【特集】「脱プラ」で出遅れる日本で異彩放つ化学メーカー

漁網に絡んで死んだウミガメ(米海洋大気局提供)
漁網に絡んで死んだウミガメ(米海洋大気局提供)
2018年10月20日
共同通信共同通信

 ウミガメを始めとする生き物が被害に遭ったり、海岸を埋め尽くす衝撃的な映像などで世界中で注目を集めるとともに、対策が急務となっているプラスチックごみ。この流れを受けて、筆者の住むベルギーでも最近大きく変わったことがある。それはスーパーで商品を入れる袋。野菜や果物の量り売りはかなり前から増えていたが、その袋が認証マーク付きの生分解性バイオ・プラスチックでできているものに取って代わったのだ。

 背景には、欧州で脱プラスチック、いわゆる「脱プラ」が加速している現状がある。環境意識のさらなる高まりと相まって成長が期待されているのが、バイオ・プラスチック業界。ここでリーダーシップを取っている企業の一つは日本の化学メーカーだった。

▼出遅れる日本

 化石燃料時代から再生エネルギーへ―。「クリーンエネルギー革命」とも言われる動きを受けて、新しい産業とそれに伴う雇用の育成を目指し、欧州連合(EU)とその加盟国は政産学を挙げて懸命に取り組んでいる。持続可能な発展への努力に加え、2020年に始まる地球温暖化対策の国際協定である「パリ協定」を実現するために不可欠な脱炭素、そしてプラスチックごみ(プラごみ)対策にも、躊躇(ちゅうちょ)している時間はないという雰囲気だ。

 プラごみ政策を見てみよう。EUは15年に「プラスチック袋指令」を採択。手始めに、小売店のレジ袋の大幅削減に着手した。さらに、同じ年に「循環経済パッケージ」、今年1月にはその第1弾に当たる「プラスチック戦略」を発表。はその第1弾に当たる「プラスチック戦略」を発表。そして、プラ食器やペットボトルなどといった「使い捨てプラ」を禁止する歴史的に重要な法案が、今まさに採択されようとしている。

 一方、1人当たりのプラスチック消費量でアメリカと肩をならべて世界第2位の日本。レジ袋消費量は年間300億枚、ペットボトルは227億本と世界トップレベルだが、リサイクル率はたったの19%(世界的な定義では熱回収は含まない)。世界で60カ国以上が、レジ袋を法規制する中、先進国で自主規制のみにとどめているのは日本だけとなっている。

 そんな中、自国でのプラスチック規制を強化する「海洋プラスチック憲章」への署名を、日本は6月にアメリカとともに拒否した。それに対する後ろめたさもあってだろう。ようやくプラごみ問題が連日のようにメディアで取り上げられるようになった。

 環境省も遅ればせながら、来年6月までに「プラスチック資源循環戦略」を策定するとともに来年度予算で生分解プラや紙代替品に取り組む企業に補助金を出す方針を発表した。しかし、経済産業省や経団連との調整にはまだまだ時間がかかりそうだ。

▼期待集めるバイオ・プラ

 EUが進める戦略の中核は何か? それは消費行動の「考え直し」を通じて(1)安易な「プラ依存」から脱却を促す(2)使い捨てを大規模に削減する―ことだ。だが、実現するのは容易ではない。それゆえ、EUは産業や雇用、健康などといったあらゆる分野をまたぐだけでなく、加盟国の垣根も超えて、技術革新の喚起や投資環境の整備を進めようと懸命なのだ。

 もちろん、人々の考え方を変えるための働きかけは必須だ。このため、EUは重要と判断した産業を育成するため予算内に設けている「欧州戦略投資基金」を集中的に充てるほか、EU自身が出している研究助成金や外郭機関の欧州投資銀行(EIB)なども含めて、プラ依存からの脱却を実現する方向の施策を積極的に行っている。

 そんな欧州で今、「使い捨てプラ廃止」に向けて期待を集めているのが、「生分解性バイオ・プラスチック」だ。マクドナルドやネスレ、イケヤが立て続けに「使い捨てプラ廃止」を宣言できた背景には、これまであったリサイクル技術に加えこのバイオ・プラの存在が大きいといえる。

 バイオ・プラとは大きく分けて次の2種類。「植物由来の原料で作られたもの」ないしは「バクテリアなどの微生物が水と二酸化炭素に分解する、いわゆる『生分解』される性質を持つもの」だ。そうなると、生分解するが石油由来のものや、植物由来だが生分解しないものも含まれることになる。なぜこのようなことになるのか? その一因として、「生分解」という概念そのものがきわめてややこしいことが挙げられる。まず、大前提として、温度や酸素、期間といった条件を定めなければ意味を持たない。さらに、現実的なプラごみ対策という観点から言うならば、気候がさまざまに違う地域における海洋や土壌において、せいぜい1年未満で生分解することが求められるのだ。

 さらに、いわゆる「疑似」生分解プラスチックも出回っている。この「疑似」生分解性プラは、目に見えなくなるほど細分化されるものの分解される訳ではないので、自然界に残り続ける。このことが、生態系へ与える影響はきわめて深刻だ。現在のプラごみ問題を考える上で最も効果的なのは「土壌や海洋中など自然環境の中で生分解するバイオ・プラ」だが、それを普及浸透させるのはなかなか難しい。

▼リーダーは誰?

 このように正しい理解と普及が困難なバイオ・プラの理解促進に努め、業界を引っ張っていこうとしているのが、ドイツ・ベルリンに本部を置く「ヨーロピアン・バイオプラスチックス」。EUや加盟国の政策立案者へのロビー活動やカンファレンスの開催、業界内外のネットワーキング支援などを行っているが、このややこしい生分解性バイオ・プラ推進のために認証制度を作り、認証マークの普及浸透にも努めている。その中核を担う企業の一つは、なんと日本の化学メーカーである「カネカ」だ。同社の現地法人でブリュッセルにある「カネカ・ベルギー」で、生分解性プラの原料となる「生分解性ポリマー」のセールスやマーケティングなどを担当する部門を統括している尾崎行仁さんとルプードル博士に話を聞いた。

 カネカが、生分解性ポリマーの開発を始めたのは今から20年も前のことだったという。「当時、日本ではプラごみは焼却すればよいとされてきたので需要はさっぱりでした」と尾崎さん。ところが、EUの主要機関が集まるベルギーに欧州の拠点を置いたことが、奏功する。2000年代初めから、生分解性という分野に対する手ごたえが強くなっていく。この時期、欧州が持続可能な発展に大きくかじを切り始めたことが追い風となったのだ。

 そして、11年に生分解性ポリマーPHAの一種である、カネカ独自の「PHBH」の開発に成功する。同時に、欧州バイオ・プラ業界団体でもリーダー役を担うことに。現在、PHBHは日本の工場でのみ製造し、欧州へ輸出している。来年末までに生産量を5倍に拡大するべく、生産計画を見直すとともに生産環境の整備に対する投資も決めたが、欧州における需要はこれまで以上の伸びが予測され、さらなる生産拡大は必要そうだ。

 カネカのPHBHを始めとする生分解性ポリマーは他の生分解性物質とブレンドされた後、生分解性プラとなる。これが果物や野菜の量り売り袋などとなって広がりつつある。とはいえ、紙コップ内側の防水フィルムやプラ食器、野菜や肉のパッケージや菓子類の包装まで用いられるようになるにはもう少し時間がかかるだろう。現時点ではまだ、コストが高いからだ。

 世界の石油資本大手なども、自社の製品ラインアップに代替プラなどを加えようとしているが、商業ベースに乗っているのはまだ数社。スタートアップや研究機関が、コストダウンのためのブレークスルーや、業界再編成のリデザインでしのぎを削っているところだ。現状について、ルプードル博士が説明してくれた。

 バイオ・プラのコストダウンが実現し、飛躍的に広がり、ごく当たり前になる日は意外に近そうだ。戦後の経済発展を可能にした化石燃料時代は確実に終わろうとしている。その時代を制したものが21世紀の新しい経済モデルの覇者でもいるのは並大抵のことではない。10年後、20年後の世界有数企業の顔ぶれが楽しみだ。(ブリュッセル在住ジャーナリスト、佐々木田鶴=共同通信特約)

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