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アプリが移動の自由保証 定額制の乗り放題も フィンランド  

2020.2.19 17:03 共同通信

 マイカー通勤の車が道路にあふれ朝夕には大渋滞が―。世界の多くの都市が頭を痛める大問題をスマートフォンのアプリを使って解決しようとする街が出てきた。その先進地が北欧のフィンランドにある。
 首都ヘルシンキの中央駅を出ると、路面電車(トラム)、バスが走り、地下鉄の駅もあった。駅前広場には貸自転車も。これらに加え、タクシーまで「定額」乗り放題にしてしまう利用者に優しい改革が進んでいる。

 ▽ユーザー目線
 「今日はレンタサイクルを使っての出勤です」。ハッリ・ニーミネン(36)が会社近くの駐輪場でスマホのアプリ「ウィム」を見せてくれた。地図に目的地を入れれば、バス、トラム、徒歩など利用できる全ての移動手段とかかる時間、料金が一目で分かる。

スマホアプリ「ウィム」で通勤方法を決めるハッリ・ニーミネン。この日は自転車を使った=19年8月、ヘルシンキ(共同)
スマホアプリ「ウィム」で通勤方法を決めるハッリ・ニーミネン。この日は自転車を使った=19年8月、ヘルシンキ(共同)
 

 日本にある経路検索や乗り換え案内のアプリに似た感じだ。異なるのはそのまま予約やチケットの購入ができ、毎月の定額制も選択できることだ。サービスデザイン会社に勤めるニーミネンは、このウィムを使用して2年ぐらいになる。
 「マイカーは売ってしまった。持つ意味を考えたが、単なる習慣だった」と苦笑する。車の維持・管理費に毎月約400ユーロを払っていたが、今は62ユーロの定額コースを愛用する。地元の公共交通機関などが乗り放題だ。それに加えて、タクシーも5キロ以内なら1回10ユーロ、レンタカーも1日49ユーロと定額で使える。
 「タクシーなどに月100ユーロは払うが、それでもかなりお得になっている。交通機関はアプリが教えてくれるので選ぶだけでいい。ユーザー目線なので、移動の不自由さは感じない」
 訪れた8月には、電動キックスクーターを借りる人が目立っていた。「これやカーシェアリングのサービスもこの定額コースに入れてほしい」

 ▽過去のモデル
 ウィムを運営する企業が「マース・グローバル」だ。2016年に試験的に始め、17年に運用を本格化させた。現在の利用者は約10万人、約65万人が住むヘルシンキ市とその周辺の人口を考えれば、人気ぶりが分かる。
 「人の移動手段に対する出費のうち76%がマイカー、残りが公共交通などだ。車への支出がゼロになればもっと他の方法を使えるはず。車はとても便利だが、1日で使っている時間はわずか4%しかない。効率性、環境を考えれば所有はもう過去のモデルだ」
 最高経営責任者(CEO)のサンポ・ヒエタネン(45)がデータを示しながら強調する。社名のマースは「サービスとしての移動」を意味する英語の頭文字「MaaS」のこと。マイカー以外の移動手段を一つのサービスとして捉え、使用者側の視点から便利にするよう迫るコンセプトだ。
 彼はその生みの親ともされる。「06年に携帯電話の定額制を公共交通にも適用することを思い付いた。その後にこの表現が生まれた」と振り返る。

マース・グローバル社CEOのサンポ・ヒエタネン。アプリを使って公共交通をより使いやすくする先駆者だ=19年8月、ヘルシンキ(共同)
マース・グローバル社CEOのサンポ・ヒエタネン。アプリを使って公共交通をより使いやすくする先駆者だ=
19年8月、ヘルシンキ(共同)
 

 現状について「インターネットの動画サービスも携帯も定額制の導入によって利用者が爆発的に増え便利になった。ウィムを使う人は普通の人より多くトラムやバス、タクシーなどを利用している」と分析した。
 地球温暖化や渋滞対策のため「自家用車を禁止しろと言うような政治家は落選するだろう。でも公共交通で移動できる自由を保証すれば『マイカーは要らない』と言えるのでは。ウィムならそれが可能になるはずだ」と力を込める。

 ▽持続可能性を
 鉄道やバスなどを運行する事業者は「私たちにとって協働するパートナーだ」とヒエタネンが話す。マイカーに頼らざるを得ない公共交通が少ない地域では、多くの人を一度に運べる自動運転のバス導入が待たれる。ベンチャー企業「センシブル4」はバスを使った実験を公道で実施中だ。
 CEOのハッリ・サンタマラ(37)が車内を見せてくれた。16人が乗れる長さ4・5メートルの丸っこい車体。デザインは無印良品を展開する良品計画が提供した。愛称は「GACHA(ガチャ)」、おもちゃが出てきそうな名前だ。
 見渡すと、運転席はなく卵形の応接間に入ったよう。「四つのレーダーを搭載しているので、吹雪、霧、大雨などで前が見えなくても安全に走れるのが売りだ。21年の実用化を目指している」
 このバスは、駅など交通の拠点まで人を運ぶ役割が期待される。「決まったルートを走るのは簡単。将来はスマホからの呼び出しで向かうようにしたい。変革はよりよい方向に社会を変えるはずだ」と胸を張った。
 一方、ヒエタネンが懸念を口にした。「完全な自動運転になれば、みんなドア・ツー・ドアを選ぶだろう。車の台数が倍になり都市は大混雑になるという予測もある。都市の持続可能性を考え交通体系を整えなければ」。技術の進歩と未来の関係は複雑だ。(敬称略、文・諏訪雄三、写真・西村庸平)

取材後記

戦略性を見習おう

地図
 

 フィンランドが次世代の移動サービス「マース」に積極的に取り組むのは、世界市場をリードすることで国の経済を活性化させる戦略を持つからだ。携帯電話で世界を一時席巻したノキアの成功をもう一度という思いもあるのだろう。
 政府は鉄道、タクシーなど乗り物ごとに分かれていた業法を一本化し、各事業者には時刻表や料金などのデータの開放を求めた。これによりアプリを使ったサービスが展開できる環境を整えた。所管する運輸・通信省の官僚は「極めて小さい国だが、技術立国という自負がある。絶えず産業界と何をすべきか話し合っており、変化は恐れない」と語る。新しい産業が生まれる機会を捉え後押しする。見習うべき点だ。 

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