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規格外の身体能力でNFLに革命 レーベンズQBラマー・ジャクソン

2019.11.13 11:00 生沢 浩 いけざわ・ひろし
ベンガルズ戦で自ら走ってTDを挙げるレーベンズQBラマー・ジャクソン(8)(AP=共同)
ベンガルズ戦で自ら走ってTDを挙げるレーベンズQBラマー・ジャクソン(8)(AP=共同)

 

 そのプレースタイルはもはや革命的と表現するしかない。NFLレーベンズのQBラマー・ジャクソンのことだ。

 

 抜群の運動能力に支えられた走力に加え、強い肩とパスコントロールのよさを併せ持つ。

 

 「モバイルQB」とか「ポケットパサー」といったプロトタイプな分類にはおよそ当てはまらない、まさに規格外な選手なのだ。

 

 

 今季これまで9試合に先発出場し、足で稼いだ距離は702ヤードに及ぶ。

 

 これはNFLで第11位(第10週終了現在)の成績だ。ラッシングトップ30傑に入るRB以外の選手はジャクソンだけだ。

 

 それどころか、ドルフィンズ、ジェッツ、ベンガルズ、ファルコンズのチームラッシング距離よりもジャクソンの個人記録のほうが上回っている。

 

 

 ジャクソンの脚力はルイビル大時代から折り紙付きで、2016年のハイズマントロフィー受賞時もラッシュ力が高く評価された。

 

 もちろんパスでも実力を発揮していたのだが、ポケットパサーを正統派とするNFLでは通用するのが難しいと考えられていた。

 

 彼を昨年のドラフトで1巡(全体の32番目)指名したレーベンズですら、ジャクソンがパッシングでゲームを組み立てられるQBだとは考えていなかった。

 

 

 昨年のレーベンズでは典型的なポケットパサーのジョー・フラッコ(現ブロンコス)がエースQBで、ジャクソンはフラッコとはタイプの異なる「チェンジオブペース」的な存在でしかなかった。

 

 しかし、シーズン途中でフラッコが故障で長期離脱を余儀なくされた。そこで初めてジャクソンにチャンスが巡ってきたのだった。

 

 

 結果的にジャクソンはチームを上昇気流に乗せ、そのまま正ポジションを奪うに至るのだが、昨年のレーベンズはジャクソンにほとんどパスを投げさせなかった。

 

 彼のラッシュだけでも十分に相手ディフェンスを翻弄できたことも理由だが、それ以上に彼のパッシングにはいまひとつ信頼を置けなかったのだろう。

 

 

 昨年は先発した7試合でパス試投数は最多でも25回だ。パス成功率は平均58・2%で、これは現在のNFLでは低い数字と言わざるを得ない。必然的に2年目にあたる今年の課題はパスの改善と思われた。

 

 ところが、今年の開幕戦ではドルフィンズを相手にいきなり五つのTDパスを成功させ、パサーレイティングは満点の158.3を記録した。

 

 メディアは「新生ジャクソン」と書き立てた。今年のジャクソンは走力を封印し、パスで勝負すると考えられたのだ。

 

 

 その予測は第2週には早くも裏切られる。カージナルス戦で120ヤードラッシュを記録。その後も自身のランを封じるどころか、ここぞという場面で積極的に走るスタイルが定番となった。

 

 ジャクソンのランはスクランブルに限らず、オプションプレーやデザインされたQBカウンターが含まれる。QBの故障を恐れるNFLでは実に稀なことだ。

 

 

 これまでにもラッセル・ウィルソン(シーホークス)、マイケル・ビック(ファルコンズ、イーグルス)、キャム・ニュートン(パンサーズ)などが脚力を生かして活躍してきたが、ジャクソンの瞬発力や加速力は彼らよりも一段階上のレベルにある。

 

 第9週にはあのペイトリオッツが何の対策も打てずに敗れ、今季初黒星を喫してしまったほどだ。

ペイトリオッツのQBトム・ブレイディ(右)と試合中に言葉を交わすレーベンズのQBラマー・ジャクソン(AP=共同)
ペイトリオッツのQBトム・ブレイディ(右)と試合中に言葉を交わすレーベンズのQBラマー・ジャクソン(AP=共同)

 

 

 第10週のベンガルズ戦では今季2回目のパーフェクトレイティングをマークした。

 

 同一シーズンで2回以上のパサーレイティング満点を記録したのは1950年以降、規定数以上のパスを投げたQBとしては史上わずか2例目ということだ(もう一人はスティーラーズのベン・ロスリスバーガー)。

 

 武器がランだけではないところに、ジャクソンのこれまでのプロトタイプに当てはめることのできない能力の高さを感じる。だからこそ革命的なのだ。

 

 

 ランを多用する以上、故障の懸念は常につきまとう。しかし、それですら回避してしまうのではないかと思わせる何かがジャクソンにはある。

 

 レーベンズのジョン・ハーボウHCは春のオフシーズントレーニングの際にジャクソンについて「我々はジャクソンによってNFLのオフェンスに革新的な進歩を及ぼすことになるだろう」と宣言した。

 それは今、現実のものになりつつある。

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

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