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47リポーターズ

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先住民の誇りをワインに 土地とともに生き抜く

2018.2.20 13:27
ワイナリーのブドウ畑で乾杯するロバート・ルイー(右)と妻ベニース。先祖から受け継いだ土地でワインづくりに情熱を燃やす=カナダ・ブリティッシュコロンビア州オカナガン地方(撮影・鍋島明子、共同)
ワイナリーのブドウ畑で乾杯するロバート・ルイー(右)と妻ベニース。先祖から受け継いだ土地でワインづくりに情熱を燃やす=カナダ・ブリティッシュコロンビア州オカナガン地方(撮影・鍋島明子、共同)
 

「土地に誇りを持ち、祖先に感謝し、伝統を大切にする気持ちを常に抱いている。それが高品質のワインを生む原動力になっているんだ」。カナダ西部ブリティッシュコロンビア州のオカナガン地方で、ワイナリーを経営する先住民、ロバート・ルイー(66)は人なつっこい笑みを浮かべた。

 オカナガン湖に沿って広がる丘陵には、緑のじゅうたんのようにブドウの木が連なり、太陽の光をたっぷり浴びて育つ。

 一帯はカナダ有数のワイン産地だ。ワイナリーは多いが、先住民を意味する「インディジナス」を冠したルイーの「インディジナス・ワールド・ワイナリー」の看板は、ひときわ目を引く。

 ▽ファースト

 「5歳から菜園で働き、土や畑には慣れ親しんできた」。豊かな土壌が育むブドウは、味わい深いワインの「原石」だ。育ち盛りのわが子のように愛情を注ぐ。

 ワイナリーには販売のコーナーもあり、試飲を楽しむ観光客らでにぎわう=カナダ西部ブリティッシュコロンビア州オカナガン地方(撮影・鍋島明子、共同)
 ワイナリーには販売のコーナーもあり、試飲を楽しむ観光客らでにぎわう=カナダ西部ブリティッシュコロンビア州オカナガン地方(撮影・鍋島明子、共同)

 ワインの販売は2015年に始めたばかり。敷地に設けたガラス張りの店は試飲の客で賑わう。 湖の西岸に拠点を持つ民族組織「ウエストバンク・ファーストネーション」の指導者を24年間務めた。この地に最初から定住した「ファースト」の民として、同胞の地位向上に情熱を注いだ。ワイナリーはそんなルイーの夢の結晶だ

「より辛口で自然な、昔ながらの味を」。妥協を許さぬ姿勢が評価され、品評会で受賞を重ねてきた。赤ワイン「シームー」は、米国サンフランシスコで催された品評会の「ゴールドメダル」に輝いた。メルローやカベルネ・ソービニヨンの品種をブレンドし、フランスなどから調達したオークのたるで、2年3カ月寝かせた。

 価格は40カナダドル(約3600円)前後だが、「試飲した米国のソムリエから、200カナダドル級のワインに劣らないと褒められた」と胸を張る。

 ▽多様性

 隣の米国ではドナルド・トランプが今年1月に大統領に就任した直後、中西部の石油パイプライン建設を促進する大統領令に署名。先住民の声に耳を傾け、環境保護を優先したオバマ前政権の方針を覆した。

 トランプは8月に米南部バージニア州で、白人至上主義者と反対派が衝突して死傷者が出た事件でも「双方が非難されるべきだ」と主張し、人種間の分断が深刻化している。

 カナダの首相に15年11月に就いたジャスティン・トルドーは、多文化主義をうたう憲法を踏まえ、多様性を前面に打ち出す。法相兼司法長官に先住民の血を引く女性、ジョディー・ウィルソンレイボールドを起用した。

 ルイーはカナダの先住民政策で「大きな進歩があった」と評価する。だが声を落として付け加えた。「私が幼少期を過ごした1950年代は、先住民への偏見が根強く、『2級市民』として扱われていたんだ」

 

 政府が先住民を同化させるため1876年に導入したインディアン法は、修正を繰り返しながら今も存在する。

 オタワ近郊のカナダ歴史博物館は、西洋風の服を着た先住民の子どもの写真などを展示し、往年の厳しい先住民政策を伝える。展示に携わったリサ・ルブラン(47)

 先住民への理不尽な待遇に悔しさを抱えていたルイーは、大学で法律を学び、現在の「ウエストバンク・ファーストネーション」で重職を担った。「民族の歴史と文化、伝統を懸命に学んだ」勤勉さと統率力が買われ、1986年から2016年にかけて指導者に当たる「チーフ」を2回務めた。が語る。「先住民の子を地域から引き離し、学校で寮生活をさせた。西洋の食べ物と教育を授けて先住民の文化をかき消そうとした。とても暗い時代だったのです」

 ▽継承


 「自分たちの法律も通せるようになった。残念ながらお金は発行できないけれどもね」 在任中の05年4月、土地を自ら統治する自治権を勝ち取った。「ウエストバンクの先住民の権利を守る」。民族の「憲法」は万感を込めて宣言した。

 カナダ西部バンクーバーの街頭で、石油パイプライン拡張計画に抗議する先住民の人々=2016年11月(ロイター=共同)
 カナダ西部バンクーバーの街頭で、石油パイプライン拡張計画に抗議する先住民の人々=2016年11月(ロイター=共同)

 やがて新しい夢が生まれる。妻ベニース(46)が「私たちの情熱そのもの」と言うワインづくりだ。

 昨年は9200ケース(1ケースは12本)を生産した。「でも現在の生産量ではブリティッシュコロンビア州で全て売れてしまう」と、ルイーはぜいたくな悩みを吐露する。

 今後2~3年間で年1万5千ケースへ引き上げ、その後は設備も増強し、将来は10万~20万ケースへの拡大を視野に入れる。

 「市場が大きい米国や、ワイン消費が多いドイツ、さらに人口が多くて潜在力がある中国やインドにも届けたいね。19歳の息子がワイン醸造家になるため修業している」と目を細める。

 先祖から受け継いだ土地と伝統をしっかりと引き継ぐつもりだ。(敬称略、共同・大塚圭一郎)

◎エピローグ/経済格差が難題 

今年で建国150周年を迎えたカナダは、先住民政策の「模範生」とも言われる。だが、北方文化を研究する国立民族学博物館教授の岸上伸啓(きしがみ・のぶひろ)(59)は「傾向として先住民の収入や学歴はカナダの一般平均より劣る」と指摘しており、経済格差が難題として立ちはだかっている。
 2011年の統計によると、先住民の就業率は62・5%と、先住民以外の75・8%を大きく下回る。岸上は「先住民の経済的自立を促進する具体策が必要。そのためには教育分野の強化策も重要だ」と強調する。先住民政策の改善に取り組んできたカナダでも、残された難題の解決への道は長く、険しい。(敬称略)

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