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【第30回 米国】 ヘボコンは世界を巡る  稚拙さ競う敗者の祭典

2017.12.14 14:33
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ヘボコンの試合に盛り上がる子どもたち。自分の作品が活躍できるか、表情は真剣そのもの=米カリフォルニア州サンマテオ(撮影・高橋邦典、共同)
ヘボコンの試合に盛り上がる子どもたち。自分の作品が活躍できるか、表情は真剣そのもの=米カリフォルニア州サンマテオ(撮影・高橋邦典、共同)

 乾いた心地よい5月の風が木々を揺らす。米国カリフォルニア州サンマテオで開かれたもの作りの祭典「メーカーフェア」。その一角にあるドーム型テントの中は、外と違って熱気に包まれていた。ロボットのヘボさを競う「ヘボコン」に来場者の視線が集まる。

 ルールはいたって簡単だ。縦50センチ、横100センチのベニヤ板の上で二つのロボットが、相撲のように対戦する。板からはみ出したり、倒れたりしたら負け。そばには100円ショップで買ったアヒルなどのおもちゃとモーター、道具類が用意されている。なぜか割り箸もある。これらを使って、参加者は手作りする。

 高度で緻密なロボコンと違い、稚拙な技術が参加の条件。「勝者は恥じよ、敗者は誇れ」「すべての失敗は美しい」。ヘボコンの心得である。遠隔操作や人工知能(AI)の使用は「ご法度」で、減点の対象に。

 ヘボコンの発案者、石川大樹(右)と司会を務めたエイドリアン・チョイ。ロボット工学を学んだエイドリアンだが、石川のことを師匠と仰いでいる=米カリフォルニア州サンマテオ(撮影・高橋邦典、共同)
 ヘボコンの発案者、石川大樹(右)と司会を務めたエイドリアン・チョイ。ロボット工学を学んだエイドリアンだが、石川のことを師匠と仰いでいる=米カリフォルニア州サンマテオ(撮影・高橋邦典、共同)

 ▽日本発

 近くのブースでは、天井からつり下げた輪をドローンが通り抜ける競技に歓声が上がる。最先端の技術がイベントの主流だけに、ヘボコンは異彩を放つ。時代をさかのぼったかのような懐かしさが漂う。日本人には「昭和の香り」がする。

 大会はトーナメント方式。作者も多士済々。ヘボさが際立つロボットが続々登場した。対戦が始まっても全く動かない。相手におしりを向けて逆方向に歩きだす。そのたびに笑いが渦巻く。

 マックス・ブレンヌマン(12)の「武器付き」の車は、1回戦で敗退した。「車が想定した方向に進まなかったのは残念。でも自分のロボットを作るのは楽しい」

 オハイオ州に住むエンジニアのザック・ローソン(22)は、車の先端に白、赤、青の小さな手まりのような球を三つ付けた。しかし小さな女の子が作った犬型ロボットに押し負ける。「米国の旗の色を表した。子どもに負けるなんて、超大国の将来を暗示しているね」

 ヘボコンを発案したのは日本人の石川大樹(いしかわ・だいじゅ)(37)。技術者ではない。ニフティ(東京)のインターネット娯楽サイト「デイリーポータルZ」の編集に携わる。世の中で注目されている工作はいつも完成品ばかり。逆に失敗作が面白いのではないかと思ったのがきっかけだ。2014年にブログで大会を呼び掛けた。

 日本初大会の映像が動画投稿サイト「ユーチューブ」で流れ、人気に火が付く。「HEBOCON」として知られるようになり、世界25カ国以上で大会が開催された。先進国だけではない。コロンビアやボリビア、モロッコと裾野は広がる。

 

ヘボコン会場の横で大人気だった「デカ顔」。かぶると顔が大きく見える単純な仕掛けだが、終始、笑いが絶えなかった=米カリフォルニア州サンマテオ(撮影・高橋邦典、共同)
ヘボコン会場の横で大人気だった「デカ顔」。かぶると顔が大きく見える単純な仕掛けだが、終始、笑いが絶えなかった=米カリフォルニア州サンマテオ(撮影・高橋邦典、共同)

▽文学

 今回、司会を務めたエイドリアン・チョイ(28)も、とりこになった一人。大学でロボット工学を専攻した。今、シカゴの科学館に勤めている。「敷居が高くなく、誰でも参加できるのがいい」と魅力を語る。

 日本発の地味な大会が、なぜ世界で受けるのか。「ヘボコンは工学ではなく、文学である」。石川の定義にヒントが隠されている。「ヘボいことは、人間の志の低さや弱さを内在している。これまで捨てられてきた概念です。でも逆にそれがドラマになる。うまくできないことは楽しく、人生を明るくする」と話す。

 単なる娯楽を超えた役割に期待する専門家もいる。スウェーデンのマルメ大講師のデビッド・カルティーエス(43)によると、スペインのムルシア州では14歳の子どもが工作技術を学ぶ短期集中講座の教材としてヘボコンを利用している。

 カルティーエスは「知識がない人も作れるし、技術にたけた人が、より創造的考察を深める可能性も秘めている。そして誰もが、それぞれの物語をつくることができる」と指摘する。

カリフォルニア州サンマテオ
カリフォルニア州サンマテオ

 ▽軽い

 優勝者だけでなく、圧倒的な技術力の低さを表現したロボットに最高賞の「ヘボい賞」が贈られる。その決め方も「なんとなく、観衆の拍手の大きさ」(石川)であり、緩い空気が流れている。

 今回受賞したのはスタンフォード在住の女性エンジニア、カレン・ルン(26)。猫をイメージし、前面に付けたシャベルで相手を寄り切ろうと工夫した。でもまっすぐ進まず、闘わずしてあっさり板から、はみ出た。

 石川が受賞理由を説明する。「本人は猫と言っているが、全く猫に見えないのが面白い。ロボットがヘボいだけでなく、作った人も相当ヘボい」

 ルンは「技術に関係なく、夢をつくれるのが魅力。今はすごく、ヘボい気分」と興奮気味。表彰式で、お菓子の箱を高く積み重ねたトロフィーを石川から受け取った。

 でも中身は空っぽ。ニフティ本社で女性社員が食べた菓子の空箱を空路、わざわざ運び、組み立てた。当然、軽い。「えー。お菓子は入ってないの?」とルンが叫ぶ。ヘボコンは「最終章」もヘボいのである。(敬称略、共同通信・志田勉)

【エピローグ】 デカ顔

 段ボールの箱をかぶると、顔が大きく見える。「メーカーフェア」の一角の展示ブースに、スマートフォンで写真を撮る人の行列ができた。
 石川の同僚のニフティ社員が考案した「デカ顔」である。キャッチフレーズは「大きい顔は周囲の人を笑顔にします」。
 箱の内部にレンズとLED照明を取り付けた。それだけである。でも、なぜか受ける。中年男性は「人生で最高の写真を撮れたよ」と満足げだ。
 ヘボコンとデカ顔。どちらも、AIや最先端技術と一線を画す。素朴でユーモラスな日本発の娯楽が、外国人の心のひだに触れる。経済効率優先の社会に、疲れを感じているのかもしれない。

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