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未知への不安とあこがれ にぎわうUFO事件70年

2018.2.1 13:36
 宇宙人が空飛ぶ円盤から降り立った様子を再現した展示。UFO博物館で最も人気がある。頭や指をかすかに動かす姿に子どもも大人もくぎ付けに=米ニューメキシコ州ロズウェル(撮影・鍋島明子、共同)
 宇宙人が空飛ぶ円盤から降り立った様子を再現した展示。UFO博物館で最も人気がある。頭や指をかすかに動かす姿に子どもも大人もくぎ付けに=米ニューメキシコ州ロズウェル(撮影・鍋島明子、共同)
 
 

 大きな頭にひょろ長い手足。煙を吐く未確認飛行物体(UFO)から、灰色の宇宙人が降り立った。70年前の「事件」はこうして始まったのかもしれない。そして今も続いている。

 米国ニューメキシコ州ロズウェルでは、ことしも恒例の「UFOフェスティバル」が開かれた。UFOと宇宙人のオブジェに観光客が群がる。人口約5万人の小さな町に、約4万人が詰めかけた。町の名を世界にとどろかせた「事件」とは―。

                 ▽気球か円盤か

 「牧場で空飛ぶ円盤回収」。1947年7月8日付の地元紙に、衝撃的な見出しが躍った。ロズウェル近郊の牧場に何かが墜落、残骸を発見した住民が警察に届けた。陸軍が残骸を回収して、いったんは「空飛ぶ円盤」と発表した。だが翌日、実は気球だったと訂正し報道の撤回を求めた。

 騒ぎは収束し、その後長く人々の口の端に上らなかった。ところが30年以上の歳月を経た80年、UFO研究者ら2人が、地元の人の記憶や伝聞を基に書いた「ロズウェル事件」がベストセラーに。多くの人が「ロズウェルに落ちたのは、やはりUFO」と信じた。

 UFOの中に、複数の宇宙人の遺体があり、まだ生きている1人がいたという話がまことしやかに広がった。「軍に子供用のひつぎ4個を頼まれた」という葬儀屋や「宇宙人の検視に立ち会った」という看護師の証言が世間をにぎわせた。

 事件に詳しい同州アルバカーキ在住のUFO研究家、早川弼生(はやかわ・のりお)(72)は「信用に足る証言はなく、全て根拠のないでっち上げ」と一蹴する。

 冷戦が終わりソ連も既にない94年、米空軍はロズウェルに墜落したのは高高度の観測用気球だったと公式発表した。冷戦中、ソ連の核実験を検知するため使ったという。

 だが、今でも政府発表はうそだと信じる人は多い。UFOフェスティバルで地元のマシュー・マルティネス(41)も「UFOも宇宙人も実在する。ロズウェル事件だって政府が慌てて隠したそうじゃないか」と話した。

 宇宙人を見たと証言するのは、トラビス・ウォルトン(64)だ。アリゾナ州で75年、製材業仲間の前で宇宙人に誘拐されたと言う。宇宙人は「髪がなく小柄で、大きな目だった。僕が怖がると、人間に近い姿の宇宙人も現れた」と大真面目だ。

 フェスティバルにはUFO墜落は真実と唱える専門家たちがブースを出し、来場者が握手やサインを求めていた。

映画「コンタクト」のロケ地となったニューメキシコ州マグダレナにある大型電波望遠鏡。平原の真ん中で宇宙からの微弱な電波をキャッチしている(撮影・鍋島明子、共同)
映画「コンタクト」のロケ地となったニューメキシコ州マグダレナにある大型電波望遠鏡。平原の真ん中で宇宙からの微弱な電波をキャッチしている(撮影・鍋島明子、共同)

       ▽陰謀論

 映画会社による最近の調査では、半数近くの米国人が宇宙人を信じると回答。騒ぎと混乱を恐れる政府が、宇宙人の存在を隠していると考える人も多い。

 早川は「面白半分」に信じている人が多いとしつつ、米国人の「陰謀論好き」も指摘する。「トランプ大統領のような多くの米国人は既存のメディアを嫌い、誰かが隠れて何かをたくらんでいると疑う。既に米国の文化の一部だ」と言う。「欧州ではUFOの話をしたら笑いものになるが米国では違う」

 米国では特に90年代にUFO信仰が広がった。早川によれば、最近まで政府が公式に認めなかったネバダ州の軍事施設「エリア51」の存在が、元職員によって明かされたことも一因だ。ロズウェルに落ちた宇宙人を政府が隠しているという話と結びつき、マニアは今もUFO研究基地と疑う。

 冷戦中に米国が開発していた偵察機を、UFOと思い込んだとみられる目撃談もあった。テレビや映画も競ってUFOを取り上げた。未知の存在に対する憧れ、不安、恐れが、文化や娯楽に浸透していった。

                  ▽地球外生物

 SF映画が好きで天文学者になったセス・ショスタック(74)は、米国人のUFO信仰について「カウボーイ気質だから侵略者に敏感なんだろう。特にソ連崩壊後は新たな悪者を必要とし、宇宙人がその役割を担ったのでは」と分析する。

 照明を落とした、フェスティバル恒例の夜のパレード。暗闇から宇宙人が次々に現れ、ローラースケートのUFO男にとりわけ大きな歓声が上がった=米ニューメキシコ州ロズウェル(撮影・鍋島明子、共同)
 照明を落とした、フェスティバル恒例の夜のパレード。暗闇から宇宙人が次々に現れ、ローラースケートのUFO男にとりわけ大きな歓声が上がった=米ニューメキシコ州ロズウェル(撮影・鍋島明子、共同)

 以前住んでいたオランダで、専門家に講演をしたことがある。「宇宙人の存在を信じる人?」と聞くとほとんどが手を挙げた。ところが「宇宙人を探すためにコーヒー1杯分のお金を、1年間払うか?」とたずねると皆が手を下ろした。聴衆のある教授は「オランダ人は宇宙人を本気で探すほど不真面目でない」と言った。
 ショスタックは米カリフォルニア州マウンテンビューの「地球外知的生命体探査(SETI)研究所」で、探査チームを率いる。巨大な電波望遠鏡で宇宙の信号を集め、人工的な規則性を持つものがないか解析を続けている。
 銀河系の数千億ともいわれる恒星系のうち、2025~30年までに約100万の恒星系を調べ終わる見通しだ。「この20年で、多くの惑星に水がある可能性が判明した。きっと地球外生物も見つかると思うよ」と目を輝かせた。(敬称略、共同通信・中川千歳)

               エピローグ「胸躍る」

千葉市の中学生だった1990年代半ば、部活帰りの夜空から鮮やかな緑色に輝く物体が落ちてくるのを、数人の友人と目撃した。ひょっとしたらUFOだったかもしれないと思っていた。
 昨年西日本で目撃が相次いだという流れ星の一種「火球(かきゅう)」についての報道を目にした。青春時代に自分が見たものも、おそらくそれだったのだろう。合点がいくとともに、少し寂しい気持ちにもなった。
 米ハリウッドでは宇宙や地球外生命を題材にした映画が根強い人気で、毎年新作が生まれる。宇宙のどこかに人間以外の生命体がいるかもしれないと考えるのは胸躍ることなのだ。

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