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真夏に集う公認サンタ   「贈与の祭り」心癒やす 

2018.1.12 14:49
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 世界サンタクロース会議のイベントで、遊園地をパレードする各国のサンタクロースたち。音楽が鳴り響き、お祭りは最高潮に=コペンハーゲン郊外(撮影・仙石高記、共同)
 世界サンタクロース会議のイベントで、遊園地をパレードする各国のサンタクロースたち。音楽が鳴り響き、お祭りは最高潮に=コペンハーゲン郊外(撮影・仙石高記、共同)

 

 「ホッ、ホッ、ホッ」と声を掛ければ「ホッ、ホッ、ホッ」と笑顔で応える。北欧デンマーク・コペンハーゲン郊外。遊園地のデュアハウスバッケンを7月末、深紅の衣装が席巻した。男女約120人が「サンタ語」であいさつを交わす。年齢は60代が多い。

 年に1度開催の世界サンタクロース会議。今年60周年で参加国は12に及ぶ。真夏になぜ集うのか。「冬はプレゼント配りで超多忙だからだよ」。グリーンランド国際サンタクロース協会(本部・コペンハーゲン)会長を10年以上務めたヘンリック・ヤコブセン(65)が、したり顔で答えた。真綿のような付けひげに風格が漂う。

                   ▽海水浴  

 会議と言っても、プログラムに「会議」の文字はない。行事は子どもとの触れ合いが中心になる。遊園地でパレード、アンデルセンの物語をモチーフにした「人魚姫の像」の前で写真撮影…。中でも、型破りなのがサンタの海水浴だ。

 遊園地で子どもたちに抱きつかれるパラダイス山元。「ホッ、ホッ、ホッ」と笑顔で応える=コペンハーゲン郊外(撮影・仙石高記、共同)
 遊園地で子どもたちに抱きつかれるパラダイス山元。「ホッ、ホッ、ホッ」と笑顔で応える=コペンハーゲン郊外(撮影・仙石高記、共同)

 衣装と同じ赤のレトロな消防車で浜辺に駆けつける。気温20度を下回る曇り空の下、次々と海へ。自撮り棒で写真撮影する。女性サンタは赤と白のビキニ姿だ。大人や子どもが歓声を上げる。「どうして海に入るかって? 誰も知らないと思うよ」。サンタたちは寒さで唇を震わせている。
 

 協会公認サンタには、日本人が一人いる。音楽家のパラダイス山元(やまもと)(54)。成田空港の保安検査もサンタ服で通過した。各国サンタから信頼は厚い。デンマークのアン・ヤコブセン(69)は「彼はいろんな面白いことをやり、存在感が大きいわ」と一目を置く。「心優しく、いつも他人のことを考え、行動する。私の子どもの誕生日も覚えていて、連絡をくれた」と同国のゴーム・スカンストーム(68)。

 山元は大学卒業後、富士重工業(現SUBARU)で乗用車のデザインを手掛けた。その後、マンボのバンド活動の傍ら、創作盆栽家元、会員制ギョーザ専門店経営と多彩な顔を持つ。                  

       ▽体力測定

 サンタになったのは偶然だった。1998年、北欧3国を代表する「スカンディナビア政府観光局」の女性職員を紹介される。会うなり「イメージにぴったり」と笑みを返された。

 当時の公認サンタの条件は体重120キロ以上で、結婚して子どもがいること。118キロの山元は子どもが生まれたばかり。コペンハーゲンの協会本部で、厳しい審査に挑むことになった。

 海に入り、記念撮影を楽しむ水着姿のサンタたち=コペンハーゲン郊外(撮影・仙石高記、共同)
 海に入り、記念撮影を楽しむ水着姿のサンタたち=コペンハーゲン郊外(撮影・仙石高記、共同)

 サンタは約1700年前、キリスト教の布教活動をしていたニコラス司教がモデルとされる。「本物」は現在、デンマーク自治領グリーンランドにいると言い伝えがある。でも一人では世界中の恵まれない子どもを回れない。「足腰が弱り、動けなくなったら終わり」。サンタ協会が創設され、公認制度を設けた理由である。公認サンタになると、遊園地内の「サンタの森」で、切り株の金属板に名前が刻まれる。

 ただ、誰でも公認サンタになれるわけではない。山元は身体検査で水をがぶ飲みして体重120キロをクリア。制限時間内に煙突から家に入り、暖炉からはい出る体力測定も受けた。その年の挑戦者9人のうち、合格者は山元だけ。35歳、史上最年少だった。

 

                      ▽ケーキ 

 

 サンタは宗教の枠を超え、なぜ人々の心に生き続けてきたのか。思想家で文化人類学者の中沢新一(なかざわ・しんいち)は「クリスマスは贈与の祭り」と定義する。「生者が死者の霊にお供え物をするのがサンタのプレゼントの原型。それが時代とともに変化する。大人は子どもに贈り物をし、その交換として、自分の世界にないものを子どもたちから得ている」と語る。

 サンタも実は子どもたちから贈り物をもらっているのだ。山元が約20年間、公認サンタを続けてきた理由もそこにある。毎年9月から12月まで、病院や児童福祉施設を訪れる。北海道から沖縄まで約50カ所に上る。交通費、菓子などのプレゼントはすべて自腹。経済的、体力的に負担は大きい。

地図
              地図

 それでも公認サンタを辞めるつもりはない。子どもたちの屈託ない笑顔に、いつも心が洗われるから。「自分が楽しむより、人が楽しんでいる姿に、やりがいを感じる」と山元。妻もサンタ服を手作りして支える。

 やるせない気持ちになるときもある。「お願いがあるの。パパのケーキを少なくして」と施設の幼児が言う。「ごめんね。今日は持ってこなかった」と諭しても、話が一向にかみ合わない。後で職員から「ケーキ」は「刑期」と知らされた。

 山元の革のベルトには、たくさんの鍵がぶら下がっている。「いろんな家に入るからね」。デンマーク語に「ヒュッゲ」という言葉がある。気の置けない人と過ごすくつろぎの時間や空間を指す。今年も全国の子どもに会うため旅を続ける。ひとときのヒュッゲを求めて。(敬称略、共同通信・志田勉)

       

       【エピローグ】色に染まる

サンタクロース姿になるとは夢にも思わなかった。会議を取材するには、サンタ服の着用を義務付けられた。

 上下とも深紅の衣装に身を包む。やはり恥ずかしい。でも各国のサンタと遊園地をパレードするにつれ、その感覚は徐々に薄れてくる。

 見学中の子どもと握手する。若い男女と記念写真に納まる。いつしか、体も心も和らいでくる。

 サンタは、摩訶(まか)不思議な存在だ。神ではない。その証拠に大人は普通、信じていない。子どもには信じさせようとするのに。

 サンタ服は大人の心も染めてしまう。みなさん、一度、着てみませんか。

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