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【イタリアのトランプ】(3) トランプ新政権覆う「利益相反」の暗雲

2017.1.18 14:37 共同通信
11日、ニューヨークのトランプタワーで、山積みにした書類の傍らで記者会見するトランプ次期米大統領(AP=共同)
11日、ニューヨークのトランプタワーで、山積みにした書類の傍らで記者会見するトランプ次期米大統領(AP=共同)

 トランプ次期米大統領の就任式が20日に迫る中、欧米のメディアで批判が強まっているのが、トランプ氏の「利益相反」(conflict of interest)問題だ。前回のコラム「回答拒否、メディアを罵倒」でも書いたが、利益相反とは、大統領が何らかのビジネスをしている場合、大統領職とビジネス上の利害が対立してしまうことを意味する。簡単に言えば、大統領が自分のビジネスの損得を考慮することで、公正な公務執行ができなくなる恐れがあることを指す。

 【ベルルスコーニ氏の場合】

 主要7カ国(G7)の過去のリーダーで、利益相反の問題が際立って指摘されたのが4回にわたりイタリアの首相を務めたベルルスコーニ氏だった。同氏はもともと、トランプ氏と同じ実業家出身で1994年、タンジェントポリ(汚職の町)と呼ばれる大疑獄により、それまでの政治体制が崩壊したことを受け、自身の政党を立ち上げ総選挙で勝利、首相に就任した。

 イタリア北部ミラノ近郊の不動産開発で財をなしたベルルスコーニ氏は70年代、テレビ放送事業に進出。地方放送局を次々と買収することで、全国ネットワークを完成し、新聞社や出版局の経営も兼ねた「イタリアのメディア王」と呼ばれた。

 ベルルスコーニ氏は新聞経営こそ実業家の弟に譲ったものの、首相就任後も民間テレビ放送会社の経営権を保持。イタリアには当時、同氏が保有する民放3局と国営のイタリア放送協会(RAI)の計六つの全国ネットがあったが、RAIの2局に幹部を送り込んだ結果、6ネットの内、五つを掌握するなど著しい放送メディア独占化を進めた。ベルルスコーニ氏の影響下にあるメディアは当然、政権には甘く、政敵には痛烈な報道に傾き、利益相反を超えるメディアの「私物化」として野党から激しい批判を浴びた。

 ベルルスコーニ内閣はこのほか、同氏の企業グループに有利な税制度を制定するなど、その利益相反行為を批判された。同氏は当初、こうした批判をかわすため、事業売却や事業を弁護士など第三者に委ねる「ブラインドトラスト」を約束したが、結局実現されなかった。

 【事業売却せず】

 この点、トランプ次期米大統領はどうだろうか。同氏は米国内外で不動産事事業などを多数手がけているが、既に多くの問題点が指摘されている。その一つが、首都ワシントンにある「トランプ・インターナショナル・ホテル」だ。ホテルの建物は政府が保有。トランプ氏の事業会社「トランプ・オーガニゼーション」が60年間のリース契約を結んでおり、政府が借り手であるトランプ・オーガニゼーションの財務状況を定期的にチェックすることになっている。しかし、トランプ氏がこのまま米行政府のトップに就任すれば、同氏は「大家」であると同時に「店子(たなこ)」になってしまう。きちんとしたチェックやリース料の改定ができるのか疑問の声が上がっているのだ。また、ワシントンを訪れた各国の代表団がトランプ氏におもねって、同ホテルの高額の部屋を選んで宿泊することへの懸念もある。

 同氏がラスベガスなどで経営するホテルについても、現在従業員組合側とホテルとの間で団体交渉の可否などを巡り労働争議が起きていて、トランプ氏の大統領就任により、労働法などの規制官庁が中立性を保てるのか、疑問視する意見も強い。

 また、トランプ・オーガニゼーションはドイツ最大の民間銀行ドイツ銀行から不動産開発資金などで多額の融資を受けている。一方で、米司法省は2008年の金融危機のきっかけとなった住宅ローン担保証券の不正販売に絡み、同銀行に高額の罰金を科す方向で、トランプ政権誕生は罰金額を巡る交渉の行方にも影響を与えかねないとの懸念もあった(その後、米当局とドイツ銀行が計72億ドル(約8100億円)の罰金支払いで合意したとの報道があった)。

 海外に目を向ければ、トランプ氏は少なくともトルコなど世界20カ国で不動産事業、投資を行っているほか、各国の商業銀行から融資を受けており、各国政府と対立することで、自分の海外ビジネスに悪影響を及ぼすことを恐れる同氏が、米国の国益に反する外交政策を取りかねないとの批判もある。英BBC放送によると、こうした懸念の対象はアルゼンチン、ブラジル、カナダ、インド、インドネシア、フィリピン、台湾などに及び、例えば中国ではトランプ氏はホテル建設を計画しているほか、関連企業が中国の商業銀行から多額の融資を受けている。

 さらに、トランプ氏が国務長官に指名したティラーソン氏は、石油大手エクソンモービル会長兼最高経営責任者(CEO)だったことから、同社が石油開発事業などで深い関わりを持つロシアに対して、どれだけ強い対応をとれるか未知数だ。

 こうした批判、懸念に対し、トランプ氏は11日の会見で、トランプ・オーガニゼーションのすべての役職から退いた上で、事業を2人の息子に委ねると表明。会見の席上、机に山積みした事業委譲のための書類を記者らに見せ、書類にすべてサインしたと豪語したが、書類を見せてほしいとの要求は拒否。また、利益相反を禁じる法律は、大統領には適用されないと主張した。

 しかし専門家は①会社の事実上の所有権はトランプ氏に残る上、トランプタワーなど、トランプ氏の名前を冠する事業は残る②事業を継ぐのはトランプ氏の親族で、同氏の影響力が排除されるかどうか疑問―などと指摘、事業を完全に売却するかブラインドトラストに委ねなければ、批判を免れないとしている。 (47NEWS編集部 太田清)

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