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寛容の街に集うLGBT  差別乗り越え夢を追う 

2018.1.9 17:06
ニューハーフによる華麗なショーが繰り広げられる劇場「カリプソ」。毎夜、世界各国からの観光客でにぎわう=バンコク(撮影・浮ケ谷泰、共同)
ニューハーフによる華麗なショーが繰り広げられる劇場「カリプソ」。毎夜、世界各国からの観光客でにぎわう=バンコク(撮影・浮ケ谷泰、共同)
 

 各国の音楽に乗った華麗な舞に、数百人の観客が歓声を上げる。バンコク中心部の劇場「カリプソ」は、出演者のほぼ全員が性的少数者(LGBT)だ。客は外国人の家族連れが多い。終演後は、満面の笑みをたたえた出演者が、客と写真撮影に応じる。

 ビジネス街シーロム。日が暮れると、ゲイ専門バーが並ぶ「トワイライト通り」が活気づく。筋肉美を強調するシャツを着た男性カップルが、手をつないで吸い込まれてゆく。

 外国人が多いスクンビット通りの歓楽街ナナ・プラザには、「レディーボーイ」と呼ばれる数十人のニューハーフが踊るバーがいくつもあり、深夜までにぎわう。

 国際観光都市バンコクは「LGBTに優しい街」として知られ、世界中からLGBTが集まる。タイの地方からも、高収入の仕事と自由な環境を求めて、多くのLGBTがやってくる。デパート、美容院、レストラン。どこでも彼や彼女が、生き生きと働いている。

                  ▽心を解き放つ

 下町で美容院を営むクリッサナ・ルンナボット。手際の良いカットで常連客も多い=バンコク(撮影・浮ケ谷泰、共同)
 下町で美容院を営むクリッサナ・ルンナボット。手際の良いカットで常連客も多い=バンコク(撮影・浮ケ谷泰、共同)

 東京の会社員コージ(41)にはタイ人のパートナーがいて、まとまった休暇が取れるたびに会いに来る。

 「ここに来ると心が解き放たれる気がする。ゲイだからという理由で不当な扱いを受けない。だれもがフレンドリーに接してくれる。毎日笑って過ごせる」

 「ほほ笑みの国」タイでは、人々が総じて寛容だ。アパート入居も、LGBTだからという理由で拒否されることはない。

 下町で美容院「タンオー」を営むクリッサナ・ルンナボット(27)は、19歳の時、東北の地方から上京した。屋台の菓子売り、コンビニ店員などを経て、約1年半前に小さな美容院を開業した。

 カット料金は250バーツ(約800円)。家賃は月2万バーツ(約6万円)で、売り上げは1日2千~3千バーツほど。定休日はなく朝10時から夜10時まで働き通しだが、悲壮感はない。「ベルギー人のボーイフレンドができたの」と幸せそうに話す。

 週末の昼下がり。郊外のショッピングモールは家族連れでにぎわう。デザイナーの「マデアウ」がファッションモデルを従えて登場すると、のんびりした雰囲気が一変した。

 本名アピチット・アティラッタナ(18)。東北地方コンケン出身で、レジャーシートや古い漁網などを素材にドレスを仕立て、ソーシャルメディアで発表。環境問題にも一石を投じたとして、米タイム誌も取り上げた新進気鋭の逸材だ。

 「一流が集まるヨーロッパにも行ってみたい」と、世界的デザイナーになる野心を隠さない。

                 ▽根強い嫌悪も

 だがタイは本当に「LGBTの天国」なのか。
 カモンローズ・トゥンピロム(35)の芸名はシャンペーン。2016年に米国のロサンゼルスで開催されたニューハーフのビューティーコンテスト「ミス・クイーン・オブ・ジ・ユニバース」で優勝した。物心が付いたころには「私は女」と思っていた。

 両親は一人息子の「カミングアウト」を、決して認めなかった。仏教国タイでは、年配者の多くが、同性愛者は「前世の業を背負って生まれてきた」と考えるという。

ゲイバーが立ち並ぶ「トワイライト通り」。昼間は人けが少ないが、夜は多くの看板が輝き活気づく=バンコク(撮影・浮ケ谷泰、共同)
ゲイバーが立ち並ぶ「トワイライト通り」。昼間は人けが少ないが、夜は多くの看板が輝き活気づく=バンコク(撮影・浮ケ谷泰、共同)

 シャンペーンは名古屋や長崎でダンサーとして働き、性別適合手術の資金をためた。毎年ニューハーフのミスコンが開かれるリゾート地パタヤの劇場「ティファニーズ・ショー」に出演。マスメディアでも有名になった。

 「タイはLGBTが生きやすいと見られがちだが、実際に活躍できるのはエンターテインメント、美容、小売業界などに限られる。官公庁や大企業は門を閉ざしている」と語るのは、ケート・カンピブーン(30)。

 タイのLGBT社会で「アージャーン」(タイ語で先生の意)と呼ばれるケートは、数多くの政治家や文化人を輩出するタマサート大で、社会学部教授の助手をしていた。だが講師としての採用は大学から拒否された。

地図
地図

「(講師になる)基準はすべて満たしていた。(拒否の)理由は私がLGBTであるということだけだった」
 ケートは現在、タマサート大を相手取り訴訟を起こす一方、LGBTの地位向上のため社会運動に取り組んでいる。
 実際、タイの法律でLGBTが平等に扱われているとは言い難い。同性婚は認めず、性別適合手術をしても戸籍上、男性は男性、女性は女性のままだ。

 シャンペーンは「米国か欧州に行って、法的に『Ms』の地位を手に入れたいという気持ちもある」と打ち明ける。

 ファッションショーの後、マデアウが喫茶店で一息ついていた。「こんな格好だと、しょっちゅうからかわれるわ。でも心が折れたら終わり。助けなんか期待せず、自分の夢に向かって生きていくだけよ」(敬称略、共同通信・近沢守康)

 

         【エピローグ】しなやかな生きざま 

 バンコクで20人以上のLGBTを取材した。印象に残ったのが、私の質問に対し、誰からもほぼ期待通りの答えが返ってきたことだ。まるで心の中を見透かされているような気にさせられた。
 
場の雰囲気や、人々が何を考えているかを敏感に察知する観察力や、トラブルを回避する能力が優れているのだ。顧客と対面するサービス業で、LGBTが引っ張りだこになるのもうなずける。
 
不愉快なことがあっても、タイ特有の「マイペンライ」(問題ないさ)精神で笑ってやり過ごす。彼や彼女らのしなやかな生きざまが印象に残った。

 

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