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訴える言葉の「力」になる 雪崩事故で高1の息子を失った奥勝さん 【実名報道 遺族は思う】(5)

2020.3.20 7:30 共同通信

 36人が亡くなった京都アニメーション放火殺人事件では、多くの遺族が実名を公表しないよう求め、被害者の氏名を報じる必要性やマスコミの取材の在り方が問われた。同じように事件や事故で突然家族を失った人たちは、どのように考えるのか。それぞれの体験を踏まえ報道への思いを5回にわたって聞いた。(第5回聞き手、共同通信=当木春菜)

インタビューに答える奥勝さん
インタビューに答える奥勝さん

 

 息子の公輝(まさき)の名前は有無を言わさず公表されましたが、名前を出すかどうかの選択肢があれば、拒んだと思います。親にとって子どもが死ぬのは一番の不幸です。事故直後は、少し触れられたら血が噴き出すんじゃないかという気持ちでした。

 息子は2017年3月、山岳部の部員として栃木県那須町であった登山講習会に参加し、雪崩に巻き込まれて亡くなりました。高校1年でした。

 当時、マスコミは敵側という先入観がありました。生活を乱され、息子のあることないことを書かれるのでは、と恐れました。息子がどういう子か知らない人から、不幸で不運な子と言われるのが苦痛でした。

 ただ、他の遺族の記事を読んでうらやましくも思いました。最初で最後のつもりで17年6月、息子の誕生日に合わせて初めて取材を受けました。他の子のように、自分の息子の生きた証しを残したいと、初めて積極的に実名を出しました。

 今も取材を受けるのは、納得できる再発防止策もないまま登山を認めた県教育委員会などの姿勢に不信感があるから。事故から約3カ月後、自粛していた高校の登山が再開すると聞き、「息子の死が無駄になる」と感じました。訴える言葉に力を持たせるには、実名を出すべきだと思います。

 事故直後、人柄や遺族の悲しみを取り上げようとする姿勢が批判されるのは、報道の目的が分かりにくいからかもしれません。部活動での登山の是非や事故の検証ならば意義があると分かりますが、人柄を報道する意味は、遺族でないと理解しにくいし、説明もしにくい。

 京都アニメーションの放火殺人事件の直後は、焼け焦げたスタジオの映像が繰り返し写され、凄惨な亡くなり方に焦点が当たっているようにみえました。家族を失ったショックを考えると、実名公表を拒否した気持ちにも同意できます。

 息子や私たちを責めるような報道、世論が大勢だったら、今でも実名報道への抵抗感は強かったと思います。取材を受ける中でマスコミを信用できるようになりました。

 適正な報道がされている限り、実名報道はあるべきです。ただ、遺族が直後にマスコミを信用するのは難しい。一定の配慮があるべきだし、マスコミの姿勢が問われていると感じています。
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 おく・まさる 1971年、富山県生まれ。那須雪崩事故遺族・被害者の会の共同代表として再発防止を求めている。

 栃木県那須町雪崩事故 2017年3月27日午前8時半すぎ、栃木県那須町のスキー場周辺の国有林で、県高等学校体育連盟登山専門部の講習会に参加した高校山岳部の生徒ら40人超が雪崩に巻き込まれた。県立大田原高の生徒7人と教員1人が死亡。指導的立場の教諭3人は停職処分となり、県警は今年3月、業務上過失致死傷容疑でこの3人を書類送検した。

 

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