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のら猫香港大作戦~前編~

2018.2.13 17:42 洞口依子(どうぐち・よりこ)
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香港エキスプレス駅構内にあった「Mr.BOO」のポスター
香港エキスプレス駅構内にあった「Mr.BOO」のポスター

 

 旧正月前の香港に行ってきた。

 眩しいネオンサインや赤や黄金の派手な飾りなど、旧正月を祝うムードが漂う街。

 18歳で初めてこの街に降り立ったのもそんな雰囲気の旧正月前だった。

 

 最後に香港を訪れたのは1997年。

 小糠雨降る中、香港返還を見送ったことがついこの前のよう。

 以来、私はこの地を訪れることがなかった。
   なぜだろう、なぜでもだ。

 

香港的士(タクシー)と私
香港的士(タクシー)と私

 

 久しぶりに訪れる香港。

 まるで、アイドルに逢いに行く小娘の気分だ。


   横浜中華街へ行くノリで飛んだ今回の旅。

 LCC参入の時代ゆえ、そのノリが許されてしまう。

 往復2万円程で香港に行ける時代。

 

 初体験の海外LCC香港エキスプレス航空は快適だった。

 機内食も水もブランケットも全て有料だが、CAはスージー・ウォンみたいに小柄でツンとした若くてキュートな香港娘だし、早朝便だったのでコートにくるまって寝ているうちに着いてしまう。


 朝6時すぎに羽田を出て、10時すぎには香港国際空港に到着。

 サンダーバードに出てくるようなだだっ広い空港に、沢山の模型みたいな飛行機が停まっている。返還後にできた新しい空港は、九龍半島の西側沖、ランタオ島に接する空港のために作られた〝空港島〟である。イギリス人デザイナーによるもので、イギリス統治時代の置き土産だ。

 

 それでも私はパイロットの腕を試されるといわせたあの香港アプローチが有名な啓徳空港が懐かしい。
   街中に突っ込んでゆくようなスリリングな飛行は、まるで映画のワンシーンみたいでドラマティックだった。

 

  入国審査場は旧正月前の中国大陸からの買い物客で長蛇の列。

 そこを抜けると中華人民共和国香港特別行政区、つまり「香港」だった。

 

 20年ぶりの香港。

 香港エアポートエキスプレスの列車に乗る途中、なぜか懐かしい『Mr.BOO』のポスターが私を出迎えてくれた。そんな旅のはじまりが単なる偶然だとも思えず、目頭が熱くなる。

 

ネイザンロード上陸!
ネイザンロード上陸!

 

 九龍駅に着いたら、ネイザンロード沿いのホテル行き無料バスに乗車。

 ホリデイインゴールデンマイルホテルで降りて、九龍の目抜き通り、ネイザンロードに出る。

 

 「とうとうついたぞ、香港!」

 「待っててくれたよ、香港!」

 「どーんと行こうぜ、香港!」

 「ビューティフル、ワンダフル、マーベラス、香港!」

香港トラムの2階
香港トラムの2階

 


 映画『クレージー黄金作戦』(1967年)じゃないけれど、ネイザンロードのど真ん中で歌って踊るクレージー・キャッツのハナ肇と植木等と谷啓のような気分。

 みんな過去に香港は何度も行ってる香港通だというのに、この初々しさはなんだろう?


 さて、そんな我々が向かう先は重慶マンション。

 ここで日本円から香港ドルに両替するのだ。

 昔からここが利率がいいと言われていたが、2018年の今も利率はいいらしい。

 

 「Buy」の表示を見て数字が大きい方が利率がよい、といういことになる。

 両替所はあちこちにあるから5、6軒のぞいて決める。

 今回は通りすがりの日本人が利率のよい店を教えてくれたのでそこで2万円ほど両替。


 重慶マンションは映画『恋する惑星』(ウォン・カーウァイ監督 1994年)のロケ地でも有名だけれど、昔のバックパッカー男子の間では、やはり沢木耕太郎著『深夜特急』の方が馴染み深いだろう。

 台湾や韓国でも翻訳されたベストセラーだが、現在では同じ深夜でも『深夜食堂』がアジア中ではやっているらしいから、面白い。遠く冒険な旅をするより近くの気のいい食堂ってわけだ。


 さて、久々にみる香港ドル紙幣を片手に「カネだカネだよキンキラキンのキン♪」と小躍りしながら、地下鉄の尖沙咀(チムシャツォイ)駅へ。ここで、八達通(オクトパスカード)なるものを購入。

 英国のオイスターカード、日本でいうところのSuica(スイカ)やPASMO(パスモ)だ。

 これを買ってチャージしていれば、タクシー以外の乗り物、コンビニなどほとんどで使える便利なカード。当然ながら、iPhoneアプリなんかもあるそうだ。 

 

 ああ、20年前とはがらりと違う。

 地下鉄カードはあったけれど、そんな便利なICカードじゃなかったし、地下鉄もぐいぐい伸びている。私はまるで〝浦島太郎子〟の気分だった。


 地下鉄に乗って佐敦(ジョーダン)駅へ。

 九龍半島の下町の入り口とも言われ、庶民的な食べ物屋や問屋街や屋台街がある香港ローカルな雰囲気で有名だったが、この辺りも大陸系中国人観光客相手の宿や店の雰囲気に変わっていた。

 

 路地裏にひっそり佇む上海飯屋で遅めのランチ。

 秘密ルートでいろいろと香港最新情報を入手していた私は、とりあえず、昔の土地勘を取り戻すために「のら猫アンテナ」をくるくる。

 私ののら猫アンテナの感度は少しも鈍っておらず、目当ての店はすぐに見つかった。

 

 超ローカル色満載な店内は香港式ファミレスといった趣き。地元の奥様方や新聞片手のおじさんの姿に混じって「ンコーイ(すみませーん)」と久々の広東語を喋ってみる。
   ああ……快感。
  

 品のよい澄んだスープの上海麺に肉厚排骨。

 田うなぎの炒め物に舌鼓を打つ。実にうまい。

 

揚げスフレ、茶碗ビール、香港トラム
揚げスフレ、茶碗ビール、香港トラム

 

 すると、隣の卓で不思議なスイーツらしきモノにかぶりつく姉さんたち。

 あれはなんだろう? メニューをみると「揚げスフレ」とある。

 早速オーダー。揚げたスフレの中にカスタードが入ったフワフワトゥルトゥルの不思議新食感のスイーツに、1食目にしてノックアウト。「アイヤー! こんなの食べたことがない!」と、思わず椅子から腰が浮く。

 相変わらず、香港の食は本当に裏切らない。

 油断大敵、夜までお腹を空かせるために、街を歩き回ることに。


 背中にリュックひとつ、街のあちこちを歩く。

 ジョーダン駅から地下鉄でビクトリアハーバーを潜り、香港島の中環(セントラル)駅まで渡る。

 今回の旅のテーマのひとつ「オールド香港を歩く」。

 英国統治時代、最初に香港の拠点となった香港島中環界隈。

 「オールド・タウン・セントラル」と呼ばれ最近人気のスポットだ。

オールドタウンセントラルと店番猫
オールドタウンセントラルと店番猫

 

 ビクトリアピークに向かって勾配がある土地に古い石階段、猫が横切るだけで、味わい深い情景と化す街並み。

 歴史的建造物も多く、最古のビクトリア監獄跡や香港警察寮跡などはリノベーションされ、若者たちが集う新しいカルチャーとして根付いている。

 私の知らぬ間にいろんな名所旧跡が新たな人気スポットになっていて、ちょっと驚かされる。


 長く英国統治時代を背景にする香港は、混合文化が特徴的だ。

 英国と香港、古さと新しきもの。 

 ウェリントン街やハリウッドロードなど、街の通りの名称も英国統治時代のままで漢字表記を見ているだけでも面白がっている、相変わらずの私。

 

 そして香港といえば、食。

 のら猫のごとく尻尾を立てて、階段、小路をするすると美味いものを求め彷徨うのだ。
 上を向いた小鼻をツンと突き出し、クンクンと美味しいものが香る方へとひたすら吸い寄せられてゆくのだった。

 

   そして香港のお楽しみは、夜と早朝にあると私は思っている。

 

 香港島名物2階建トラム。
 LFDDネオンで賑やかな街に人や車が交差する、その合間をするする動く小さな2階建トラム。香港島の北側を東西に走る路面電車だ。

香港トラム
香港トラム

 

 

 1904年からその姿はほとんど変わっていないらしい。
  車体の広告も名物で、昔は味の素、今回はあのエルメス号や子宮頸がん予防の広告なんかも見かけた。
   満員トラムにぶら下がるぶらさがるように飛び乗り、支払いはオクトパスカードでスムーズだ。ポケットの小銭探して大変だった昔はどこへやら。

 

 夜、トラムに乗ってノースポイント(北角)まで行く。

 北角あたりは『トランスフォーマー』でも有名になったあの巨大集合住宅があったり、古い香港島の名残や街には香港の闇がまだ感じられると聞いた。


 賑やかな表通りを横切ると、路地裏には闇ができ、そこでは香港チェスを打っている男たちや裸電球の大排當(香港式屋台)で賑わう薄暗い街角がある。

 昔は通りのあちこちで移動式大排當と警察のいたちごっこに遭遇するのも香港の風物詩だった。時代とともに大排當は衛生指導のもと、屋根のある建物の中におさまってしまった。

 映画だって、街だって、光と闇があるから面白いのに。

 煌々とLEDライトで照らされたしらじらと明るい街は確かに安全だろう。

 でも、白々とした明るさからは、陰影を礼賛することなどもない。便利なだけで、趣に欠ける。

 

 初日の夕飯は、そんな辺りに闇が忍び寄る市場の上にある大排當へ。

 殺し屋がマシンガンを抱いて現れそうな貨物用エレベーターの横で、私は揚げた蛙の脚をつまみに、茶碗酒ならぬ茶碗ビールを飲みながら、そんなことを思っていた。

 

香港うまいもの
香港うまいもの

 

 それにしてもこの茶碗ビール。割と古くからあるガテン系(ブルーカラー)香港スタイルな飲み方だが、実際こうしてビールを飲んだのは初体験。

 すっかりほろよい気分で千鳥足。大音量で音楽が鳴り響く中、あちこちの円卓では歌ったり踊ったり。香港映画のワンシーンのように超盛り上がっている。


 ここの大排當は映画関係者にも人気らしく、英国の名女優も訪れた地元では有名店。元々フレンチやイタリアンをやっていた店主のオススメメニューは、香港では珍しいイカスミやカタツムリ、鳩やドリアンなどメニューの種類も豊富。安くて大勢で盛り上がるには最高に愉快な大排當だ。


 大排當を後に、北角からまたトラムに乗って中環まで戻る。

 深緑色のシンプルな車両、古い木枠の窓を開けるとひんやりした夜風が頬に心地よい。どこに視線を向けても絵になる香港の夜を堪能。

 

 寝静まった金融街を抜け、宿のある蘭桂坊(ランカイフォン)に戻る。蘭桂坊は外国人や香港の若者で朝まで賑わうナイトスポット。金曜の夜、クラブやバーからは人が溢れ身動きもできないほどの盛況ぶり。

北角の街は古い香港の闇がまだある
北角の街は古い香港の闇がまだある

 

 

 ここで愉快な仲間たちはナイトクラブへ。

 私は部屋でまったりテレビを見ながら、香港の夜に抱かれて眠りについた。

 

 つづく

 

洞口依子(どうぐち・よりこ)

名前 :洞口依子(どうぐち・よりこ)

プロフィール:女優。1980年、「週刊朝日」11月7日号の表紙を飾り、雑誌「GORO」で篠山紀信の「激写モデル」として芸能界デビュー。85年、映画「ドレミファ娘の血は騒ぐ」(黒沢清監督)の主役に抜擢された。この時共演した伊丹十三監督の「タンポポ」「マルサの女2」に出演。テレビドラマでは92年の「愛という名のもとに」(フジテレビ)、97年の「ふぞろいの林檎たち」(TBS)などで個性的な演技を披露し、女優としての地位を確立した。2004年に子宮頸がんを発病したが克服し、06年に復帰。07年には闘病生活を綴った「子宮会議」を発刊。女優業の傍ら、ウクレレバンド「パイティティ」でライブ活動もしている。週刊文春「シネマチャート」連載中。