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伝統文化に根ざす第3の性 男女間を行き来、社会貢献 サモア

2020.2.19 17:27 共同通信

 8月の週末の夜、南太平洋に浮かぶサモアの首都アピアの体育館。ステージを取り囲む階段状の客席は約2千人のサモア人や観光客でほぼ埋め尽くされ、空調が十分に効かないほどの熱気に包まれた。
 熱い視線を集めるのは、ステージ上でショーを繰り広げる7人の“女性”たち。装置と見まがうほどの豪華な衣装に身を包んで闊歩(かっぽ)したかと思えば、スタイルを強調する露出の多い水着姿を披露。ちょっとした寸劇を演じては笑いも取る。
 一見、民間主催の女性対象のミスコンテストのようだがそうではない。このショーは年に1回の「ミス・サモア・ファファフィネ・パジェント」。ファファフィネとはサモア語で「女性のような」の意味。男性に生まれながら女性として、あるいは女性のように生きることを選んだ人たちで、サモアの「第3の性」だ。人口約20万人の同国に5%程度存在する。
 パジェントはその年の「サモアの顔」となるファファフィネを選ぶ、国を挙げての行事。閣僚が来賓としてあいさつし、人権団体や国連機関も協賛に名を連ねた。

豪華な衣装に身を包み、ステージ上で声援に応える「ミス・サモア・ファファフィネ・パジェント」の参加者。手前の出場者がグランプリに選ばれた=19年8月、サモア・アピア(共同)
豪華な衣装に身を包み、ステージ上で声援に応える「ミス・サモア・ファファフィネ・パジェント」の参加者。手前の出場者がグランプリに選ばれた=19年8月、サモア・アピア(共同)
 

 ▽人の道に反する
 「ステージでは花や星に囲まれた気分で本当に興奮した。幸せな居場所を見つけた感じ」。初めて出場したパジェントで5位になったペトラ・トラビス(28)は2日後、アピア郊外の地元で、こう振り返った。
 幼少の頃から「自分は女の子」と思って育った。だがサモアには敬虔(けいけん)なキリスト教徒が多い。両親はファファフィネを認めず「神がこの世で創造したのは男と女だけだ」と諭した。通っていた教会でも信者から「ファファフィネは人の道に反する」と責められ続けた。女の子っぽさから学校ではいじめに遭うこともたびたびあった。
 それでも18歳の時にファファフィネとして生きようと決意。今は生き方を認めてくれた両親の面倒をみながら暮らす。

「ミス・サモア・ファファフィネ・パジェント」のステージ裏で準備をするペトラ・トラビス。メークや衣装を担当するのもファファフィネだ=19年8月、サモア・アピア(共同)
「ミス・サモア・ファファフィネ・パジェント」のステージ裏で準備をするペトラ・トラビス。メークや衣装を担当するのもファファフィネだ=19年8月、サモア・アピア(共同)

 ▽西洋文化と一線
 ファファフィネは19世紀にキリスト教が伝来する前からサモアに存在したという。家族や地域など共同体を重視するサモア社会で、家事や高齢者、子どもの世話など主に女性に割り振られた役割を担う。過去には男の子ばかりの家庭で、女性の仕事をさせるために親があえて選んだともされる。時に保守的な教会に存在を否定されながら根付いてきた。
 同性愛のゲイとは必ずしも同義ではない。男性を恋愛対象とするケースも多いが、女性と結婚して子どもをもうける場合もある。
 海外で性適合手術を受けたり、女性ホルモンを投与したりする人もいれば、トラビスのように身体に手を加えないまま女性として生活する人も。一口にファファフィネと言っても「女性らしさ」はそれぞれだ。
 「ファファフィネは西洋社会で言う『性的少数者』とは一線を画す」というのはパジェントを主催する「サモア・ファファフィネ協会(SFA)」の創設者トゥイシナ・イマニア・ブラウン(56)。サモアの伝統的な文化に根ざした独自のアイデンティティーだと説明する。ブラウン自身は手術を経て2人の養子の母親になった。
 ブラウンによると、2009年にサモアを大津波が襲った際は、いくつかの地域で男女別に設けられた避難所をファファフィネが自由に行き来。うちひしがれる被災者に支援の手を差し伸べ、行政当局者らから高く評価された。

 ▽地域の世話人役
 政府機関や銀行、商店、市場…。アピアを歩けば、多くの場所で目にし、サモア社会に定着しているように見えるファファフィネ。だが、SFA会長で弁護士のアレックス・スア(38)は「認められてはいるが、完全には受け入れられていない」と感じてきた。
 「幼少時からバービー人形やフラワーアレンジメントが好きで、女の子とばかり遊んでいた」というスアもいじめに遭いながら育った。いじめっ子を見返したい一心で勉学に励み、成績は優秀だった。だが、大学時代を過ごした南太平洋のバヌアツではファファフィネであることを理解されず、孤独感にさいなまれ続けた。
 それでも今はファファフィネとして社会貢献できることに喜びを見いだせるようになった。パジェントの収益金は病院や慈善団体に寄付しているが「ファファフィネは古くから地域の世話人役だった」との自負からだ。
 弁護士としては、公的な文書の性別欄に「男性、女性」以外に「ファファフィネ、その他」を加えることが目標だ。
 ブラウンは19年「トランスジェンダーのロールモデルになろう」と国際レズビアン・ゲイ協会(ILGA)の事務総長選に立候補して当選した。
 サモアを離れての活動が続くが、ファファフィネの権利拡大に心を砕く。「目指すはファファフィネの国政参加。そのうち議員が誕生すると思う」と期待を込めた。(敬称略、文・板井和也、写真・仙石高記)

取材後記

おおらかで頼もしい存在

地図
 

 実はパジェントの開催日は予定より1日ずれ込んだ。会場となる体育館が前月の料金を滞納していたという理由で電気が止められたためだ。
 これ自体が小さな島国特有の緩さを感じさせる出来事だったが、ファファフィネたちも慌てた様子は見せず、一大イベントなのに当日の準備もどこかのんびり。みなおおらかであくせくしない。開演直前の楽屋にさしたる緊迫感はなく、穏やかな雰囲気が漂っていた。
 それでもきらびやかで楽しいショーをしっかり作り上げ、観客を笑顔にした。ファファフィネたちはどこかでスイッチが入るというか、肝が据わっているのだろう。頼もしい存在だと思った。

 

 

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