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男性尿失禁に再生医療 尿道括約筋に幹細胞注入 国内治験が終了 

2020.3.31 0:00
 ぼうこうにたまった尿が漏れないのは「外尿道括約筋」という筋肉が尿道を周囲から締め付けているためだ。しかし、何らかの原因で括約筋の機能が低下すると、くしゃみなどで腹に力が入っただけで尿が漏れる「腹圧性尿失禁」を起こすことがある。男性では、前立腺がんや前立腺肥大症の手術が大きな要因となる。患者は常に尿漏れの不安を抱え、日常生活が妨げられる。この疾患を患者自身の脂肪から取り出した幹細胞を使って治療する再生医療の国内治験がこのほど終了した。
 
 

 

 ▽パッドで対処
 前立腺がんの患者会「NPO法人腺友倶楽部」で活動する都内在住のAさん(64)は、10年ほど前にこのがんであると診断された。下腹部を切開し、前立腺を全て切除する「前立腺全摘除術」を受け、手術は成功した。
 この手術の後には、大半の人が意思と関係なく尿が漏れる尿失禁を経験する。尿漏れパッドや失禁パンツで対処するが、通常は時間の経過とともに症状は改善する。術後3カ月で60~70%、6カ月で約80%、1年で約90%の人はパッド不要になる。一方で、その後もパッドを必要とする人が約10%いる。Aさんもその一人だった。
 「くしゃみやせきをしたとき、急に重い物を持ったときなどに漏れる。今は40ccの吸収力があるパッドを1日1回交換しています」とAさん。
 だが数年前、酒を飲んで失敗したことがあるという。尿量がパッドの吸収力を超えて漏れ出てしまったのだ。また、温泉や銭湯の脱衣所では周囲の目が気になる。パッドの購入による経済的負担も決して軽くはない。
 
 

 ▽括約筋に注入

 そんな悩みを抱える人たちの治療に、新たな選択肢が加わるかもしれない。患者自身の幹細胞で外尿道括約筋を再生する世界初の手法だ。名古屋大、金沢大、信州大、独協医大が共同実施した医師主導治験が終了、治療に用いる装置についてメーカーが医療機器としての承認を国に申請した。

 代表者の後藤百万(ももかず)名古屋大教授(泌尿器科)によると、治療は次のような手順で進む。まず、全身麻酔をした患者の腹部から皮下脂肪約250グラムを注射器で吸引。次に採取した脂肪組織を特殊な分離装置で処理し、幹細胞のみを抽出する。幹細胞は尿道口から挿入した内視鏡を使って外尿道括約筋に注入。さらに幹細胞と脂肪組織を混合したものを、この括約筋周辺の尿道粘膜下にも注入する。

 脂肪吸引から注入までは3時間以内。治療後3カ月~半年ほどで徐々に機能が改善するという。
 治験は手術後1年以上尿失禁が続き、失禁量が中等度以下、薬物治療などで効果が得られない成人男性45人を対象に2015年から始まった。
 ▽推定100万人
 治療後は1年間経過を観察し、有効性と安全性を評価。後藤教授は「有効性では『尿失禁量が50%以上減った人が30%以上』という目標をクリアした。安全性も、脂肪吸引による痛みなど軽度の合併症はあったが、幹細胞注入による副作用はゼロだった」と話す。
 国内には男性腹圧性尿失禁の患者が推定約100万人いるが、有効な薬物治療はほとんどない。重度の患者に対しては、シリコーン製の器具を体内に埋め込み、尿意を感じたら尿道に巻き付けたリングを手動で緩めて排尿をコントロールする「人工尿道括約筋埋め込み術」という治療法があり、保険も適用されているが、軽度から中等度の尿失禁には適切な治療法がないのが現状だという。
 後藤教授らは装置の承認後、この新しい治療法の保険適用を目指す考えだ。(共同=赤坂達也)

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