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47リポーターズ

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北島康介と野村萬斎が語る東京五輪 発信したい「共生社会」と「スポーツの力」

2020.2.7 16:00 共同通信
野村萬斎さん(右)と北島康介さん
野村萬斎さん(右)と北島康介さん

 

 56年ぶりとなる東京でのスポーツの祭典まで、半年を切った。2020年東京五輪・パラリンピックの開会式、閉会式の演出チームで総合統括を務める狂言師の野村萬斎さん(53)と、04年アテネ、08年北京両五輪の競泳男子平泳ぎで2冠に輝いた北島康介さん(37)が、伝統芸能とスポーツの異なる立場からオリンピックの魂を語り合った。


 ―(司会)異なる世界で、お二人の接点、共通点はありますか?

 萬斎 北島さんが金メダルを獲得した04年アテネ五輪の時は、私は文化イベントとして古代劇場で、蜷川幸雄さん演出の「オイディプス王」に主演しました。私にとっても思い出深い大会ですね。

 北島 そうでしたね。

 萬斎 水泳は素人なんですが、ぜひ伺いたいのが北島さんのフォームの無駄のなさ、です。エネルギーを最小限にして最大の動力を伝えることが、すごく重要ですよね。

 北島 水の抵抗は空気抵抗と違って、体に何十倍も負荷がかかります。水を相手にするので、まず己を知り、水にどうパワーを伝えるか、日々の鍛錬で感覚を研ぎ澄ませていきます。その過程が楽しかったですね。できなかったことができるようになり、一つ一つ習得することが面白くて、長く続けられました。

 萬斎 探究心ですね。「水泳道」と言えるかもしれません。狂言も少ないシンプルな動きの中で何を極めるか、という点では共通しているかもしれません。胸の張り方、顎の引き方など、全てのバランスが取れて初めて隙なくちゃんと立っていられる。そのためには自分の感覚を研ぎ澄ませていないといけません。

 北島 水泳では、選手によって呼吸のし方、肘の抜き方などが違います。「これが完璧」というのはなくて、みんな一人一人泳ぎ方が違う。それは選手によっては持ち味、特徴にもなります。個性が生まれ、個性を極めていく、そういうところは水泳の面白さです。それは表現される方も同じかもしれませんね。

 萬斎 なるほど。

 北島 特に僕の種目の平泳ぎは、五輪の決勝に残る8人がみんな違う泳ぎをしていて、違いを見るのも面白かった。逆に、相手が持っていて自分にはできないことをライバルから勉強することも現役中はしていました。

 萬斎 相手の良いところを、自分の身に付けるわけですね。

 北島 でも、自分の芯がしっかりしていないと高いパフォーマンスが出せなかったり、自分に負けてしまったり、すぐ相手のことが気になってしまったりします。自己を高めるために相手のことを気にせず、ずっとプールの中で一つのことに集中してやるというのは、それはそれですごく地味でつらかったです。

野村萬斎さん(手前)と対談する北島康介さん
野村萬斎さん(手前)と対談する北島康介さん

 

 ▽集中して金

 萬斎 練習ではタイムが目標ですか。

 北島 練習はなかなかいい記録は出ません。

 萬斎 やはり、そういうものですか。

 北島 レースで極限のアドレナリンが出たときに、120パーセント以上の力が出ることがありました。舞台前の稽古はどのくらいのパーセンテージでやっていますか?

 萬斎 自分の中のある目標値に到達できるか。呼吸、息の深さや声、所作など、ある種の設計図を作って、それに合わせて体をプログラミングする感じはあります。ただ、実際の舞台ではお客さんの反応があります。お客さんが反応すればそれこそアドレナリンが出て、うまく作用すればいい舞台になります。相手役との呼吸もあります。レースに入っていくときはどんな心境ですか?

 北島 調子がいいときには本当に集中してるので、五輪で金メダルを取った時は、視野がすごく広かったです。

 萬斎 おお! そうなんですね。

 北島 相手が何をしているのか逐一情報が入ってきて、なおかつ冷静で客観的に見えていました。あの感覚はもう、引退後はないですね。あのとき見えていた景色や自分のことを感じることは、引退してからはありません。

 萬斎 僕も、特に若いうちは自分の能力が上がってくるのを感じることがありました。(源平の屋島の合戦を語る)「奈須与市語(なすのよいちのかたり)」を初めて手掛けた時、1人で15分くらいずっと物語るのですが、稽古で出ないようなものすごい声の伸びが本番でありました。舞台で一番伸びしろが出て、120パーセントになるという経験ですね。北島さんがおっしゃった状況に近いのかもしれません。いわゆる「ゾーンに入る」という感じなのではないかと思います。

 ▽皆で打ち勝つ

 ―萬斎さんは今回、開閉会式の演出を手掛けます。北島さん、選手として開会式にはどんな思いがありますか?

 北島 僕は開会式に出たことはありません。レースが控えていたので。

 萬斎 そうですよね。今回、式典はアスリートファーストにしたいと思い(長時間になる)入場行進をできるだけ短くする努力は鋭意やっています。一方で選手一人一人をちゃんとおもてなしして紹介しなければならないので、簡単に済ませるわけにもいかない。とはいえ、何とか飽きずに皆さんと楽しめる開会式にしたいと思っています。

北島康介さん(手前)と対談する野村萬斎さん
北島康介さん(手前)と対談する野村萬斎さん

 

 ―北島さんの中でも印象に残る開会式は?

 北島 最初に出た00年シドニー五輪の開会式が強く記憶に残っています。選手村の真横がメインスタジアムで、一歩外に出たら花火も見えた。「五輪に来たんだなあ」と感じました。初めて出るわくわく感もあった。開会式には出ないけれど、選手村のテレビで見ていました。日本チームで一つのテレビを見ながら、日本の選手が入場してきた時にはぐっと胸が熱くなりました。明日からレースで自分の役割をきちんと果たさなければならないぞ、と思い「よし、やってやるぞ」という気持ちになりました。

 ―復興五輪もテーマとなりますね。

 萬斎 式典は開催国の紹介も含むので、コンセプトも重要です。東日本大震災をはじめ国内外で災害が起こり、世界では戦争も多い。その中で(主題のひとつとする)「鎮魂と再生」が大きな意味を持つと思います。日本には共生社会を営んできた歴史がある、ということを世界に発信したい。皆で災害に打ち勝つ、という一体感が日本の土壌にはあります。

 ▽聖火の下

 北島 楽しみですね。伝統芸能や日本の歴史と、今ある科学や映像との融合は、見ている人たちも楽しめるのではないでしょうか。日本の良さを発信することはいいと思います。いろいろな国で五輪を見ると歴史を見られる。その国がどう発展してきたか。それが平和へのメッセージにもつながります。

 萬斎 特に開会式は、太陽の下、万物は平等で同じスタート台に立つ、ということが一つのあり方でしょう。生命力の源は太陽で、聖火が象徴する。ただ、あまりお国自慢ばかりだとだんだん嫌になると思うので、デジタルもアナログも、最新も伝統も使いながらお見せできたらいいと思っています。地球という星がちょっと疲れている中で、日本は共生社会という概念で生きてきたことを、式典の範囲で残せればと思っています。

 ―選手の「復興」への意識は。

 北島 震災の後、選手たちも「スポーツの力」と口にするようになりました。プレーで勇気づけたい、元気にしたいと。自分たちもこんなことができるんだ、って思うようになった。だからリレーとかチーム競技に日本中がより力を入れて応援するようになったのではないでしょうか。

対談する野村萬斎さん(右)と北島康介さん
対談する野村萬斎さん(右)と北島康介さん

 

 ―式典は萬斎さんが総合統括で、五輪の開閉会式は映画監督の山崎貴さんが統括などと多くの方が関わっています。

 萬斎 クリエーティブディレクターがたくさんいるのも、多様な日本社会の縮図であって、それぞれの個性があってこそでしょう。地球という一つの星の上で、多様性を認めながら、東京を中心とした同心円をつくって、皆、生きているんだというようなことを絵解きで見せられればいいなと思っています。

 ―どんな五輪、パラリンピックを期待しますか?

 北島 日本の選手には、自分たちのホームグラウンドで、気持ちよく活躍してほしいなと思います。金メダルだけではない感動も、たくさんの選手たちが与えてほしいし、「あの選手のようになりたい」と思う子どもたちが増えてほしいとも思います。ちょっと元気がない地球で4年に1度、スポーツで世界中が盛り上がって、元気になってくれれば。ましてや、地元東京で行われる五輪。自分がその東京五輪を見て「出たかったな」と思わせてくれるものであってほしいです。

 ―1月24日で五輪開幕まで半年となりました。

 萬斎 恐ろしや。本当に天気がよくなることを願います。式典のメインのテーマはしっかり決まっていますが、やはり大事なのはバックアップ。普通の風雨くらいならともかく、台風やゲリラ豪雨で、続けられる状況ではない時にどうするか。考えないといけないと思っています。

 北島 選手は競泳なら4月の日本選手権の一発選考。けがもできないし、練習もサボれない。本当に研ぎ澄ませていかなければならない。