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「大切なのは基礎中の基礎」 トライアウトのお話(後編)

2020.2.12 17:40 中村 多聞 なかむら・たもん
CFL関係者の話を聞くトライアウト参加者=2月1日、富士通フロンティアーズフィールド
CFL関係者の話を聞くトライアウト参加者=2月1日、富士通フロンティアーズフィールド

 

 今回も、トライアウトの受験者側の問題を指摘したいと思います。

 日本代表を目指したり海外のプロテストを受けようとする人達ですから、フットボールの巧さや実績はどなたも申し分ないと思います。ただ、参加者の大半はこの体力テストの重みを侮っていましたね。

 

 11月にシーズンが終わった選手は丸2カ月の準備期間があったのに、この間にテストの攻略法を研究していない参加者が多すぎるように思いました。

 しっかり練習してきている人と、天才的に器用な人以外は軒並み成績が良くありませんでした。

 

 全ての種目で攻略法があり、NFLコンバインを受ける米国人の9割以上の人がこれらを克服しようと、とてつもない量の練習をしてきています。専門のアカデミーなども存在します。当然の努力方法でしょう。

 

 映像をひと目見れば、その人がどれだけ努力してきたか分かるというのは前回お話しました。

 この僕でも分かるのですから、プロの試験官なら当然気がつくでしょう。彼らも真剣に仕事をしに来ています。努力していない人を自国へ招待するはずがありません。

 

 日本の試合で、日本人や本国じゃプロになれないレベルのアメリカ人を相手に結果を出しているかどうかなど、彼らにとってはどうでもいいのです。

 アメリカ人やカナダ人を相手にどれだけやれるのか、やれそうなのかが重要なのです。この理論はこのコラムでも過去に何度か書いていますし、本場の関係者から見た日本人選手は、よほど際だった特徴がなければ誰でも同じなのです。

 

 後半は防具をつけてポジション別のスキルテストです。ここでもビックリの光景が見られました。

 NFLのスーパースターが試合前や練習時によくやる、ジャージーを胸元までたくし上げたスタイル。あれは誰が見ても「〇〇選手がこんなところにいる! サインをもらおう!」となるほどのスターだから成り立つ格好です。

 

 試験を受けに来た人がなぜユニホームを着て来いと言われているのか、よく考えましょう。

 番号と所属チームがすぐに分からないと、走り方やシルエットだけじゃ誰か判別できないからです。

 それなのに自分が大スター気取りなのか、番号が見えないようにジャージーをクルクルっと上げてしまって、結果誰か分からない。そもそも大した動きでもないから誰だろうとまあいいか、と失笑されていましたね。

 

 トライアウトは、大まかに言うとNFLコンバインと同じような内容です。「ような」とつくのは40ヤード走と同様に、テストの意図や困難さを理解しない人が採点者から指示されたコースをフワーッとやるので、似てはいるけど微妙に違うのです。

 日本で実施するので使用できる用具も限られているので、そこは仕方ありません。

 

 そしてその課題の意図を特に気にせずに訓練もしてきていない受験者が、思い思いの自己流でトライするので、試験官たちはロクに見ていません。

 審査する対象としていないのですね。「いやいやいや、そんなんちゃうねん!」となってしまいます。

 

 それぞれのテストで、試験官から何を見られているのかを考えて用意して来ている人が少ないのは体力テストと同様でした。

 皆さん自然に持っているチカラを発揮すればそれでいいと思ったのでしょう。

 

 また、自分のドリルを数秒間披露し、元の隊列にちゃんと走って戻る確率が高いのは強いチーム所属の選手です。弱いチームの選手はダラダラと話しながらだったり、歩いて戻っています。

 「フットボールの練習は、ドリルをフィニッシュしてから戻るところまでが大切だ」ということを教育されていないわけです。

 弱いチームじゃうまくなるための時間が多く必要ですので、練習ではそれは重要視されないのでしょう。強いチームはそういうところにまで気を配り、しっかり仕事をするような「規律」があるわけです。

 

 そのようなことをルール化して、自らに課している選手が多いチームほど良い結果を残せています。これは僕が実際に所属したあらゆる地域、レベルのチームに、共通した「文化」として根付いています。

 

 日本のトップ選手は、練習や試合中にアドバイスを受けたり指導されたりする経験がほとんどないのでしょう。ガツンと言えるコーチがいないのもまた問題です。

 国内の試合では「成功すれば何でもいい」ということなのでしょうが、確かな目を持ったプロの試験官にアピールするテストでは少し勝手が違います。

 

 タイムや距離などで数値化される体力測定は記録だけを見るのですが、この場合でも走って戻るのは受験者の義務と言えます。

 測定中、少しくらい動きが変でも結果さえ良ければいいのですが、スキルテストでは全てフィギュアスケートや体操競技のような「採点競技」なので、どこでマイナス点が付くかを知っておかなければなりません。

 

 速さは「スピード感」、強さは「力強さ」というよく分からない単位に変換され、うまさは「基礎中の基礎」の部分をチェックされるのです。

 フットボールの全てのポジションで全ての動きに「基礎中の基本」の設定があります。つまり決まっているのです。

 

 じゃあそれが書いてある本を買うということになるのですが、残念ながら売っていません。

 日本で言う「わびさび、雅、空気を読む、シブい」などにこれといった定義がないのと似ています。

 長年日本に住んでいて、母国語であればこそ理解し得る微妙で複雑な感覚でありながら、当たり前な共通認識でもあります。

 「フットボールの基礎中の基礎」も、長きに渡って米国に根付いた無限の奥行きがある共通認識事項なのです。

 

 ボールをキャッチするにしても、シチュエーションごとに基礎事項も変わります。この場合ならこう、あの場合ならこれといった風に変化するのです。

 用意されているテストは前述したように、NFLコンバインと同じ内容の場合がほとんどです。試験官側は正解を持っていますので、間違った答え(捕り方)をしたらすぐにバレます。

 そして名簿の横に「バツ」が付き二度とチャンスは訪れません。飲食店の従業員に、不潔でぶっきらぼうな人を雇用しないのと同じです。応募してきても相手にすらされません。

 

 日本人でこだわりのキャッチ方法を厳しく体に注入されている選手は、この40年間でほんの数人です。

 しかし、日本のリーグで活躍しているレシーバーはたくさんいますので、ほとんどの有名選手が自己流で結果重視のスタイルだということです。

スキルテストの説明を受けるトライアウト参加者=2月1日、富士通フロンティアーズフィールド
スキルテストの説明を受けるトライアウト参加者=2月1日、富士通フロンティアーズフィールド

 

 でも、本来それでいいのです。捕るのが仕事だし、捕っているのだからいいのです。ただ、本場の人たちに認められようとするなら、彼らの求めていることを勉強して脳と体に注入しなければなりません。

 

 今回のトライアウトでの体力テストの数値は、僕が受験していた20年ほど前からさほど伸びていません。

 それに引き替え、NFLでは記録が毎年少しずつ伸び続けています。他競技なら100メートルを9秒台で走ったり、ベンチプレスで300キロを持ち上げる日本人も存在するのですから、人種など言い訳でしかありません。

 

 本場の人たちが大切に考えていることを理解していて努力を惜しまない。日本での順位は総合1位。そこを目指して「正しい方法」で頑張っていれば、いつかチャンスは巡ってきます。

 

 日本のフットボール選手は、作戦やチームワークのことばかりに関心を持たないで、もっともっと個人の能力にこだわりましょうよ。限界の限界まで個人能力を上げましょうよ。

 皆さんようなのセンスや経験があれば、もっとすごい選手になれると思うんです。テストの最後に日本代表の藤田智ヘッドコーチ(富士通シニアアドバイザー)が、全員にこのようなことを言っていました。

 「ここにいる日本トップの皆さんが上に行かないと、日本のレベルが上がらないんですよ」

 

 「お前らがシャキッとせえへんかったら、いつまで経ってもアメリカ人に舐められたまんまやねん。もっとガムシャラに思い切りやらんかい!」と聞こえたのは僕だけではなかったはずです。

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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