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【第29回 ガーナ】天国への旅立ち祝福 全身全霊、踊る葬儀

2017.12.7 0:00
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 金曜の昼下がり、エメラルド色のギニア湾から吹き付ける湿った海風が、漁師町を包み込む。ガーナ南部マンフォード。72歳で病死したセメント工場の元従業員ジョセフ・ドンコの遺体が、海を見下ろす部屋に運び込まれた。 

 ジョセフの死を嘆き、遺体を前に号泣する遺族の女性たち。それぞれがあふれ出る悲しみに身を任せていた=ガーナ南部マンフォード(撮影・中野智明、共同)
 ジョセフの死を嘆き、遺体を前に号泣する遺族の女性たち。それぞれがあふれ出る悲しみに身を任せていた=ガーナ南部マンフォード(撮影・中野智明、共同)

「なんで私を置いていくの!」。喪服を着た遺族の女性たちが天を仰ぎ、人目をはばからず号泣する。気を失いそうになり、両脇を抱えられた人もいる。

 民族衣装で着飾ったジョセフは、薄いカーテンの先、純白のベッドに横たわっている。ミラーボールが発する赤や青、緑の電光色が、室内を鮮やかに照らし出す。

 日没後、にぎやかな通夜が始まった。DJの若い男性がマイクで叫ぶ。「今夜は遺族に寄り添おう! ヘイ、ヘイ、ヘイ!」。打楽器が繰り出すアップテンポの音楽。巨大スピーカーから、ロック調のゴスペルが大音量で流れる。
 重低音の振動が、遺体にも伝わる。隣の広場では参列者がステップを踏み、思い思いの振り付けで踊り続けた。

 ▽最後のお礼

 遺体の脇で号泣していた女性が広場に出てきた。両手を高々と掲げ、音楽に合わせ大きな体を前後左右に揺らめかす。5分ほどして、ふと空を見上げ恍惚(こうこつ)の表情を浮かべた。漆黒の闇夜に白い歯がぼんやりと浮かんだ。

 「踊っているうちに彼と過ごした楽しい思い出がよみがえり、心地よくなったの」。ジョセフの元妻グレース・アパ(60)がはにかんだ。ジョセフはもの静かでやさしかった。2児を授かったが、結婚から約20年後に「さまざまな事情」で離婚。でも、わだかまりはない。「踊りながら、私たちの素晴らしい人生を祝福していたのよ」

 最愛の人を亡くし絶望の淵にいる遺族たちは、涙を出し切った後は天国へ気持ちよく送りだそうと全身全霊で踊る。会場には涙と笑い、静と動が交錯していた。

 翌日、クリーム色の棺おけが届いた。「SUPER STRONG(超強力)」の文字がひときわ目立つ。ジョセフが働いた会社が販売するセメント袋を模した。娘のアイビー・アサンテ(38)が父の死後に注文した。

 街を行くジョセフのひつぎ。一見風変わりなデザインは、長年父が働いたセメント会社の商品を模して娘のアイビー(左手前、手を顔に当てている女性)が注文した=ガーナ南部マンフォード(撮影・中野智明、共同)(
 街を行くジョセフのひつぎ。一見風変わりなデザインは、長年父が働いたセメント会社の商品を模して娘のアイビー(左手前、手を顔に当てている女性)が注文した=ガーナ南部マンフォード(撮影・中野智明、共同)(

 学校に通ったことがないジョセフは、セメント工場で30年近く働き続けた。子どもに自分と同じ惨めな思いはさせたくなかった。酒もたばこもやらず、給料の大半を教育費につぎ込んだ。アイビーは父のおかげで名門ガーナ大を卒業し、今は港湾公社で働く。

 セメント袋のひつぎは、どこか滑稽だ。しかしアイビーは真面目に語る。「父は私に教育という最高の贈り物をくれた。葬儀は父にお礼をする最後のチャンス。だから、父が誇りにしていた仕事にちなむデザインにしたの」

 ▽ハレルヤ

 教会で葬儀が始まった。参列者の表情は、通夜の時より、さらに明るい。「ハレルヤ! 天使が天国で踊っている!」。ドラムや太鼓の伴奏とともに両手をたたき、ひつぎの前で軽快にリズムを取る。

 牧師エマニュエル・アバカ(60)が説教を始めた。「お金に執着しちゃだめだ」。いたって真面目な人生訓。だが、コミカルな口調に会場が何度も爆笑に包まれた。

 「なぜ葬儀で人を笑わせるかだって?」。エマニュエルに尋ねると、逆に不思議がられた。「ジョセフは、子どもたちに教育という素晴らしい贈り物をした。その彼が天国へ旅立つんだ。みんなで楽しく祝ってあげようじゃないか」

 カカオ、聖書、大砲―。ジョセフのひつぎを製作した職人クジョー・アフトゥ(32)の工房には、色とりどりの個性的な作品が並ぶ。カカオはカカオ農家、聖書は熱心なキリスト教徒、大砲は軍人の遺族が注文した。

 一般のひつぎより高価だが、注文は引きも切らない。クジョーは「遺族が少しでも明るい気持ちになってほしい」と願いを込めて作る。

 ▽死者の尊厳

 派手なひつぎとにぎやかな葬儀の歴史は、意外と浅い。半世紀ほど前、ある大工が身内のため、ひつぎに装飾を施したのが始まりとされる。DJなどを雇うディスコ調は近年の流行だ。形式にとらわれず感情をさらけ出すガーナの葬儀は、日本と正反対。しかし、死者の尊厳を重んじる気持ちに変わりはない。

 ジョセフの埋葬を終え、音楽に合わせ踊る娘のアイビー(中央)。参列者の笑顔が彼女を元気にした=ガーナ南部マンフォード(撮影・中野智明、共同)
 ジョセフの埋葬を終え、音楽に合わせ踊る娘のアイビー(中央)。参列者の笑顔が彼女を元気にした=ガーナ南部マンフォード(撮影・中野智明、共同)

 

ジョセフの遺体を埋葬した後、ロック音楽とともに参列者が再び広場で踊りだした。父の葬儀を取り仕切り、悲しみと疲れから終始表情が沈んでいたアイビー。だが、誘われて踊るうちに、最後は空に向かって両手を大きく広げ、笑みを取り戻した。

 「みんなが楽しそうだから、私もつられて笑ったの。最高の式だった。父も天国で喜んでいると思うわ」。いつの間にか、黒い喪服から白いドレスに着替えていた。(敬称略、共同通信・中檜理)

【エピローグ】 もっと派手に

 ガーナは貧しい国だ。キリスト教会は「葬儀ではなく、日常生活にお金を使いなさい」と国民を戒めている。しかし、ひつぎ職人クジョーは「プロのダンサーが、ひつぎを担ぎながら踊ったりするんだ。もっとにぎやかな葬儀はたくさんある」と教えてくれた。 

 ジョセフ一家と付き合いがあった高齢の女性、アベナ・セイスワが、葬儀の会場で小柄な体を激しく動かし、汗を流しながら踊っていた。「自分の葬儀はもっと派手にしてほしい。ガーナでは、うれしいときも悲しいときも全力で踊るの」。朗らかな表情を浮かべた。流行はしばらく終わりそうにない。

 

 

 

 

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