メニュー 閉じる

47News

47リポーターズ

47リポーターズ

新しい力

この国はどこへ行くのだろうか。漠然とした不安に襲われながらも、目を凝らすと未来の姿を示す人が見える。耳を澄ますと将来の夢を語る声が聞こえる。まだ弱々しいかもしれないが、社会を変える「新しい力」は、確実に芽吹いている。

 「みんなが主役」   挑戦する流れつくる 

2017.2.2 22:24
Share on Google+ このエントリーをはてなブックマークに追加

 地域おこし協力隊員    朝市から起業を

 
 

 手作りバッグをテーブルの上に広げて、佐沢由佳子(さざわ・ゆかこ)(39)が「寄っていって」と声を掛けると、朝市の客が「かわいい」と次々と手に取った。インターネットを通じて販売することはあったが「店を出すことで、どんな商品が売れるのか肌で分かってきましたよ」
 秋田県五城目町にある朝市通り。日曜日は野菜や山菜、川魚といったいつもの店だけではない。趣味で作った雑貨、手作りの菓子やパン、占いコーナーなどが加わり、お客を呼ぶ陽気な声が飛び交っている。
 「いろんな人が出店していて、オーケストラみたいでしょう」。「朝市わくわく盛り上げ隊」を佐沢らと立ち上げ、活性化に取り組む石田万梨奈(いしだ・まりな)(40)が笑顔を見せた。

朝市に出店する佐沢由佳子(左)と話す石田万梨奈(右)ら。浴衣を着て来れば一部商品が割引との宣伝もあり浴衣姿が目立つ=秋田県五城目町(撮影・浅川広則)
朝市に出店する佐沢由佳子(左)と話す石田万梨奈(右)ら。浴衣を着て来れば一部商品が割引との宣伝もあり浴衣姿が目立つ=秋田県五城目町(撮影・浅川広則)

 ▽可能性の場所

 朝市が開かれるのは毎月、下1桁に2、5、7、0が付く日だ。500年を超える歴史があるものの、近年は高齢化や人口の減少から出店数が急速に減ってきた。
 東京都出身の石田は、2014年春に「地域おこし協力隊員」として来た。国の財政支援を受けた五城目町から、移住促進や起業サポートの仕事を委嘱されている。
 「朝市の活気を取り戻してほしい」と頼まれたわけではない。だが、みんなが交流する様子を見て、朝市の新しい役割に気付いた。「住民が自分を表現する場にもなる。そのためにも若者がもっと気軽に参加できるようにしたい」
 朝市通り沿いで生まれ育った佐沢も「なにげない日常が消えていくのは寂しい」と共鳴する。昨年、町民有志による盛り上げ隊をつくった。
 町と協力し今年4月から、日曜と重なる定期開催日は「ごじょうめ朝市プラス」と名付けられ特別な日になる。前日に仕事がある若者でも出店しやすいようにと、朝市の開始時間は早朝からではなく、午前9時に遅らせた。参加方法やお得なイベントの情報は、インターネットを通じて広く届けるようにもした。
 その結果、若い人や町外からの参加が増え、昨年の平均より出店は2倍、来場者は7倍にもなった。今ではコーヒー店や飲食店などを開きたい人が腕試しする場所、新しく開発した商品の感触を探る“アンテナショップ”にもなっている。
 石田は「朝市は小さな起業の場でもある。まさに可能性の固まりです」と力を込めた。

キイチゴビールを開発した鈴木矩彦(左)と美容師の畠山智美。2人とも起業して「馬場目ベース」(後方)に入居している=秋田県五城目町(撮影・浅川広則)\
キイチゴビールを開発した鈴木矩彦(左)と美容師の畠山智美。2人とも起業して「馬場目ベース」(後方)に入居している=秋田県五城目町(撮影・浅川広則)\

 ▽郷土の持つ力

 石田は東大大学院で市民メディアを研究。勤めた神奈川県の文化施設では、国際理解を深める企画展づくりに携わる。一方で「問題の解決を担う側に回ってみたい」という思いが募っていた。
 そんな時、先に五城目町への移住を決めた知り合いから誘いがあった。小さい頃から農山村に強い憧れもあり「田舎の方が面白いかも」と、協力隊員になる決断をする。
 町で暮らすようになって2年を超え、石田の価値観は大きく変わってきた。「『都会の大学を出て、都会で就職することが成功だ』という意識があって、それが人口の減少に拍車を掛けている。まずそれを変える必要がありますね」
 県立五城目高校の生徒たち向けには、地元の農家や木工職人などにインタビューする授業を手掛ける。郷土の持つ力に気付いてもらい「生きがいを持ってここでも暮らせることを、子どもたちにも広めていきたい」。

 ▽自分から動く

 石田ら地域おこし協力隊の活動拠点は、閉校となった小学校舎を活用し3年前に開設した「馬場目ベース」。東京や横浜などから来たコンサルタントやITの企業が入り、刺激を与え合う場だ。
 9月には地元で起業した2人が加わった。1人が「キイチゴを核とした地場産業を育てよう」とキイチゴを加えて発酵させたビールづくりに乗り出した農家の鈴木矩彦(すずき・のりひこ)(44)。ビールは仲間内でも評判で「冬には本格販売を始め、朝市にも出店したい」と意気込む。
 もう1人は美容師の畠山智美(はたけやま・さとみ)(35)。3人の子どもを育てながら「自分に合った働き方がしたい」と、老人ホームなどに出向く訪問美容院を始めた。鈴木も畠山も石田らに後押しされた。鈴木は「協力隊のおかげで、夢に挑戦しやすい流れになっています」。
 バッグ販売に手応えを感じた佐沢も「次は朝市通りに、みんなが集まれる場所をつくりたい」と夢を語るようになった。
 石田は言う。「みんなの心のどこかにあった思いが行動に移され始めました。主役はあくまで町民。自分から動く人がもっと増えてほしい」
 協力隊の任期は来年3月で終わるが、石田は、このまま住み続け、町に貢献するため何か起業するつもりだ。
 「やりたいことはたくさんある。ここまで面白くしたのに、去るなんてもったいない」。都会にはない、自分たちが変えることができる「余白」がここにはあるから。(敬称略、文・高田知佳、写真・浅川広則)

◎触媒のような存在

 地域おこし協力隊の石田万梨奈(いしだ・まりな)らの活動を見ていると、田舎を「楽しんでいる」ことがよく分かる。例えば、朝市の出店費用の安さに「昔から変わらない、町の懐の深さを感じます」と感動する。住民にとっては当たり前のことも、まぶしく受け止める感受性があるからだ。
 だから、町民の活動にも素直に「すごい!」と褒めることができる。その言葉に背中を押され、受け身だった住民も「自分も地域の役に立ちたい」と次々と考えるようになってきた。石田ら都会から来た協力隊員が、一種の触媒の役割を果たしているのだろう。
 人口減少が進む秋田県の中でも、五城目町は特に深刻だ。だからこそ石田は、ここにこだわる。「この町が元気であれば、日本の未来は明るいはずです」。(敬称略)

 

最新記事

関連記事一覧