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試合中の乱闘で再浮上 NFLにはびこる人種問題

2020.2.18 12:04 生沢 浩 いけざわ・ひろし
スティーラーズのQBルドルフ(中央)をヘルメットで殴りつけるブラウンズのDEギャレット(右)(AP=共同)
スティーラーズのQBルドルフ(中央)をヘルメットで殴りつけるブラウンズのDEギャレット(右)(AP=共同)

 

 2019年シーズンの第11週のブラウンズ対スティーラーズ戦で起きた乱闘中に、スティーラーズのQBメイソン・ルドルフのヘルメットを無理やり脱がし、さらにそれでルドルフの頭部を殴ったとして無期限の出場停止処分を受けていたブラウンズのDEマイルズ・ギャレットが、2020年シーズンから復帰を許されることになった。

 NFLのロジャー・グッデル・コミッショナーと面談を行い、処分解除が認められた。ギャレットの出場停止は6試合で終了することになった。

 

 「事件」を簡単に振り返ると、ギャレットからサックを受けたルドルフが激高してギャレットともみあいになった。

 その際にギャレットはルドルフのフェイスマスクをつかんで振り回し、ヘルメットを脱がしてしまう。さらにそれをルドルフの頭に振り下ろすという行為に出た。

 これに怒ったスティーラーズCモーキス・パウンシーがギャレットに暴行を加え、さらにブラウンズのDLラリー・オグンジョビがルドルフを突き飛ばすという乱闘騒ぎに発展した。ギャレットのほか、パウンシーとオグンジョビも出場停止処分を受けた。

 ヘルメットで相手を殴打するという前代未聞の行為に対し、どれだけ厳しい処分が下されるかが注目された。これが今後、同様のケースに対するNFLの処分の基準になるからだ。

 

 現役選手がフィールド外で逮捕もしくは告訴されるなどの不祥事を起こした場合は、最低でも2試合以上の出場停止処分になる。

 薬物規定違反の場合は4試合の出場停止が基準で、繰り返すごとに期間が長くなり、最終的には事実上の永久追放もあり得る。

 

 ギャレットのケースは即座に「無期限停止」が決定された。しかし、2019年シーズンの試合が既にすべて終了していることもあり、シーズンオフを境にギャレットの「復権」が認められた。つまり、今後はこうした行為の出場停止処分の基準が6試合になるということだ。

 

 これが適切かどうかは議論の余地がある。ゲーム中の暴行に対する処分は2~4試合の出場停止処分に加え罰金というのが通例だ。

 それに照らせばギャレットは十分に処分を受けたといっていい。ただし、本来なら頭部を保護する目的で着用するヘルメットを武器として、しかも相手の頭部を狙って振り下ろした行為は罪深いという見解もあるだろう。

 

 この件はもう一つの問題を含んでいる。それはルドルフが差別用語を使ったとギャレットが主張している点だ。

 ギャレットは一貫して、ルドルフがアフリカ系アメリカ人を侮蔑する単語を使ったと主張しており、今回の処分解除の決定後に行われた有力スポーツメディアとのインタビューでもあらためて強調している。

 ルドルフはこれを否定し、スティーラーズのマイク・トムリンHCも「あの乱闘後にブラウンズの関係者とも話したが、差別用語があったという証言は出てこなかった」としてルドルフを擁護している。

 

 こうした議論は「言った」「言わない」の水掛け論で終わってしまうのが常だが、それで片づけてしまってはNFLは今回の問題を単なる乱闘事件で終わらせることになる。

 問題は依然として人種問題がNFL内にはびこっているという事実だ。

 

 NFLではGMやHCを新たに雇う場合、少なくとも一人はマイノリティー(社会的少数者、NFLでは主にアフリカ系アメリカ人やヒスパニック系を指すことが多い)を候補者として面談しなければならないというルールがある。

 これはスティーラーズの前オーナーである故ダン・ルーニー氏が提唱したので「ルーニールール」と呼ばれる。

 最近ではこのルーニールールがおろそかになっているとの批判がNFL内にはある。マイノリティーに対する配慮が以前に比べて欠けている印象は否めない。

 

 ギャレットはNFL入りから最初の3年間で30サック以上を記録するなど、ドラフト全体1位指名にふさわしい活躍をしている選手だ。

 その選手が出場資格を再び得たことは歓迎したい。ただし、彼がルドルフに行った行為の重大性をきちんと検証し、さらに彼が主張している差別発言の背景にある人種問題に向き合わなければ真の解決にはならない。

 今回のことを単なる乱闘騒ぎとして片づけてはならない。

               

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

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