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憲法ルネサンス

日本国憲法施行から70年。「個人の尊重」に代表される憲法の価値に関わる生きざまや個性を通して、憲法について、あらためて考えてみたい。

【第30回】弁護士が裁判官に 「権力の補完機構」正せ  判断も劣化、OB苦言

2017.7.29 0:00
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「マル激トーク・オン・ディマンド」の収録に臨む(左から)瀬木比呂志さん、神保哲生さん、宮台真司さん。「パブリックではなく、ヒエラルキーの中で認められたいという裁判官が多い。上にいる人はそういう人たちばかり」と瀬木さんは分析する=2月3日、東京都品川区のスタジオ(撮影・牧野俊樹)
「マル激トーク・オン・ディマンド」の収録に臨む(左から)瀬木比呂志さん、神保哲生さん、宮台真司さん。「パブリックではなく、ヒエラルキーの中で認められたいという裁判官が多い。上にいる人はそういう人たちばかり」と瀬木さんは分析する=2月3日、東京都品川区のスタジオ(撮影・牧野俊樹)

 ニュース専門のネット局ビデオニュース・ドットコムが毎週土曜夜に動画をアップする「マル激トーク・オン・ディマンド」。2月4日は「裁判所がおかしな判決を連発する本当の理由」がテーマで、レギュラーの同局編集主幹、神保哲生さん(55)と社会学者の宮台真司さん(58)が、ゲストの元裁判官、瀬木比呂志さん(63)と東京都内のスタジオで議論した。
 「裁判所は権力のチェック機構のはずだが、日本の裁判所は権力の補完機構」。瀬木さんがまず厳しく斬り込んだ。
 

 ▽触らぬ統治問題

 神保さんが沖縄の米軍普天間飛行場移設を巡る裁判に言及し「国が相手だと、裁判所はけんもほろろ(で原告敗訴)。米軍が出てくると、問答無用(で原告敗訴)」と評すると、瀬木さんは「裁判所は統治と支配の根幹に関わる問題に触ろうとしない」と解説する。
 加えて、瀬木さんは自衛隊イラク派遣反対のビラを配るため、自衛隊の官舎に入った3人が住居侵入罪に問われた事件の最高裁判決を例に「現場は住居かといった形式論だけで、表現の自由との関係に踏み込まない。憲法に関わる大きなテーマほど、最高裁は判断を示さない」と批判した。
 ただ、原発の再稼働を差し止めた福井地裁や大津地裁の裁判官もいる。「地方を中心に異動している裁判官の中には、良心に従って判断する人がいる。しかし、福井地裁の裁判長は家裁へ。露骨な左遷だ」と瀬木さん。
 反対に福井地裁の差し止め決定を取り消した裁判官3人は、全員が司法行政を担当する最高裁事務総局に勤務した経験があった。瀬木さんは、事務総局に勤務した裁判官には(1)強い自己承認欲求(2)統治と支配の担い手意識(3)権力へのおもねり―などがあるとみている。
 「何のために裁判官をやっているのか」と宮台さんはあきれた。
 

 ▽無罪見逃す

b

 瀬木さんは東大在学中に司法試験合格。官僚機構の検察が嫌で、弁護士の仕事は泥くさく見え、憲法が「独立して職権を行う」と定める裁判官に。東京地裁や大阪高裁、静岡地裁浜松支部などのほか、最高裁事務総局に勤務、最高裁判事を補佐する調査官も務めた。主に民事の担当だった。
 「上司が決裁する事務総局はもちろん、裁判の現場も最高裁が判断を統制し、裁判所は官僚組織そのもの。自由主義者の私にはつらく、辞めたかったが、論文を書くなどして気を紛らわせた」
 やってみたかった東京地裁の裁判長を終え、2012年に依願退官。明治大法科大学院教授に転じ「絶望の裁判所」「ニッポンの裁判」「黒い巨塔」など裁判所を批判する著書を次々出版する。
 著書の中で「無罪判決が多い刑事系裁判官」と紹介する木谷明さん(79)。瀬木さんは「(木谷さんの)無罪判決は30件と多いが、担当事件は無作為に決まるので、彼にだけ無罪事件は回らない。大多数の裁判官は検察寄りで『推定有罪』だから、証拠をよく吟味せず、無罪を見逃しているのだろう」とみる。
 その木谷さんは「弁護士に転じ、なぜこんな証拠しかないのに有罪かと疑問に思うことが多々ある。私のやり方は多くの裁判官と違っていたのかもしれない」と話す。
 片や民事裁判では、裁判官の関心は、早くそつのない処理。おざなりの判決も多く、瀬木さんは「充実した審理は望めず、当事者は納得できないだろう」と指摘する。
 全地裁の一審で当事者本人や証人の尋問があったのは14・6%(16年、最高裁調べ)。ほとんどの訴訟は書面だけで判断されている。
 

 ▽「満足」21%

瀬木比呂志さんの講演を聞く千葉県弁護士会京葉支部の弁護士たち。会場から「裁判所は人口減への対応を考えているのか」という質問があり、瀬木さんは「皆無でしょう」と答えた=3月10日、千葉県船橋市(撮影・牧野俊樹)
瀬木比呂志さんの講演を聞く千葉県弁護士会京葉支部の弁護士たち。会場から「裁判所は人口減への対応を考えているのか」という質問があり、瀬木さんは「皆無でしょう」と答えた=3月10日、千葉県船橋市(撮影・牧野俊樹)

 3月10日、千葉県船橋市の千葉県弁護士会京葉支部会館。同市や同県市川市などの弁護士が瀬木さんの講演を聞いた。
 「2000年代の司法制度改革で弁護士は激増する一方で、民事訴訟は09年をピークに減少傾向に。訴訟利用者の調査で、裁判は『満足のいくもの』との回答は21%。司法への失望があるのではないか。改革は一部を除き、成功していない」
 続けて瀬木さんは、認知症の男性が電車にはねられ死亡した事故を巡り、名古屋地裁が妻と別居の長男にまでJR東海への賠償を命じた判決を挙げ「不正義も甚だしい。昔の平均的な裁判官なら100万円で和解するよう言い、JRが受けなければ請求棄却だろう。劣化している」と嘆く。
 こんな裁判所を正すには、裁判官は司法修習を修了したばかりの人ではなく、ベテラン弁護士などから登用する「法曹一元」しかないと瀬木さん。法曹一元は英米のほかオランダ、ベルギーが取り入れ、日本にならっていた韓国も導入に踏み切った。「弁護士と弁護士会が本気になって取り組んでほしい」と訴えた。
 弁護士白書によると、16年に裁判官へ転じた弁護士は3人にすぎない。(共同=竹田昌弘)

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