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【第32回 スウェーデン】 失敗こそ革新の芽  博物館を学びの場に 

2017.12.26 13:03
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 「顔面若返りマスク」を訪問客に試着させる失敗博物館のサムエル・ウエスト館長(右端)。電気が流れた瞬間、マスクを着けた人が声を上げ、周りは大笑い=スウェーデン・ヘルシンボリ(撮影・澤田博之、共同)(
 「顔面若返りマスク」を訪問客に試着させる失敗博物館のサムエル・ウエスト館長(右端)。電気が流れた瞬間、マスクを着けた人が声を上げ、周りは大笑い=スウェーデン・ヘルシンボリ(撮影・澤田博之、共同)

 

 「世界で初めての失敗ビール試飲会にようこそ。完全な失敗作だけでなく、発展途上の製品があることを知ってもらいたくて、それも持ってきました」
 地ビールの醸造会社を経営するヨアキム・ラーセン(29)が、ビール瓶を手にこう語りかけた。

 スウェーデン南部の小さな街、ヘルシンボリでことし6月に開館した「失敗博物館」。淡いライトが照らすこぎれいな部屋に、30人ほどが集う。
 「ルバーブという野菜とイチゴの香りのビール」を一口飲んだトニー・ステグロス(49)が、思わず顔をしかめる。「これは駄目だ。ビールじゃない」

 隣でジャネット・ブリット(53)が、スモークフレーバーの黒ビールを試した。「見かけはいいけど、おいしくないわ。売っていても絶対買わない」
 博物館の設立者であり館長であるサムエル・ウエスト(43)が、参加者のしかめ面を笑顔で見ている。

 「失敗ビール」の試飲会で顔をしかめる参加者。新種のビールをつくる試みも、この表情ではお蔵入りもやむなしでしょう=スウェーデン・ヘルシンボリの失敗博物館(撮影・澤田博之、共同)
 「失敗ビール」の試飲会で顔をしかめる参加者。新種のビールをつくる試みも、この表情ではお蔵入りもやむなしでしょう=スウェーデン・ヘルシンボリの失敗博物館(撮影・澤田博之、共同)

 大学でイノベーション(技術革新)論や産業心理学を学び、教えるうちに「大切なのは成功より失敗だと気付いた」とウエスト。「イノベーションだと思ったものの90%近くは、失敗に終わっている。それなのに世間には成功物語ばかりが広まり、失敗が伝えられていない」

 革新的と思われたが失敗に終わった製品を集め、博物館をつくろうと思い立った。テレビやラジオで、これはと思うものを送ってほしいと呼び掛けると、あっという間にたくさん集まった。今でも各地から展示品候補が寄せられ、拡張移転を検討中だ。

                  ▽奇妙なマスク

 展示室には、多くの人が忘れかけた失敗商品などが60点以上も並ぶ。
 1981年にスウェーデンで売り出されたプラスチック自転車は「宇宙船と同じ素材。鉄器時代から抜けだそう」との宣伝文句で注目された。だが製造コストが高い上、耐久性がなく、多くが売れ残った。

 人形「カイラ」は「子供と会話ができる」と一世を風靡(ふうび)した。だが子供の質問をネット上で解析して回答を作成するため、個人情報の漏えいが問題となり、欧州で販売禁止になった。
 コカ・コーラが大人向けに売り出したコーヒー味のコーラは、テレビ番組で試飲した米国の著名キャスターが、あまりのまずさにはき出した。その場面の方が話題になり、売れ行きはさんざんだった。

 トランプ米大統領がビジネスマンだった時代に売り出されたボードゲーム。散々な評判だったが、失敗博物館では人気展示物の一つだ=スウェーデン・ヘルシンボリ(撮影・澤田博之、共同)
 トランプ米大統領がビジネスマンだった時代に売り出されたボードゲーム。散々な評判だったが、失敗博物館では人気展示物の一つだ=スウェーデン・ヘルシンボリ(撮影・澤田博之、共同)

 「何と言っても一番の人気はこれ」。ウエストが、電線がついた奇妙なマスクを指さした。米国製の「顔面若返りマスク」だ。ホラー映画の殺人鬼が着けていた仮面を思い起こさせる。裏に26個の電極があり、電流の刺激で顔の皮膚が若返る、という触れ込みだった。
 「ちょっと試してみるかい」。ウエストに言われ、着けてみた。周囲の訪問客から笑いが漏れる。電流が顔をチクチクと刺激する。
 「効果は怪しかったし、たくさんのアリに顔をかまれているようだと悪評で、あっという間に市場から消えた」

                ▽福島

 ビール試飲会の翌日、博物館は「失敗作のピアノコンサート」を催した。音楽家のペール・テングストランド(49)は、「駄作」とも評されるベートーベンのピアノソナタを演奏。第5交響曲の完成に至るまでの草稿に残された試行錯誤の過程を再現しながら、聴衆に語り掛けた。
 「傑作と呼ばれる交響曲が完成するまで、天才でも失敗と言えるような試みを何回も繰り返したのです。完璧な人間などいない。われわれは他人の失敗にもっと寛容でなくちゃいけない」

 失敗は時に、大きな悲劇を生む。展示物の人工気管支は2011年に、スウェーデンで開発された。移植を受けた患者8人が死亡した。臨床に応用する前に問題点を指摘する声はあったが、生かされなかった。

地図
              地図

 「多くの人や企業が失敗を隠したがるけど、事実を認めなければ何も学べない。もっと早く失敗に気付いていれば、東京電力福島第1原発の事故も防げたのではないか」とウエスト。

 そんな思いから博物館の一角に「失敗告白ルーム」を設けた。来訪者は薄暗い部屋の中で紙に自分の失敗を書き、壁に貼り付ける。
 「新婚旅行でホテルの隣室に、両親の部屋を予約したのが失敗だった。母のいびきと、父がトイレに行く音が筒抜けだった」
 「爪をとがらせようと鉛筆削りに小指を突っ込んだのは、痛い失敗だった」

 ほほえましいものから「大学、就職、人生すべてが失敗だった」と深刻なものまで、人生は挫折に満ちている。
 だが、失敗は決して無ではない。「学ぶことだけが失敗を成功に変える」―。博物館の入り口には、こんな言葉が書かれていた。(敬称略、共同通信・井田徹治)

                 【エピローグ】大国の失敗

 失敗博物館の人気展示物の一つは、トランプ米大統領のボードゲームだ。不動産を買い集めて資産の大きさを競う。ベストセラー「モノポリー」に似ている。だが「モノポリーよりつまらない上、ルールが複雑すぎる」というのがもっぱらの評判だったという。
 入館者からは「失敗はゲームじゃなくて、彼を大統領にしたことだ」との声が聞かれた。就任以来の大統領を見ていると同意したくなるが、米国のような大国の失敗は世界中に影響を与える。米国民が、そして誰よりも大統領自身が、失敗を正直に認め、そこから学ぶ姿勢を持ってほしい。

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