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【第36回】図書館の公共性守れ 急速に進む「民営化」  危機訴える元館長

2017.9.9 0:00
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小郡市立図書館の書架や蔵書について説明する永利和則さん。「図書館人は自分の仕事の大切さを、もっと利用者に広く伝えなければいけない」と語る=2月14日、福岡県小郡市(撮影・後藤貞行)
小郡市立図書館の書架や蔵書について説明する永利和則さん。「図書館人は自分の仕事の大切さを、もっと利用者に広く伝えなければいけない」と語る=2月14日、福岡県小郡市(撮影・後藤貞行)

 「図書館の指定管理は融通が利かない。教育現場との連携も取れない。職員も居着かない。そんなことで、公共性が守れますか」
 今年3月4日、東京都中央区の日本図書館協会で開かれたセミナーの席上、福岡県小郡市立図書館の前館長、永利和則さん(62)は、集まった全国の図書館関係者や市民に、静かに問い掛けた。
 指定管理はいわゆる民営化のこと。新しい形の図書館として全国で急増中だ。永利さんは指定管理、市直営の両方を経験した数少ない図書館長として危機を訴えた。

 

 

 

 

 

 

 ▽意思統一図れず

返却図書をチェックする司書の中村文さん。本を借りた数を競うようなイベントには「読書の効果は冊数で測れるようなものじゃない」と疑問を持つ=2月14日、福岡県小郡市の小郡市立図書館(撮影・後藤貞行
返却図書をチェックする司書の中村文さん。本を借りた数を競うようなイベントには「読書の効果は冊数で測れるようなものじゃない」と疑問を持つ=2月14日、福岡県小郡市の小郡市立図書館(撮影・後藤貞行

 佐賀県武雄市図書館が「TSUTAYA(ツタヤ)図書館」として全国的に名をはせた2013~14年、各地から武雄市に押し寄せた視察団の多くが、隣県の小郡市立図書館にも立ち寄った。06年に指定管理を導入したものの1期3年で市の直営に戻し、多様な事業で本好きの子どもを増やしたからだ。視察団の質問は、直営に戻した理由と、実績を上げた取り組みに集中した。
 中村文さん(52)は小郡市立図書館の司書。設置準備室に民間会社から派遣され、指定管理導入時、受託した公社の職員に立場が変わっても、ずっと勤め続けてきた。
 6~8人いた正規職員が指定管理では3人に減り、短期雇用の非常勤職員が充てられた。書架を整理し、貸し出し記録から欠品を見つけたり、案内や書架のレイアウトを変更したり、閉館時間の仕事も多岐にわたるが「開館時間を長く」「休館日を少なく」という要請が強まった。「職員のシフトが複雑になって、全員が集まる機会が少なくなった」と振り返る。
 「問題は、意思統一が図れなくなったこと」と中村さん。例えば差別的表現のある書籍や、罪を犯した少年の名前が出た雑誌を書棚に並べるかどうか。利用者の照会に答えるには、全員で話し合って一致した見解を持たなくてはならないが、時間が足りなかった。
 

 ▽学校と連携

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 この図書館に計3回、21年にわたって勤めた永利さんは、大学の史学科を卒業して地元の小郡市に就職した。1987年に市立図書館が新設されたのが転機。設置準備室に配属され、当時最先端と言われた関東の図書館に派遣されて実務をたたき込まれた。
 2008年に指定管理を受託した公社に出向する形で館長となり、運営の難しさを痛感する。新しいイベントや事業を思いついても、出向の身では市当局にじかに相談できない。現場からの発案も減った。年3千万円余りの経費は削減されたが、お金だけの問題なのかと自問する日々。「読書のまちづくり日本一」を掲げた当時の市長の方針で直営に戻ると、直ちに職員に呼び掛けた。「新事業のアイデアを出し、どんどん実現しよう」
 学校の図書館や学級文庫に提供している本は学期ごとに入れ替える。学校で読書リーダーを養成する。書店にあるような宣伝用ポップの書き方をプロから教わるイベントを開く。国の食育推進の補助金で、絵本に出てくる食べ物を学校給食に出す…。職員のアイデアが次々に実現した。
 永利さんは「力を入れたのは、教育現場と連携して子どもの読書を増やすこと。直営ならば、市の教育委員会と学校の情報も共有できる。密に連絡を取り合い、予算化の相談も容易だった。手応えを感じた」と語る。
 

 ▽姿勢の問題

 今、指定管理の導入を巡り議論が戦わされる全国の自治体を講演で飛び回る永利さん。どこでもこんな話をする。
 「表現の自由や知る権利、健康で文化的な生活、教育を受ける権利といった憲法の理念を万人に、無償で提供することが公共図書館の役割。利潤と効率化が求められる民営化では、最も手を付けやすい職員の雇用、新規事業予算から削られる」
 地方自治法改正により指定管理が可能になったのは03年。日本図書館協会の調べでは、市町村立図書館約3200館のうち15年度までに469館が指定管理を導入し、さらに増える勢いだ。同時に職員の非正規化、職員に占める司書の割合の低下などが進む。
 「直営か民営化か、ではなく、利用者や首長が地域にどのような図書館をつくりたいかという姿勢の問題。公共性を高めようとして初めて、効率化優先の弊害に気づくんです」。永利さんは、図書館を支える地域住民の役割にも期待している。
 2月のある日、小郡市立図書館の奥の書庫では、職員が市の子育て支援施設に持って行く本を選び、キャスター付き本棚に並べる。育児雑誌や育児書、医学書、子育てを扱ったエッセーまで、母親たちが関心を持つだろう本が積まれていく。ささやかな公共性が、その仕事の中に宿っていた。(共同=由藤庸二郎)

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