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チーフスのリードHCは気配りの人 人柄を肌で感じたスーパーボウル

2020.2.5 10:54 生沢 浩 いけざわ・ひろし
敗れた49ersのカイル・シャナハンHC(手前)を抱き寄せるチーフスのアンディ・リードHC(AP=共同)
敗れた49ersのカイル・シャナハンHC(手前)を抱き寄せるチーフスのアンディ・リードHC(AP=共同)

 

 NFLの第54回「スーパーボウル」は、チーフスの50シーズンぶり2度目の優勝で幕を閉じた。

 49ersとの好カードにふさわしい見どころの多い試合で、ビッグプレーで流れを変えたチーフスがそのまま逆転勝ちするという劇的な展開に魅了された。NFL100年目のシーズンを締めくくる、実に素晴らしいスーパーボウルだった。

 

 筆者は昨年に続きNHK―BSの中継でフィールド解説を務めた。試合後には悲願の初優勝を達成したチーフスのアンディ・リードHCに直接マイクを向けるという幸運に恵まれた。

 テレビ放送では画面が切り替わったとき、筆者はすでにリードHCと1対1で話す場面が映っていたが、実はその前にちょっとした出来事があった。

 

 インタビューする選手を探してフィールド上を歩いていた筆者は、リードHCがチーフス関係者に囲まれて移動するのを見つけた。

 意外に近かったので、後ろから追いかけてマイクを差し出して「おめでとうございます!」と声をかけてみた。

 しかし、HCの足を止めさせたくない関係者に手で遮られて突撃インタビューは失敗。と思った瞬間、2、3歩前に進んだHCが筆者のほうを振り返り「いいからこっちに来い」というように手招きをしたのだ。

 そして、近くに寄った筆者の肩に手をまわしながら「質問をどうぞ」と促してくれた。

 

 「ついにチャンピオンシップに手が届きましたね」と言うと「最高の気分だよ。聞いてくれてありがとう」と答えて筆者の頭をポンポンと2度たたくと離れていった。

 わずか6秒ほどの、インタビューと呼ぶにはあまりに短いやり取りだったのだが、リードHCの喜びとその人柄が感じられた時間だった。

 

 リードHCはイーグルスやチーフスを指揮し、それぞれのチームをプレーオフの常連に育て上げながらスーパーボウル優勝にだけは縁がなかった。

 14年間HCを務めたイーグルスではNFC決勝に5回進んで1勝4敗。2004年シーズンにはスーパーボウルに出場したが、ペイトリオッツに敗れた。

 

 2013年にチーフスのHCに就任し、昨季まで2014年を除いて毎年プレーオフに進出し、昨年はAFC決勝でペイトリオッツに敗退した。

 これでリードHCのカンファレンス決勝の戦績は1勝5敗となった。そのうち、ホームでの敗戦が3回ある。

勝利を決定的にし、選手からスポーツドリンクをかけられるチーフスのアンディ・リードHC(AP=共同)
勝利を決定的にし、選手からスポーツドリンクをかけられるチーフスのアンディ・リードHC(AP=共同)

 

 リードHCはレギュラーシーズンだけで207勝を挙げており、これは歴代7位の成績だ。

 彼の上位にいる6人はいずれもNFL優勝経験がある。かつてのマーティ・ショッテンハイマー氏やダン・リーブス氏のように、有能でありながら優勝には届かないHCたちと同列に扱われることが多かった。

 

 しかし、今季15年ぶりにスーパーボウルの舞台に戻ってきた。最初のスーパーボウル出場から2度目までに要した時間はディック・バーミール氏(元イーグルス、ラムズ、チーフスHC)の18年に次ぐ2番目の長さだ。

 そして、悲願の初制覇。タイムアップの瞬間、サイドラインでアシスタントコーチたちに囲まれてもみくちゃにされるリードHCの姿がテレビに映った。

 帽子は吹き飛び、メガネがずれる。これも珍しい光景だ。勝利HCはもっと凛としているものだ。アシスタントコーチに手荒い祝福を受けるところにリードHCの人望がうかがえる。

 

 リードHCは選手やコーチ、スタッフに絶大な人望があるといわれる。これはイーグルス時代も同じだったようだ。

 現役選手時代からリードHCを知るエリック・ビエネミー攻撃コーディネーターは、試合前に「アンディがスーパーボウルで優勝したら、私の涙は止まらないだろう」とまで述べている。

チーフスをスーパーボウル制覇に導いたアンディ・リードHC(左)とQBパトリック・マホームズ(AP=共同)
チーフスをスーパーボウル制覇に導いたアンディ・リードHC(左)とQBパトリック・マホームズ(AP=共同)

 

 細々としたところに気を配り、几帳面でありながらユーモアもある。リードの細やかな気配りを実際に体験した筆者は、彼を敬愛する周囲の人たちの気持ちが少し分かる気がする。

 これで名実ともにNFLを代表する名将の一人となった。引退後の殿堂入りも確実だろう。

 いつも厳しい現実を見せられるNFLだが、長年の努力が報われる光景は、やはり見ていてすがすがしいものだ。

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

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