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心の中のレガシー 理想とは違う大会を糧に 茂木健一郎 「茂木健一郎の五輪探求」5回続きの(3)開催の実感

2021.8.3 15:00 共同通信
国立競技場を訪れた茂木健一郎さん=14日、東京都新宿区
国立競技場を訪れた茂木健一郎さん=14日、東京都新宿区

 

 2013年、東京五輪開催が正式に決まった時には、まさかこのような大会になるとは夢にも思っていなかった。


 東京だけでなく、日本中に祝祭感覚があふれ、世界中からお客さんが来る。競技を終えた選手たちが街に出て人々と交流する。そんな五輪になると期待していたが、現実は違っていた。


 東京に住んでいる人たちはそれでも、自分たちの街で五輪が開催されているのだという実感を求める。航空自衛隊のブルーインパルス記念飛行時に、私も空を見上げた。国立競技場の横で開会式の花火を見た友人から、動画が送られてきた。


 会場外に設置された五輪のエンブレムや、聖火台、街のあちらこちらのポスターやのぼりなど、わずかな手がかりから、本当に東京で五輪が開催されているのだという実感を得ようとしているのだろう。


 大会も半ばを迎え、新型コロナウイルスの感染拡大が予断を許さない状態になり、人々の気持ちは分かれてしまった。


 アスリートたちの活躍は掛け値なしに素晴らしい。一方で、大会モットーの「感動で、私たちは一つになる」という英文の目標が実現できているのか心もとない。


 東京の街で交わされる会話からも、感動から反感、支持から拒絶まで、さまざまなトーンの声が聞こえてくる。


 これから五輪開催と感染対策を両立させるためには、オリンピックでステイホーム、家などで観戦して選手を応援し、外出をできるだけ控えるのが良いのかもしれない。


 人間の脳には、与えられた経験を意味づけ、前向きの知恵に変える力がある。理想とは違ってしまったこの大会が、最後には私たちの生きる糧になることを望みたい。


 そんな中、子どもたちの心のしなやかさ、みずみずしさを感じさせるエピソードも見聞きした。 ランニングをしていたら、公園で子どもたちが「金メダル!」と叫んで走っていた。友人が、子どもとソフトボールの日本対米国の決勝戦を見ている様子を伝えてきた。

茂木健一郎さん
茂木健一郎さん

 


 知り合いの幼子は、テレビを見ていて「大人になったらオリンピックしたい!」と叫んだという。


 東京五輪の本当のレガシーは、子どもたちの心の中にこそ生まれつつあるのかもしれない。(脳科学者)