ぶ意味、生きる意味を感じてほしい」=福島県広野町の県立ふたば未来学園高校(撮影・中村靖治)
校内スポーツ大会で、生徒らに交じってソフトボールの試合を応援する南郷市兵(左から2人目)。「この子たちには学校の外で、学ぶ意味、生きる意味を感じてほしい」=福島県広野町の県立ふたば未来学園高校(撮影・中村靖治)

 太平洋を望む小高い丘に、その高校はある。地域や社会の「変革者たれ」を建学の精神として掲げ昨年4月、福島県広野町に新設された県立ふたば未来学園だ。東京電力福島第1原発事故に翻弄(ほんろう)される故郷と向き合う若者たちが集う。
 「行け、行けー」。真夏の日差しが照りつけるグラウンドをクラス別にそろえた色とりどりのユニホームが駆け抜ける。校内スポーツ大会で、歓声を上げソフトボールの試合を応援する生徒たち。その輪の中に、文部科学省の官僚から初代副校長となった南郷市兵(なんごう・いっぺい)(37)の姿もあった。

 
 

 ▽復興の要

 第1原発から南に約25キロ離れた所にあるふたば未来学園。全校生徒は2年生までの278人で、半数以上は広野町を含む原発周辺で避難を経験した双葉郡8町村の出身だ。自宅に戻れず避難先の仮設住宅や、学校近くの寮から通う生徒も多い。
 創立のきっかけは、双葉郡の教育関係者が「原発事故の対応に追われるだけでなく、子どもたちのために前向きなことを始めたい」と口にしたことだった。事故前から郡内にあった五つの高校は避難先で授業を再開していたが、生徒数は減少していた。
 双葉郡と福島県、文科省で検討が始まった。地元の子どもたちの意見も聞き入れ「東日本大震災と原発事故の教訓を生かし、復興に貢献できる人材を育成する」との方針を掲げ、中高一貫校の新設を決めた。先行してオープンした高校が、この学園だ。
 文科省の事務方として初めから携わった南郷は「絵に描いた餅を実現させる」ために県へ出向し副校長に。一度は避難で人がいなくなった場所に開校したことには批判もあるが「放射線量は下がっており、原発でトラブルが起きた際の避難手順も整えている。高校は復興の要です」。
 南郷は高校時代、「軽い気持ち」で阪神大震災のボランティアに出掛けたことがある。「何かできることはありますか」と声を掛けた女性から「あるわけないやろ」と怒鳴りつけられた。「ショックだった。家が壊れたり家族を亡くしたり、リアルな被害がそこにあるとやっと思い至った」
 東日本大震災では国の一員として被災地入りした。目の前にあの時と同じ痛みがあった。「今度こそ何とかしたい」。その気持ちが原動力だ。

広野駅からふたば未来学園高校に向かう坂道を上る生徒たち=福島県広野町(撮影・中村靖治)
広野駅からふたば未来学園高校に向かう坂道を上る生徒たち=福島県広野町(撮影・中村靖治)

 ▽安心な場

 全町避難が続く富岡町出身の2年高橋涼花(たかはし・りょうか)(17)は、双子の姉と学園の寮に入っている。「ここではどんどん解放される感じ。富岡の友人もいるし素の自分に戻れた」と明るく笑う。
 避難先から通った内陸の中学には同じ境遇の人はなく、友人ができても遠慮して自分の意見やふるさとのことを口にできなかった。「本当は帰りたい気持ちを分かってほしかった」。今では活発さを取り戻し、生徒会の副会長を務めるなどリーダー的な存在だ。
 高橋のように、避難先で自分を押し込めてきた生徒は多い。南郷は「地元の高校だからこそ、生徒は安心したと思う。それだけでもつくった意義がありました」と話す。
 制服姿の生徒たちが商店街に寄り道し、駅のホームでおしゃべりする―。原発事故による避難で人口が激減した広野町が、そんな当たり前の光景を取り戻したことを「モノクロだった町がカラーになった」と感じる。

 ▽共に歩む

 ふたば未来学園の生徒たちは、地域に飛び出し現実から学ぶ。授業の一環で、第1原発廃炉の拠点となっているサッカー施設「Jヴィレッジ」や町役場に行くことも。
 生徒のやりたいことを実現させるため、南郷は人脈を駆使して地域の大人を紹介し、夜までフィールドワークに付き合う。「原発事故は大人の責任。せめて充実した教育環境をつくるのが僕の役割です」
 生徒たちは「ふるさとのために」とまっすぐな目で語る。1年の遠藤瞭(えんどう・りょう)(16)もその一人だ。第1原発が立地する大熊町出身。大学で原子力を学び、住民の帰還や町の復興に貢献することが目標だ。「大熊が好きだから帰りたい。そのために何かしたいんです」
 部活動で、事故収束に携わる作業員と住民が共生するための方策を考える生徒もいる。そんな彼らを南郷は「本気で世の中を変えようとするチャレンジャー」と評す。
 生徒たちの直面する現実が過酷だからこそ「しんどい道でも、前向きに一歩踏み出せる人が必要だ。自ら解決策を見つけ、生き抜く力を持つ若者を育てたいんです」。
 南郷は「学校が軌道に乗るのを見届ける。10年はいたい」と語る。いつかここを去るだろうが「それで関係が終わるわけじゃない。生徒たちは、地域の将来を一緒に考えていく一生の仲間です」。共に歩んでいくつもりだ。(敬称略、文・兼次亜衣子、写真・中村靖治)

◎打てば響く人 

 福島で勤務していた時、私は何度も双葉郡に通った。長引く避難で街が荒れたり、作業員の宿舎が立ち並んだり―。変貌する故郷の復興を、生徒たちが背負わされているのではないか。そんな心配を南郷市兵(なんごう・いっぺい)は「大人の方がステレオタイプです。彼らは自然体で課題と向き合っています」と笑い飛ばす。
 一度入った民間企業を飛び出し、試験を受けて文部科学省に入った経歴の持ち主。柔らかな物腰だが内に秘めた思いは熱く、生徒にとっての「打てば響く太鼓」になることが目標だという。
 原発事故の前から双葉郡にあった五つの高校は来春に休校するが「必ず復活させる。それまで伝統と魂を引き継ぎ、その火を絶やさない」と誓う。5校の校旗はふたば未来学園に飾られ、その日を待つ予定だ。(敬称略)

 

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