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47リポーターズ

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映画気分で歩いてみた~台北編

2015.5.11 14:18

 台湾に行ってきた。


 1996年にテレビの旅番組収録で訪れて以来19年ぶりの台湾。
 今回は、“ある映画”に出演するための極秘ミッションだ。


 私にとって台湾といえば、台湾映画を想起する。
 中でも思い入れのある作品は『牯嶺街少年殺人事件』(1991年 エドワード・ヤン監督)。


 1961年の夏、台北で実際に起きた事件に基づく物語。
 日本統治時代のレンガ造りのコロニアル風建築が魅力的な建国高級中学校や、その近くの牯嶺街。「軍人村」と呼ばれる日本式家屋などを使った、当時を思わせる背景が印象的だった。


 私は、60年代当時の混沌とした台北に生きる大人たちと少年少女たちの翻弄された“ある記憶”をそこに垣間見た。 
 現在では、その名作が、VHSかレーザーディスクのみでしか観られないのは、本当に残念でならない。 


 終戦後、共産党軍との内戦に敗れた国民党軍率いる蒋介石と共産主義を嫌い、安定した生活を求めて台湾に逃れてきた人々を「外省人」。戦前から台湾に暮らしていた先住民と中国系(福建や客家地方)の人々などは「本省人」と呼ばれていた。
 

 最初に訪れた台北で、台湾の激動の歴史背景を垣間見たあるものを思い出す。
 「康楽市場」と呼ばれる無数のバラックが連なる中の活気に満ちた一角。
 高級ホテルなどを臨む通りを隔てたそこは別世界だった。


 表には商店が軒を連ね、一歩奥に入るとまるで迷路。その間を支えるようにバラック住宅がひしめきあって建っている。


 元々その一帯は、日本統治時代の日本人墓地で、のちに蒋介石とともに大陸から逃れてやってきた人々が住み着いた集落になっており、その墓地には7代目台湾総督だった明石元二郎が眠っている墓があるとも聞いていた。


 奥へどんどん進んで行くと、窮屈なバラックに挟まれ梁のような存在になっている鳥居のような柱が見える。いや、どうみても鳥居だ。


 斜め向こうに人の気配。
 ステテコ姿の爺様が怪訝そうに我々ロケ隊を凝視している。


 「これはひょっとして、明石総督の墓地の鳥居ですか?」
 鳥居を指差しながら、丁重にゆっくりと日本語で尋ねると、ステテコ爺様は急に不機嫌な面持ちで手払いし、首を横に振りながらバラック小屋に引っ込んでしまった。


 過去と現在が“陰陽図”のようにぶつかり合い、辺りは一瞬にしてカオスな気配に包まれる。
 彼は、数奇な運命に翻弄され、生まれ故郷へ帰れずにバラック住まいをしてきた外省人のひとりだったのか?


 もしそうだったとしたら、彼にとっては、触れてほしくない領域だったのかもしれない。
 私の知らない日本統治時代。
 国民党軍が入植以降の長い戒厳令下における激動の時代。
 そして現代。


 私は、そのバラックの鳥居の出来事が忘れられないでいた。
 あれから20年近い時を経た今、私は台湾に何を見るのだろうか。
 

 桃園空港に降り立ち、台北市内へ向かう車窓から、キョロキョロとあちこちの風景を見入った。
 亜熱帯特有の緑が多い中、以前にも増して高層建築が目立つ。
 初めて見る台湾のランドマーク「台北101」。


 やがてハイウェイを降りた車は、台北市街に入り、あの頃とさほど変わらぬ街並みが見えてきた。
 バラックの鳥居の所在の確認や、新名所である噂の巨大書店「誠品書店」へも行ってみたい衝動に駆られる。


 のら猫の如く、のらのらと放浪癖が疼く私。
 翌日、ほんの少しの時間を割いて、街を歩いてみることにした。


 「あぁ、この街の匂い!」
 食べ物と湿度と陽射しと埃にまみれた、なんとも言えぬ亜熱帯アジア特有の香りが私の鼻孔をくすぐる。
 自分はこの匂いに滅法弱いことを、ものの数秒で気付かされる。


 レートが良いと友人から聞いていた中国茶店で両替を済ませ、店の女性と片言の中国語で、噂の巨大書店「誠品書店」の場所と、バラックの鳥居の在り処を尋ねた。書店はタクシーで10分もしないところにあるが、バラックは1997年に撤去され、大きな公園になり、鳥居はそこへ移設されたと聞かされた。


 早速タクシーに乗り込み、誠品書店に向かう道すがら、長春路を下る途中、鳥居が移設された「林森公園」を横目に見る。
 辺り一面を奇妙に活気付けていたあのバラック群はもう跡形もない。
 私の中で何か郷愁じみたものが溢れ出す。


 ぼんやり感慨耽っている間に、タクシーは敦化南路一段にある噂の巨大書店「誠品書店」に到着した。


 ここは、2008年の大幅改装後、台湾初の24時間営業の書店。
 台北では老若男女が集う人気スポットらしい。


 早速2階の書店内に入ると、私はそこで驚きの光景を目の当たりにする。
 それは、日本文学、日本人写真家による写真集のコーナーや、世界文学、哲学書、歴史書、さまざまな書籍コーナーで夢中になって立ち読み(或いは床に座り読む“ジベタリアン”!)をしている老若男女で賑わう店内だった。


 かつて私もよく通った「本のデパート大盛堂書店」のあの賑わいのような。
 なんという懐かしい光景だろう。


 そんな書籍コーナーの他、オシャレ雑貨フロアやフードコート、CDコーナーには、アナログレコードまで取りそろえてある。


 早速、物色していると、目に飛び込んで来たのは大好きな映画のサントラ盤の数々。
 中でも映画『インヒアレント・ヴァイス』(2014年 ポール・トーマス・アンダーソン監督)のサントラ盤CDとアナログレコードを棚に見つけた時の驚き!
 燦然と光を放ち、そこで私を待ち受けていたかのようではないか!


 他にも大好物のサントラ盤の数々やプログレッシヴ・ロックの名盤などがあり、ひとり興奮状態で物色。


 しかし、ここは選りすぐりの一点買い。『インヒアレント・ヴァイス』のCDとレコード盤のみ購入し、誠品書店を後にした。


 予期せぬ戦利品を小脇に、『インヒアレント・ヴァイス』のドック探偵気取りで街を彷徨う私。
 脳内にループするのは、冒頭で流れるドイツのロックバンド・CANの1972年の名曲『VitaminC』。
 
 
 空腹を満たす「排骨(パイコー)麺」。
 慣れた手つきで石灰を檳榔(びんろう)の実にまぶしている道端の檳榔売りの娘。
 暇そうな手押し車の揚げパン屋の紅い日除けがヒラヒラ。
 小さなバラックの軒先に並ぶ美味そうな台湾の煮物「魯味(ルーウェイ)」。
 何本ものひょろりと背高のっぽな椰子の木。
 油断していると絞め殺されそうな、不気味に根幹を垂れ下げ揺れるガジュマル。
 呑気に舗道をほっつき歩くのら犬たち。
 遼寧街で迷子になると、台湾語で親切に道案内をしてくれた果物屋の少年。


 レコードを小脇に抱えのらのらと街を彷徨う探偵気分な私。
 そんな私とこの場所が似合わないわけがない。
 かつての香港にあった猥雑さがここにあったとでも言おうか。


 この日は思考もぼやけるくらい暑い日だった。
 覚醒なのか、酩酊なのか。
 映画なのか、現実なのか。 
 街を彷徨い歩くだけで、映画気分になれる不思議な街、台湾。


 そう。そこに介在する私は、“ある映画”の中へスーッと吸い込まれてゆくのであった。


 つづく

 

覚醒する亜熱帯の日差しを受けながら彷徨い歩く台北の街
覚醒する亜熱帯の日差しを受けながら彷徨い歩く台北の街