移植の匿名性、どう守るか SNS普及で新たな課題 橋渡し機関は対応に苦慮

骨髄や臓器の提供者(ドナー)と、移植を受けた患者(レシピエント)の情報が相互に伝わらないようにする「匿名性」の維持は、移植医療において最も重要な原則の一つだ。しかし近年、インターネットの発達や会員制交流サイト(SNS)の利用者拡大により、原則が崩れかねないケースが相次いでいる。移植の橋渡し役である日本骨髄バンクや日本臓器移植ネットワークは対応に苦慮している。
▽制度を変更
「『手紙交換制度』におけるSNS等への掲載防止対策を強化」
骨髄バンクが毎月発行するニュースレターの1月15日号に、こんな見出しの一文が掲載された。

骨髄バンクは従来、住所や氏名など個人を特定できる情報が含まれないことをバンクが確認した上で、移植後1年以内に患者とドナーが2回まで手紙を交換することを認めてきた。
しかし近年、届いた手紙の画像を筆跡や内容が読み取れる形でブログやSNSに掲載したり、テレビで紹介したりする人が増えた。書いた本人や家族が目にすれば「私に提供してくれたドナーはこの人」と、あるいはその逆でも、容易に分かってしまう。このままでは匿名性を守れない。
やむを得ず今後、患者側については登録時の同意書に「SNS等に掲載/公開しない」という項目を追加、ドナー側についても、掲載や公開をしない旨の承諾書を提出してもらった上で患者からの手紙を渡すように制度を変更した。
▽削除を要請
「特に患者が子どもの場合、拙いながらも一字一字懸命に感謝の気持ちを書いてくる。受け取ったドナーのうれしさはよく分かります。逆に患者がドナーからの手紙を受け取れば、その後の治療に臨む勇気にもなる。交換制度を存続させたいからこその変更です」と折原勝己ドナーコーディネート部長は話す。
なぜ匿名性が重要なのか。骨髄などの提供はドナーの自由意思による善意の行動だ。しかし互いの身元が分かると、提供の対価を求めるようなトラブルが生じかねない。海外では、宗教の勧誘につながったり、病気の再発時に患者が直接ドナーに再提供を求めたりした事例もあったという。
だが、ネット上を見渡せば、文面を写した画像がいくつも見つかる。筆跡が不鮮明でも、便箋が特徴的であれば、これも特定に結びつく。
こうした掲載を見つけた場合は削除を要請するが、「本来『私信』なので強制もできない。あくまでもお願いベースです」と折原さん。しかし、応じてもらえないこともあるという。

▽ブログに日付
事情は臓器移植でも同じだ。例えば脳死肺移植を受けた男性のブログ。闘病生活や、ドナーに対する思いが生き生きとつづられているのだが、移植手術を受けた日付が繰り返し書かれている。
年間で千件を超える骨髄移植と違い、脳死臓器提供は1例目から21年たっても計700例に満たない。「ドナーの家族が日付を見れば、身内が提供した臓器だとすぐに分かります」と移植ネットの雁瀬美佐広報・啓発事業部長は心配する。
海外渡航移植のために募金活動をしていた患者が、国内で移植を受けた場合も悩ましい。ホームページには名前も居住地も載っている。移植直後に募金停止の理由を掲載すれば、提供したドナー家族や関係者には簡単に分かってしまう。
さらに「友人○○が臓器提供した」といったSNSでの発信もある。
雁瀬さんは「個人の情報発信を強制的に止めることはできない。丁寧に説明し、配慮をお願いする努力を続けています」と話している。(共同=赤坂達也)