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新しい力

この国はどこへ行くのだろうか。漠然とした不安に襲われながらも、目を凝らすと未来の姿を示す人が見える。耳を澄ますと将来の夢を語る声が聞こえる。まだ弱々しいかもしれないが、社会を変える「新しい力」は、確実に芽吹いている。

 「園舎はいらない」   自然の中、生きる力を育む  

2017.2.2 22:21
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35歳で「森のようちえん」      静かに子ども見守る

森での一日を振り返る「またねの会」。拝郷弘実が最後に呼び掛ける。「明日も元気に、森のようちえん来れる人!」「ハーイ!」=兵庫県西宮市の甲山森林公園
森での一日を振り返る「またねの会」。拝郷弘実が最後に呼び掛ける。「明日も元気に、森のようちえん来れる人!」「ハーイ!」=兵庫県西宮市の甲山森林公園

 新緑の木漏れ日が柔らかく地面に映る朝。森に入る前、広場で小さな子どもたちが手をつなぎ輪になった。「立派な木のように、立ってください」。拝郷弘実(はいごう・ひろみ)(34)の声に合わせ、18人がピンと背筋を伸ばし両足の指に力を込めた。こうやると、子どもたちは自然に集中する。
 みんな長袖、長ズボン姿に長靴を履いている。肩から水筒をぶら下げ、リュックには着替えと弁当、補充用の水、替えの靴まで入れている。虫捕り網と虫かご持ってさあ「おさんぽ」に出発だ。

 

 

 
 

 ▽子どもの声

 3歳から6歳までの子どもたちの後を歩きながら、周りに気を配るのは野沢俊索(のざわ・しゅんさく)(40)。「森のようちえん さんぽみち」の活動をしているNPO法人「ネイチャーマジック」の理事長だ。
 活動の舞台は、兵庫県西宮市の郊外にある甲山(かぶとやま)森林公園。通う子どもたちに園舎はなく、雨の日も風の日も雪の日も、親が迎えに来る午後2時までは外で過ごす。
 さんぽのルールには「大人の見える所にいる」がある。でも大人が「早く」や「行くよ」などと促すことはない。基本的に子どもたちのペースに合わせる。だから普通に歩いて5分の距離が1時間半かかることも。
 森に入ると遊びを自分たちで見つけた。松ぼっくりを拾ったり、散歩中の犬と遊んだり。小さなカニがいると「網貸して!」「いや、手でいける」「このかごに入れよか」。口々に叫びながら真剣な表情で、目の前の“獲物”に集中する。
 沢ではささ舟を浮かべ、木の枝で「ほんまに渡れる橋」を作ることも。雨の日には泥で水路やダムを作り、その泥水を使ってコーヒー屋さんごっこをやり始めた。
 見守る野沢は「子どもの声しかしない状態が理想です」と話す。その理由は「失敗を繰り返しながら、自分たちだけで考えて行動する体験を積み重ねることが大切です。これによって自分の物差しをしっかりつくり、これからの人生を支える“心の根っこ”を自分の中に張っていくのです」。

入ったばかりの子どもの手助けをする野沢俊索。子どもたちはやがて、お弁当の準備や片付けなど、自分のことは自分でするようになる=兵庫県西宮市の甲山森林公園
入ったばかりの子どもの手助けをする野沢俊索。子どもたちはやがて、お弁当の準備や片付けなど、自分のことは自分でするようになる=兵庫県西宮市の甲山森林公園

 ▽人生の土台

 野沢は埼玉県で生まれ幼少期は山と川で遊んだ。神戸での大学生活中にたまたま林間学校で小学生と一緒に6日間過ごすアルバイトを経験、昔を思い出し「この世界っていいな、と思いました。今の活動の原点です」。
 何度も関わって野外教育の経験と技術を身に付け、卒業と同時にネイチャーマジックを立ち上げる。学生ボランティアだった拝郷もスタッフに加わった。
 最初は小中学生を対象に、週末や夏休みの野外教育キャンプを主催する。子どもたちに知識はあっても自然体験は乏しい。「何もできないという現実にぶち当たり、かんしゃくを起こす子たちを見てきました」
 でもキャンプが終わる頃には、成功体験を積み重ね、生き生きとした表情に変わる。だが都会に戻るとそれが続かない。「人生の土台をつくる幼児期に、日常的に自然と触れ合うことが大切ではないかと考えました」
 その頃、全国的に広まり始めた、自然の中で子どもたちを育てる森のようちえんの活動を知り「自分たちが思い描いていたものは、まさにこれだと思いました」。
 4年の準備を経て2011年、35歳で「さんぽみち」を始める。当初の入園児はゼロだったが月1回、親子で集まる会を開いて活動を広め、開園6年目で「やっとうまく回り始めた」。でも、月3万円ほどの保育料だけではまだ赤字で、他の活動や講師などで穴埋めしているという。

 ▽市民権得る

 「自然の中での活動に危険はつきものです。大切なのは、子ども自身がその危険を認識し、対処していく力を身に付けることです。そうやって、生きる力を育むのです」
 乳幼児向けの救急法のインストラクターでもある野沢は、今年5月に開いた森のようちえんの指導者養成講座でこう語り掛けながら、森にある危険からの回避方法やけがの対処などを教えた。
 講座は自分たちの勉強も兼ねて毎年開き、今年は20~40代の人たちが全国から集まった。森のようちえんを始めようという人もおり「背中を押してあげたいですね」。
 野沢は自らの活動を年に数回公開している。仙台市から見学に来た「立華(たちばな)認定こども園」副園長、菊田秀昭(きくた・ひであき)(49)は「同じ年齢の子どもに比べ、できることの多さに驚きました。野沢さんらの待つ姿勢、自分で気付くきっかけを与える声掛けが素晴らしい」と評価し、「自分たちの教育にも生かしたい」と話す。
 森のようちえんは市民権を得つつあり、全国ネットワークに入る団体会員だけで約180ある。野沢の次の夢は「野外教育を取り入れた小学校づくりです」。森で学ぶことが一つの選択肢になる社会を目指している。(敬称略、文と写真・尾崎優美)

◎森でしかできない体験

 息子を「森のようちえん さんぽみち」に通わせているが、親の負担は軽くない。遠い家庭で送迎に片道40分かかる。けがや事故のリスクもある。絵を描いたり、歌って踊ったりすることは年に数回しかなく、文化的な活動が少な過ぎると不満を漏らす親もいる。
 「森には全てがあるので人工的な遊び道具は持ち込みません。自然の中でしかできない体験をする方が大事です」と野沢俊索(のざわ・しゅんさく)は言い切るが、3年間ずっと屋外で過ごした子が、小学校の教室を窮屈に思わないか心配だ。
 それでもどんな環境でもたくましく遊び、子どもたちの中で物おじせず自分を出せるようになった息子を見ていると、通わせる価値があったと思う。文化的なことは、親が意識して触れさせればバランスが取れるのではないか。(敬称略)

 

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